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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#3 シャーク・ガール
17/37

#3-6 運命を変える力

 1週間後。


 学校の生活にも慣れ始めて順調だが、任務の方はなかなかうまくいかない。音が聞こえる時に動きたいが、授業中などお互いが動けない時間だったり、動ける時間帯でも場所が特定できずに終わったりすることがほとんどだ。その間にも吸血の被害者は増えていく。早くなんとかしないといけないけど、《悟られてはいけない》という制約で自由に動きづらい。 


 そう、今も。


 キュッキュッと体育館に響くシューズの音。


「嵐巻優也ァ……許すまじ……」


 フシューと鼻息を鳴らして目の前に立つ背の高い男。バスケットコートの中心で向かい合い目つきで俺を睨みつけている。ついでにこいつのチームメイトからも睨まれてるし、何かしたか?俺。


「我らが高嶺の花を……不可侵条約をォ……!!」


「不可侵条約?何の話だ」


「惚けるな!このバスケットボール勝負で恥をかかせてやる!!」


「だから何の話だよ……」


 ビッ!と体育教師の笛が鳴り、ボールが高く投げられる。これは取らせようかな。体育の授業で怪しまれないようにするための三原則『速すぎない・跳びすぎない・力を入れすぎない』だ。でも跳ぶフリぐらいはしておかないと。よっと、


「あ」


「え、えええええええ!?」


 軽く地面を蹴ったつもりがつい高く跳び上がってしまい、反射的に顔の正面に来たボールを叩いてそのまま着地してしまう。そのまま相手コートの方へ走り出しボールを取った味方からパスをうけとった。


「キャー!嵐巻くんカッコいいー!!」


 コートサイドから聞こえる黄色い歓声に顔が引き攣る。やっべ、力加減間違えた。まだ慣れねぇんだよ。


周りの顔色を伺う。人間離れした距離跳んだの気づかれてないよな?一旦大丈夫かな、多分。てか黄色い歓声とかやめてくれよなんか相手チームの顔が何故か一層怖くなったんだけど!?


「おのれぇぇええええ!!行くぞ!」


「っまじ?」


 前から俺を囲うように3人が走って来る。こいつら……!


 やり過ぎない程度に足に力を入れて完全に詰められる前に人の間をついて壁を突破する。味方にパスして隙を作り、その間に前へ前へと走る。元から足は速い方だ。3人を抜けた後マークされている味方からパスを受け取りドリブルで走る。


「ここは通さん!!」


「っ!」


 するとゴールの手前に1番体の大きい男が大きく腕を伸ばし大の字で待ち構えている。ここでマークされるとめんどうだな。怯ませて少しの間動けなくなってもらおうか。


 少し先の地面に向けて角度をつけてボールを地面に叩きつけ大きく跳ねさせる。そう、ちょうど目の前の男を超えていくような感じで。突飛な俺の行動に驚いたのか視線はボールに釘付けだ。


 今だ!


「よっと!」


「は、はぁあああ!?」


 その一瞬で体をできる限り屈めて相手の股下へ滑り込んで潜り抜け、驚いて動けなくなっている間にボールをキャッチしゴールへと跳ぶ。しかし別の男がその長く太い腕でシュートを邪魔してきた。でも!


「させるかあああ!!」


「悪いな!」


 ゴール前でシュートを阻む男の腕より高くボールをなげ、ボシュッと布の擦れるシュート音が聞こえる。男のせいで見えないけど入ったな。


「キャー!!嵐巻くんナイッシュー!!」


「ナイス優也!」


 黄色い歓声に混じって海美の声が聞こえる。声の方向を見れば海美が手を口の横に当てて大声で応援してくれたみたいだ。ありがと、の意味を込めてヒラヒラと手を振って返す。


「このっこのっ!!このやろう!!」


 ……で、なんでコイツらこんな怒ってんの?


 その後も勝負は続き、結局俺のいるチームが勝つことになった。……なんか俺、大人気なくね?

 そう考えているとチームのみんなが後ろから肩を叩き、調子に乗ったやつは飛びついてくる。


「やったな優也!お前のおかげだよ!」


「サンキュ、そっちのパスもナイスだよ」


「やっぱ俺たちのクラスの新エースだな!あ、そうだ!今日帰りコンビニ寄ってアイス食おうぜ!」


「いや別に」 「さんせーい!!良いよなぁ優也!」 「話聞け」


 味方チームのみんなが集まって背中を叩いたり肩を組んだりしてくる。爽やかな笑い声、屈託のない笑顔。心に吹き込んでくる暖かな風につい顔が綻んでしまう。SCRの任務中だけど、楽しい時間に身を委ねたくなってしまった。きっと龍斗さんが言ってた青春ってのはこういうやつで、案外悪いもんじゃないんだな。


「おい、嵐巻」


「あ」


 声かけられ振り向くと、さっきの相手チームのリーダーが背筋をピンと伸ばして立っていた。初めのボールの取り合いで俺がやりすぎてしまった罪悪感が胸をチクリと刺す。


「お前は強い……色々な非道を詫びる。すまない」


「いいや、アンタも強かったよ。ありがとう」


 非道と言えば、こちらは特異生物だ。ほぼ力を使ってないとはいえ卑怯と言われるのは俺のほうだろう。あと忘れそうになるけど今年で俺21だし。年上だぞシンプルに。なぜか誰にもバレる気配はないけど、本当はな!!


 心の中で一人憤っていると、相手のチームリーダは漫画のようなエフェクトの見える美しい涙をだらだらと流していた。え、何。なんだよ。


「お前なら……任せられるな。俺たちの高嶺の花を……」


「……だから何の話?」


「優也!」


 すると後ろから声をかけられる。海美だ。

 チームメイトはにやにや笑いながらごゆっくり〜と言い残し先に教室に戻っていく。今は6限が終わったところだから、帰りのHRが終わったら龍斗さんと合流しないと。


「お疲れ様!さすがだね、やっぱバスケ部入れば良いのに」


「放課後は空けときたいんだ。色々あって」


「あっ、そっか……家でお仕事しないとだもんね。造花の内職のこと嵐巻先生から聞いたよ、少しでも家計の足しにしたいんだって優也が頑張ってること!」


「……そう、だわ」


 アイツまた変な設定足してるな。帰ったら一回しばこう。


 すると海美は俺の体育の教科書を持っていく。いや、それ俺のだけど?と顔に浮かべる俺に海美は心配そうに眉を下げた。


「足、怪我してるじゃん。保健室寄っていくでしょ?荷物ぐらい持つよ」


「……ん?あぁいや、このくらいなら別に」


「いやいや、こういうのが悪化したら大変だよ!HRに遅れることは友達に伝えてあるからちょっとくらい遅くなっても大丈夫」


「じゃあ、まぁ、お言葉に甘えて」


 下手に断って疑われるのも面倒だ。保健室までに回復しなきゃいいだろ。


 並んで外へ出る。今日もなんとかバレずに乗り切ったな……でもなかなか今週じゃ特異生物は見つけられなかった。せめて何の特異生物くらいかは特定したかったんだけど。まぁ今日はあと龍斗さんと自然に合流して本部に戻───



 ズズ………ズズ………



「ん?優也どうしたの?急に立ち止まって」


「海美、俺さっき足捻ったみたいだから、先教室戻ってて」


「え!?足捻った!?え、大丈夫?歩ける?」


「あぁ。問題ないけど、でも先に戻ってて。ついでに龍斗さんに俺が怪我して体育館にいるって伝えてほしい。あの人テーピング上手いから、呼んでもらえると助かる」


「え、うん、え!?いや一緒に戻るよ!あ、でも龍斗さん呼ばないとか。いやでも1人にするのはちょっと」


 うーん、と悩んでいる海美。こっちはそれどころじゃない。早く教室に戻ってくれ。そう海美の優しい性格に苛立ってしまう。


「わかった、私が優也のことクラスまで背負ってくよ!ほら乗った!」


 なんでそうなる!?


「俺のことはいいから!早くもど──」



 ギィ……



「あれ?体育倉庫鍵閉め忘れてるのかな。閉めてくるね」


「っ!ま、待て!」


「いいのいいの。優也怪我してるんでしょ?私学級委員だしさ。任せて」


 肩を掴もうとした腕は空ぶって海美は駆け足で走って行ってしまう。まずいまずいまずい!


「鍵は中の壁にかけてあるはずだよね〜っと、ん?何これ」


 視線の先の体育倉庫の扉から黒い何かの尻尾のようなものが出ている。……この音!!


「なんか挟まって」「危ない!」「!?」




 ガタンッッ!!バチンッッ!!




「っぐ……ぅ」「き、きゃああああああ!?」


 咄嗟に海美を横へ突き飛ばしたが、代わりに体育倉庫の扉ごとぶっ飛ばされ反対側の壁へと凄まじいスピードで打ち付けられる。頭がキィンと鳴り遅れて強い痛みが全身を襲った。視界が一瞬真っ暗になる。痛みに悶えている間、扉を俺ごと吹っ飛ばしたそれはずるりとその体を体育館へと現した。


「な、なん、なに?なにこれ……!?」


 信じられないというような海美の視線の先には全体が赤黒く細長い円筒形の芋虫のような何か。片方の先端──頭部だろうか──をググッとあげればバスケットゴールの高さまでになり、全長は20mぐらいだ。歪む視界でグッと目を凝らして見ればヌメヌメとした体表には細かな体節、というよりは環状の皺がついているようだ。これは……ヒルか?


「ゲホッゲホッ!!……クソ」


 骨はやられていないが、受け身を取れず後頭部を強く打ったせいで視界が定まらない上に耳もキーンと耳鳴りがして聞こえにくくい。


「あ、ゆう、や」


「海美は動くな!」


「アア、アア、ア、アアア」


「ひっ!?」


 モゾモゾと体をくねらせ先端にある巾着袋な口のようなところが開いたり閉じたりモゴモゴと動いている。近くには……吸盤か?あれ


「アアア、ザセル、様ァ、血ヲ!血ヲ!」


「ザセル?」


「ザセル様ァ!!血ヲ取ッテキマシタ!!ザセル様ァ!!」


 なんだ?なんの名前だ?様付けってことは、多分上位の存在か何かか?グラグラする頭で考えようにも、考えた矢先にどんどん靄がかって遠ざかっていく。


「なに?なんなの!?これが特異生物!?」


「ンン?ナンダオマエ?」


 頭部が海美の方へグルリと向く。目がないはずなのに、蛇に睨みつけられたカエルのように海美の顔は青ざめた。


「オマエ!人間!!血ヲ寄越セ!!」


「き、きゃあああああああああああ!?」


 特異生物─ヒルが体を蛇のように唸らせ地面に叩きつけるとズドンッッと地面が大きく揺れ、海美が逃げ惑う。口の部分からガチンガチンと音が鳴っているところを察するに多分牙か何かで海美に噛みつこうとしているんだろう。


 全身の痛みに耐え急いで体を起こす。後頭部が焼けるように痛い。でも視界はいくらかマシになってきたところだ。近くに転がってきたバスケットボールを手に取り、その温度を極限まであげ、片手にもち頭部に目掛けてぶん投げる!


「ウギャア!?熱イ!」


「お前の相手は俺だ。こっち来い!!」


「グググ!!オ前モ人間カ!!血ヲ寄越セ!!」


 頭部をこちら向け蛇のように向かってくる。でかい図体のせいかスピードはそこまでじゃないみたいだ。これなら今の俺だけでも何とかなりそうだな!


 突っ込んでくる頭部を右へ左へ避け、床に突っ込んだ頭部が下から突き出してくるそれを踏みつけ高く跳び、天井を蹴り返してさらに噛みつこうと跳ねて迫っていた頭部を殴りつける。クルッと空中で回転し、反りたった背中に着地して滑り下り、尻尾を掴んで一回しして壁へと叩きつけた。ヴ、ヴゥ、とうめき声をあげて怯んでいる間に海美の方へ駆け寄ると恐怖で腰が抜けたのかぺたりと座り込んでしまっている。何やってる!


「海美!今のうちに逃げろ!!」


「えっでも、優也が!」


「いいからみんなと逃げろ!俺は大丈夫だから!」


「でも、でも私は!」


「いいから早く!」


「優也後ろ!?」


「───っ!」


 振り返るといつのまにか眼前に迫ったヒルに構えた右腕を噛みつかれるが、口の下を蹴り上げれば簡単に離され、噛まれていない左腕で右に殴り飛ばすとまた壁に激突し今度は中々起き上がってこない。よく見ると巾着袋の口部分のような口は、中心に向かって三角形の中心が集まったような形状の牙がギラリと揃っている。デスワームならぬヒルワームってところか。


 鋭い歯につき刺されたのかダラダラと腕から血が流れ、後ろからヒッと短い悲鳴が聞こえた。出血箇所を抑えながら海美に駆け寄る。


「早く外に出てみんなに知らせろ。体育館に特異生物が出たって。それが海美の仕事だ」


「し、しご、とって、ゆうや」


「みんなのこと誘導してくれ。あと先生達もな」


「優也、優也は!?」


「俺はコイツを何とかしてから必ずそっちに行く。心配するな」


「何とかって何!?ただの人間があんなのに敵うわけないじゃん!!」


「……人間の力じゃ無理だろうな。人間の力じゃ」


「………え?」


「もし理不尽な未来を変えられるような凄い力があるなら、変えてみたいって思わないか?」


 やばい。頭がフラフラして、怪我でアドレナリンが出まくっているせいで変なことを口走りそうだ。


 すると後ろからガチンガチンと音が聞こえる。流石に回復したか。振り返ればうねうねと体をうねらせこちらへと突っ込んでくる特異生物。海美を抱えて瞬時に横へ避ける。それを見て特異生物は続け様に頭部を俺達の居るところへ突っ込み続ける。避けるのは簡単だけど、海美を抱えながら避け続けるのは正直厳しいな──って!!


 ガラガラガラッッ!!


「マジかよ!!」


 特異生物が暴れたせいで耐えられず壊れたバスケットゴールや二階のギャラリーの備品が落ちて来る!出入り口へも瓦礫で近づけない。まずい、海美を抱えながらは避け切れる自信がない!


「優也!」


「何!?」


「降ろして私も戦う!」


「はぁ!?無理に決まってんだろ!!」


「いいから!降ろして!!」


「だから何」 ドスッッ 「言っ………て、」


 耳元で海美の短い悲鳴が聞こえた気がする。体が何故か動かなくなって、膝をついて海美が下りて、それで?


 熱い。右肩が、何故か動かない。熱い。熱い。熱い。熱い。


 海美が俺の肩を見て目を見開き、手を口に当ててなんとか絶叫を抑えているみたいだ。


 見ると右肩から何かが大きく飛び出ている。その先は地面に突き刺さっている。ゆっくりとそれに触れる。金属の質感に少しぬめりのある何か。棒のような何かだ。地面に刺さった先端にむかって止めどなく何かが垂れ始めている。見ると赤い。赤?赤。赤い、血か?


「あ……………」


 そうか、壊れて先端が尖ったパイプか何かが、右肩を突き刺したのか。時が止まったような感覚が動き出す。本能が遮断したはずの痛覚が伝わって来る。背中側にも太いパイプを感じる。


 鮮明になって行く痛覚の代わりにだんだん意識が遠ざかっていく。どんどん音がぼやけて、視界はもやがかかって真っ暗に落ちて行く。輪郭を無くしぼわんぼわんと大きくこだまする音の中に、誰かがこっちに走って来る音。ああ、多分これは、これは……


 立ち上がる海美の背中を最後に、俺の意識は途切れた



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