#3-7 シャーク・ガール
何も知らなかった。
特異生物なんて大したことないって思ってた。
でも現実は想像を超えていて、恐怖で体は思う通りに動かなくて、私は何もできないただの弱虫だ。
上から落ちてきたパイプが右肩を貫通し串刺しとなった優也は失神してしまった。というか初めから後頭部からの出血が酷かったのに動けていたのが不思議なくらいで。
ここで優也は死ぬの?
私はまた、何も知らないまま、ただの弱虫として何もできずに死ぬの?
また全部失くすつもりなの?
『よく事情はわからないけど、海美が生きたいように生きればいい。周りが何て言おうと、海美は海美だろ』
違う。大切な友達を失いたくない。
心臓がはち切れそうなぐらい飛び跳ねる。まるで心臓が初めて動いたみたい。大きく速くドクンドクンと跳ねて、周りの音が聞こえないぐらいうるさい。
『好きなことすればいい。1番やりたいことやればいい。俺は応援するよ』
優也を守りたい。
知りたいこと全部知りたい。
周りの目に雁字搦めになって、無知に甘んじるだけの人生なんてもう懲り懲りだ!!
ゆっくりと立ち上がる。もうこの決意は揺らがない。
突然ガラララッと体育館の扉が開いた。見ると嵐巻先生だ。特異生物に驚きながらこちらに気付くと血相を変えて駆け寄って来る。
「優也!!おいしっかりしろ、優也!!」
「嵐巻先生」
「鮫島ちゃん!?何してるんだ早く逃げろ!!」
「嵐巻先生、何とか優也のこと守っててください。私がこの化け物何とかします」
「え……?」
「人間増エタ!血ヲ寄越セ!!」
そう特異生物がうねうねとこちらへ近づいて来る。クソ!と嵐巻先生が優也に突き刺さったパイプを何とかして動かそうとする音が後ろから聞こえた。
『もし理不尽な未来を変えられるような凄い力があるなら、変えてみたいって思わないか?』
「うん、変えてみたいよ自分のこと!だって私の心臓は、今動き出したから!!」
ガッと左腕の体操服を捲り上げた。二の腕に巻かれているミューシスのボタンを押し、形成されたソケットへシリンジをカチッとなるまで挿し込むとインジケーターは黄色に光って音声が鳴り響く。
Spark!Ready for injection!
「え!?ミューシス……!?なんで鮫島ちゃんがそれを!?」
後ろから聞こえる嵐巻先生の声なんて気にせず、左腕を上から回しながら半身を右に捻り、勢いをつけて左拳を前に突き出して
「change my feature!!」
プランジャーをカチッと押し込めば周りが一気に電気を帯び、私に向かって雷が落ちる!
Genes are promoted!
雷の中でバチンバチンと私を中心に地面に稲妻が走る。全身の細胞一つ一つが作り替えられていくのを一瞬で理解していった。
その次の瞬間には全身に激痛が走り、特に頭と腕に痛みが集中する。電撃のように頭に走る激痛は次第に全能感で満たされて、腕を見ると鮫のような鰭がいくつも飛び出て手の甲は鮫の口の中のような細かな棘や牙がついていた。
そのまま視線を下に動かし体を見ると全体的には黒をベースに黄色の斑点があり、胸上辺りから鱗が斜めに連なって腰から下はフィッシュテールスカートのようだ。その下から伸びる足は黒と黄色のマーブル模様で、外側へ向かって鰭が出ている。足の間からは細いエイのような尻尾がのぞいていた。
バチンッ!!と一際大きい音が鳴り、視界が開けると、目の前には電気で痺れ動けなくなった特異生物が転がっている。
驚きながら横を見ると目線の高さくらいの鏡があった。見ると後頭部に鮫のような鰭があり、おでこの生え際から鱗が後ろに流れて黄色のヘアバンドのようなもので纏められている。口は大きく裂けて鋭い牙が覗き、大きな黄色の瞳がギラギラと私を睨みつけていた。思わずヒャッ!?と声を上げる。あ、これ私か!ていうか、声出るんだ。
「アアア!?オ前!?鮫人間!?」
「鮫島ちゃんが特異生物!?」
「す、スパーク!変身完了!……で、いいんだよね?」
自然と後退りしそうになる。やっぱ怖いものは怖い!でも私がやりたいこと、全部やるんだ!
迫り来る特異生物に向かって走り出し、拳を固めて殴りがかる…って、
「う、うひゃあああ!?速い、足が速く動くうううぅわあああ!?」
固めた拳はバタバタとスピードを和らげようとパーにしてワタワタと振るう。でも一度つけたスピードが収まらない!てかどうやって止めればいいの!?
「あわわわわわわうわぁっ!」
「ナッ!?」
ゴチーーン!!ガブッッ
結局腕を振るうのではなく頭が特異生物の頭とぶつかり嫌な音がする。いてて、これ痛みは普通にあるんかい!こういうのって痛みとか軽減されるもんだと思ってた!
パッと前を見ると何故か特異生物はビクビクと動かなくなっている。私がぶつかった場所には大きな歯形。まるで、鮫に齧られたみたいな……
「私、私がやったの……!?これ!?」
「ヴ、ヴゥ……噛ミツカレタ!?オ前、人間ジャ無イナ!?」
私、私勝手に噛み付いてたの!?もしかして何かの特殊能力!?ええーいままよ、何とかなれ!
特異生物は体をうねらせ再びこちらへと突っ込んでくる。あれ、さっきより遅い!ラッキー!すんなりと避けて腹部分にパンチおみまいし、追撃で尾部には回し蹴りをきめる。特異生物は吹っ飛んで壁にベタンッッ!!と思いっきり打ち付けられた。こ、こんな威力でるんだ!?
よく見ると特異生物の殴られた箇所にはこれまた鮫の噛み跡のような大きな傷。え?なに!?また無意識に噛んじゃってるの!?
「ナ、ナンダ、ナニガ……!?」
まるで攻撃が全部噛みつきになってるみたいだ。よーーし、なら一丁全部試してみよう!!
「オ前、何者ダ!?!?」
「私は……」
鮫島家のお嬢様?
気品のある優等生?
ただの弱虫?
ううん、違う。違うよ!
「私はシャークガール!なんでもかんでも噛みついちゃうよ!!」




