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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#3 シャーク・ガール
19/30

#3-8 私のやりたいこと

 ゆっくりと意識が浮上する。


「優也、起きたか?」


「……龍斗、さん?」


 ホッとしたような表情の龍斗さんが横向きに見える。いや、俺が横向きに寝かされているのか。左肩に体重を感じる。

 するといつのまにか耳につけられていたインカムから狛坂さんの音声が流れた


『学校内の人達は退避完了です。変身して焼却をお願いします』


「体は楽になった?止血して色々薬打って一時的に戦えるようにしたんだけど」


 支えられながらゆっくり体を起こす。周りをゆっくり見回すとどうやら体育館倉庫のようだ。右肩には短く切断されたパイプがまだ突き刺さっている。これを抜けば大量出血は免れないだろう。それなら変身の時の熱で溶かし体の穴は変身で埋めるのが得策だ。


 右肩はまだ痛むが、頭の痛みや視界の歪みはなく音もクリア。問題ない。


「すみません、ありがとうございます。いけると思います」


「よし。じゃあ加勢に入るぞ」


「……加勢に?」


「あの子にね」


 そう言って扉から体育館のフロアを見る。先ほどまで相対していたヒルワームと、あれは?


「何ですかあれ?鮫か?まさか新しい特異生物……!?」


「そう!そして聞いて驚け、あの子もSCRだ!」


「へぇSCR。……SCR!?」


 な、な、何で、俺たちの他にもSCRがいるんだよ!?

 俺の大声に反応したのか、その鮫の特異生物がこちらへ振り向き大声をあげる。


「優也、嵐巻先生!早く逃げて!」


「この呼び方……まさか海美か!?」


「そう。これが特秘事項。何でも鮫島財閥のトップが、娘を戦いから遠ざけたくて特異生物の存在すら悟られないよう協力要請があったらしいよ。そんでいつもご贔屓にしてもらってる鮫島さんちのお願いを聞いて、特秘事項になってたってわけ」


「はいそうですか……とはならないですけど!事情は後。今はとにかくやるしかないですね」


 ヒルワームへ拳を振るう鮫の特異生物はしきりにこちらを見ては逃げろと叫んでいる。


 体操服の左袖を捲り、ポケットからシリンジを一本取り出す。変身する前に確認で隣を見るとにやにやと物いいたげな様子の龍斗さんがこちらを見ていた。は?


 ひじでトントンと突かれる。なんだよ。


「それにしても、それにしても、さ」


「なんですかその顔気持ち悪いですよ」


「特異生物の焼却よりもあの子のこと守るの優先したの?いやぁ青いね!青い春だね!!」


「アイツがいると変身するところ見られるからできなかっただけです」


「いやいやいや、それ言い訳になってないよ??あの子のこと助けずに隠れて変身して戦うことだってできたのに、あの子のこと守ったんじゃぁん!」


 満面の笑みでバシバシと背中を叩かれる。うざ………


「目の前で知り合いが殺されるのは流石に気分が悪かっただけです。グダグダ言ってないで行きますよ」


「あいあい。そういうことにしときましょーね。じゃ、サクッと倒してHR戻らないとな!」


 ソケットへシリンジを差し込んでカチッとなるまで押して閉じる。



 Flame!Ready for injection!


 Storm!Ready for injection !



 腕輪のついた左腕を高く掲げ、前へから体の右側後ろまで円を描くように大きく回し、そのまま半身を捻った勢いで拳を握った左腕を前へ突き出す。左手首の腕輪にあるプランジャーに右手をかけ、プランジャーを押し込む!



「「change my feature!!」」



 Genes are promoted!



 周囲に熱風が吹きあれ、腕を横に一薙ぎすれば視界が開ける。右肩に突き刺さっていたパイプは溶け落ち、穴は変身で完全に塞がった。


「フレイム、変身完了」


「ストーム、変身かんりょーう!」


「え……えええええぇぇえぇえええ!?!?!?2人も私と同じなの!?」


 目の前で海美の絶叫が体育館中に響く。


「SCR、戦闘を開始する」


 体勢を低くし足に力を込めて一気に飛び出す。


「何ダオ前達!?人間ジャナイナ!?」


「お前を殺すバケモンだよ!」


 勢いをのせた拳でヒルワームの腹を床に叩きつけると、ヒルワームの表面の皮膚が裂け周りに大量の血が飛び散った。こいつ、どんだけ血を吸ったんだ?


 噛みつこうと頭部がぐるりとこちらへ向けられる。しかし、俺に届くことはなく龍斗さんの風が巻き起こした瓦礫の嵐ででズタズタにされていった。図体がでかいだけで大したことはないな。ヒルの体を何度も殴りつけながら腕に熱を込めて相手がこの熱で燃えるイメージをする。するとヒルの体は俺が殴りつけたところからゴウゴウと燃え始め、ギャァァァアァアアアアアアアア!?っと耳障りな不快な悲鳴をあげた


「……優也、すごい」


「よっと。鮫島ちゃん、怪我してない?」


「わぁっ!?あ……嵐巻先生?」


 後ろから海美と龍斗さんの会話が聞こえてくる。


「そうそう。ね、ちょっと手伝ってもらえないかな」


「え、て、手伝い?」


「そう!このでっかいのをフレイムの炎で焼き切るのは大変だからさ、鮫島ちゃんが小さく噛みちぎってほしいんだよね」


「や、焼き切るの!?これを!?」


「うんうん。それがルールだからね。じゃ、頼んだよ〜」


「あちょっと!?飛んだ!?てか風強!?」


 なお続く攻撃を簡単に避けながら楽しそうな後ろの会話が耳に入ってきた。ここは高校の体育館だしあまり爆発を大きくしたら壊れてしまう。別に壊していいんだけど、クラスの奴らが部活で使えなくなるのはな。


 爆発が小さく済むなら処理も簡単だ。そうしてもらえるとありがたい。


「海美、頼んだ」


「う、う、うん!やってみる!」


 そういうと海美がヒルの体の同じ部分を何度も殴る。あからさまに素人の動きだけど、よく見ると打撃の衝撃を与えるその一瞬だけ鮫の頭部に変形して噛みつき引きちぎるような攻撃だ。そうか鮫の咬合力を活かしてるのか!これなら打撃自体が弱くとも確実にダメージを負わせることができる。


 すると海美が続けざまに殴っていた拳をひゅっと引っ込める。ん?どうした?


「あっつ!?」


「……そういやこれ熱いか、海美には」


「なんで優也には熱くないの!?」


「俺の熱をぶつけてるんだから、俺がこの熱に耐えられないわけないだろ。体全体が耐熱細胞なんだよ」


「よくわかんないけど熱いなら先言ってよ!!ばか!!」


「誰がバカだ!」


「ア、ア、ア、ザセル、様ァ」


 バッとズタズタにされ動いていなかった頭部を見ると、口をぱくぱくと開き何かを呟いている。なんだ?


「セメテ、少シダケダモ、血ヲ、血ヲ!!!」


「っ!?」「きゃあああ!」


 ヒルが叫んだその瞬間にヒルの体の一部が弾け、血液と共に小さく黒い大量の何かが辺りに飛び散る。何だ!?


 ビタッと腕にくっついてきたそれを見ると、どうやら通常サイズのヒルのようだ。その瞬間ピンと来る。この状態でいつもいたのか!なら音は聞こえにくいしたくさんいるから場所も特定しにくいわけだ。この小さいのが集合してこの巨大ヒルになっていたところを叩けたらしい。ラッキーだったな!


 よく見ると体はパンパンに張り詰めており、どうやらこれを使って人血を誰かに渡そうとしているんだろう。誰かはわからないが、ろくなことにならないことは明白だ。


「こんなの一気に焼き尽」「キモッ!?こんなの私が一気に動きを止めてやる!」「はぁ!?」


 海美にドンッと押し除けられる。何やってんだコイツ!?


「この体の戦い方、わかってきた!これでどうだあああああ!!」


 海美は拳を突き上げると、そこへバチバチと電気が帯電しそのまま拳をさらに握り込む。すると無数の電撃が空気を走り、細かく分裂したヒルはその電撃にやられ黒焦げとなって動かなくなった。


 すごい、すごいんだけどさ……!!


 縦横無尽に走る不規則な軌道の雷をなんとか避けながら叫ぶ。


「おい周り見ろ!危ないだろ!?」


「えっ?あ、あ!ごめん!!え、どうしよ!!止め方わかんないよ!!」


「はぁ!?このアホ!!」


「アホ!?言いすぎでしょバカ!!」


「2人とも戦いに集中して!危ないでしょ!!」


 上から聞こえる龍斗さんの声でハッと我に返る。とにかく今はヒルを焼却するのが最優先だ!


「アアアアアアアア!!!」


 チリヂリになりながらヒルが最後の抵抗のようにこちらへ頭から突っ込んでくる。ちょうどいい。


 Burn up solutionをシリンジから取り出し、自分の腕に突き立てる。



 Burn up the mutation!



「──ファイナルフレイムアタック」



 音声と同時にヒルの体の中心を狙い拳を放ちながら突っ込む。ガチンと閉じられた歯を貫き体の中までも貫通していく。その瞬間俺の体の炎が爆ぜ、大爆発を起こす!


「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 爆発の炎はヒルの体を瞬く間に完全に焼き尽くし、その役目を終えると周りに超高温の熱風を吹き荒らして消えた。後に残るのは俺とこげとヒルが暴れ回った跡の残る体育館だけだった。海美が電撃でヒルをなるべく小さく細切りにしてくれたから爆発が小規模で済んだな。


 その功労者である海美は隣でハーッハーッと荒れた息をして……って、


「おい、大丈夫か!?」


「う、もう無理」


 そういうと海美の体が元へ戻っていく。力が抜け倒れる体を変身を解いた龍斗さんが支え、お姫様抱っこで海美を抱える。誰かに見られる前に俺も変身を解いてしまおう。頭の中を元の体のイメージでいっぱいにすると変身がゆっくり解けていく。


「海美、大丈夫か?」


「うーんちょっ」「ピンピンしてるよ!!」「……元気だね」


 目の前に突き出されたピースサイン。だけど細かく震えている。よく見ると体全体が震えているようだ。抱えている龍斗さんも苦笑い。

 なにがピンピンしてるだこれじゃ立つことだって難しいだろ。全く、


「無茶するな。というか、聞きたいことが多すぎる」


「それはこっちのセリフ!2人とも特異生物なの!?」


「お前SCRなのか?今まで外で普通に生活してたのか?」


「えすしーあーる……?なにそれ、知らない」


「えぇ……」


 まーまーま、と龍斗さんが間に入り特秘事項についてもう一度説明してくれる。


 鮫島財閥のトップ、鮫島厳夫の2人の娘のうち姉は過去の事件で死んでしまい、妹は生き残った。この生き残った妹というのが海美で、実はこの時俺たちと同じように変異した細胞に耐性を持っていた。さらに突然変異細胞によってもたらされる力を使いこなし、姿を変えて特異生物に対抗する術を持っていた


 しかし、俺たちのようにSCRに入れられるはずが、鮫島厳夫がそれを拒んだのだ。


 気持ちはわかる。命からがら生き残った大切な娘が、わけのわからない力を使って命懸けの戦いに出されるなんてどの親でも反対する。これが普通の家庭なら容赦なく親子引き剥がされていたことだろう。


 しかし、鮫島厳夫は鮫島財閥の圧力を使い、もし海美が勝手に連れて行かれるようなことがあれば鮫島財閥はSCRのことを公表し、さらに社会的・経済的制裁を与えると言い出したのだ。その代わり、海美にこれまで通りの生活をさせるということであればSCRを援助するとも申し立てた。SCRは緊急時、つまり人間に危害を加えた際、即時殺害できるようミューテーターをつけること、本人の意思で戦いを望めばそれを止めないことを条件に盛り込んで交渉し、鮫島厳夫はそれを了承した。それで海美はSCRのことは何も知らないままここまで普通に生活できたというわけだ。


 そしてこの学校の特異生物事件。事件の解決と何も知らない海美を守るための特秘事項というわけだったのだ。


 一連の話を聞きため息がでる。


「まぁ無理だと思ってましたけどね。どうせ戦闘になるし」


「それな。青春できたからよかったけど」


「は?」


「おっと失言」


「……そうだったんだ。私、特殊な力を持ってて変身できるってことと方法だけは伝えられてたけど、それ以外は何も知らずに生きてたんだね」


 悔しそうな顔で海美がこぼす。海美に非がない分どうしようもないことに悔しさを感じるのだろう。当然だ。だけど仕方ないことは置いておいて先のことを考えればいい。


「それで、海美はこの先どうすんの?」


「この先……?」


「契約上、海美がSCRに入るのを鮫島厳夫が止めることはできない。だからSCRに入ることもできるし、今日のことは何も知らなかったことにして普通の生活を送ることもできる。もし普通の生活を選ぶなら、今日のことはこっちでうまく誤魔化してやる」


「知らなかったことに……」


「そうそう。やりたいことすればいいからね、鮫島ちゃんは。あ、でもたまに優也とはなかよグブッ」


 余計なことを言う前に口を閉じさせる。モゴモゴと不満げな表情だが知った話じゃない。


「私、私がやりたいこと……は、」


 手をもじもじとさせ視線が俯いている。そう簡単に決まる話じゃないだろう。時間をかけてじっくり考えるべきだ。


「今決めなくともいい。時間をか」


「戦いたい!」


「け…………え?」



「私は戦って全部を知りたい。今まで知らなかったことも、これからの未来も!だからSCRに入りたい」



 龍斗さんに抱えられながらも興奮したような様子で捲し立てる。驚いた。あんなに怖い思いをしてもまだそんなことが言えるのか。

 まぁ初めて戦った後だし、それに勝ったこともあるし、そういうバイアスが入るのは仕方ない。でも……


「おぉ、思い切ったね」


 龍斗さんがニコっと笑った。でも笑顔こそ明るく親し気だけど。その目はいつものフレンドリーな感じじゃなくて、作戦中の鋭い感だ。海美が緊張したようにグッと押し黙る。わかるよ、この変わりようだけは俺だって慣れない。


「でも厳しいことを言うと、戦いは正真正銘命をかける。もちろん辛い痛い思いだって何度もする。心と体をゴリゴリ擦り減らしながら最悪な未来を知ることになるかもしれない。その覚悟はある?」


「っ………」


「今日の串刺しになった俺みたいになることだってあるだろうな。それより酷いことだってあるし、酷い決断を迫られることだってある。それこそ、この学校の人間ごと特異生物を焼却しろ、とか」


 今回それは禁忌だったけど。海美がいるおかげで。


「わ、たしは、」


 俯いていた海美が顔を上げと視線が合う。大きな瞳。その眼差しは迷いなどなく決意に満ちている。


「そんな決断、今はできない。弱いし、痛みも辛さもきっと2人ほど耐えられないかもしれない。」


「…………」


「でも私は自分のやりたいことをする。それが、それが例えどんな未来を招こうと、どんな痛みを伴おうと、その覚悟ならある!」


「………」


「……ふふふ」


 龍斗さんの肩が少し揺れている。緊張の糸を緩めるように、俺も苦笑を漏らした。


「な、何!何よ!」


「ふふふ、ふはは、いいね!そういうの好き。ねぇ優也」


「組織にも世間にも縛られず、自我を通す。ここまでピッタリな人材はないですね」


「は、はぁ?」


 わけがわからない。そう言いたげな表情。


「SCRのうちの部、特殊戦闘部隊ってのはね、都合のいい駒扱いなんだよ。意思がなければ大きな力に操られるだけの人形になっちゃう。右向け右!で右を向いて、そいつを殺せ!で殺して、ね」


「もちろん作戦に必要な命令は聞く。だけど本質は《命令に従うロボット》じゃなく《作戦の先にある自分の望みを叶えること》だ。命令に従うのはあくまで手段であって目的じゃない。その揺るがない意思さえあれば、きっと大丈夫だ」


「う……うん?」


 まるで伝わっていないな。わかりません、と顔に書いてある。気の抜けたその表情が面白くてクスクス笑ってしまった。ま、そのうちわかることだし


「……すげぇ」


「え?」「ん?」


 龍斗さんがこちらをみてポカンとしている。どうした?いよいよ頭がおかしくなったか


「優也がこんなに笑ってるの、なんか久しぶりに見た気かがする」


「……え」


「そうなの?いつもどんだけ仏頂面なの?」


「おい」


「いやいや嵐巻先生が言ったんだよ!」


「仏頂面つったのは海美だろ!」


「いやまぁそうだけど、だってそう思うじゃん!お兄ちゃんですらそんなに見たことないなんてずっと仏頂面ってことじゃん!」


「あ、そういや言い忘れてたけど、俺と優也は兄弟じゃないよ〜潜入のためにそう言う設定にしてただけね」


 は!?と海美が龍斗さんの方を見る。そういえばそう言う設定あったな。全くもって何の意味もなくむしろめんどくさいことにしかならなかった謎の設定が。


「え、え、え、うそ」


「ほーんと!ちなみに優也は20歳ね。誰にも気づかれてないけど」


「はぁぁっ!?」


 口を抑え信じられない!という表情で今度は俺をガン見する海美。全く疑われすらしなかった俺の年齢設定に苛立ってきた。いや作戦的にバレてなかったのはいいんだけど、いいんだけどさ、なんでバレないんだよ。そんなに子供っぽいか?俺


「に、にじゅう……!?ハタチなの!?」


「言ってる意味次第じゃぶっ飛ばすぞ」


「ま!ネタバレも済んだところで、海美ちゃん。本当にSCRに入るのね?」


「え……うん。入りたい!私にもやりたいこと、できたから」


 すると龍斗さんがゆっくりと海美を降ろす。まだ体は震えてるけど、立って歩けるくらいには回復したみたいだ。


「それじゃ、SCR特殊戦闘部隊へようこそ。手続きとかもあるし、学校や鮫島財閥の積もる話はSCRに行ってからかな、とりあえず」


「……本当にいいんだな?」


「うん。私のやりたいことは、これだから」


 意思は固そうだ。そうか。


「それじゃ!これから色々しんどいけど、どうぞよろしくね」


「うん!改めて、スパークこと鮫島海美です!苗字よりは名前で呼んでくれると嬉しい。よろしく!」


 胸に手を当て笑顔で自己紹介される。


 まずい。


「おーこれまた元気いっぱいな子が来たな〜俺は嵐巻龍斗。先生じゃないし、龍斗でいいよ。よろしくね海美ちゃん」


「龍斗さんね、よろしく!……そういや、優也の本名は?」


 すると龍斗さんがしまった、という顔をする。もう遅い。こういう流れができてからじゃ遅いんだよ。無意識に2人に対して半身になってしまう。手に汗をかいた。


「優也」


「いやいや知ってるよ。苗字の方だよ。龍斗さんとは兄弟じゃないんでしょ?」


「あ〜〜海美ちゃん、いやその優也はね実は苗字がなくてね実はあの」


 ……どうせ知られるか。どのみち知られることになるなら今言っても変わらない。




「孤虎」




「あ」


 突然時間の流れが止まる。さっきまでの明るい雰囲気はどこへ行ってしまったのか。嫌な期待と警戒が緊張の糸を張り、心臓が跳ねている。


「え?……コトラ?」


「孤独の孤に動物の虎で孤虎。俺の名前は孤虎優也だ」


「え、孤虎ってあの、」


 わなわなと震えだす海美。顔は驚きと恐怖で引き攣っていて、さっきまでの変身の衝撃とかじゃなくて、きっと心理的な震え。



 あぁ、お前もそっち側か。



「あのコトラ事件の犯人じゃん!?」



 振り向くと、あちゃーと頭を抱える龍斗さんが海美の後ろにいる。手前にいる海美と目が合うと、驚き怖がるように肩をすくめた。



 もういいんだ。



『あの孤虎の息子?』


『アイツのせいで俺の家族は死んだんだ!』


『この人殺し親子!!』


『私の家族を返してよ!!』



 もういいのに。



 気づけばぎゅっと左手首を右手で握りしめていた。



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