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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#3 シャーク・ガール
15/24

#3-4 ボーイ・ミーツ・ガール

 キーンコーンカーンコーン


 授業が終わり、教室にもどって約1時間の昼休みになる。昼休みってそんな長いのか?ていうか


「給食係とか決めてるの?」


「給食……?やだなぁ優也、小学校じゃないんだから。購買行って買ってくるか、食堂で食べるかだよ」


「……そういえばそうだった。じゃ、行ってくる」


 学校って給食が全部だと思ってた……違うんだ……でも確かにドラマの中の高校生はお弁当食べてたな。


 恥ずかしさから足早に教室を後にしようとすると、待って!と海美から声がかかる。


「せっかくだし、案内も兼ねて一緒に購買いこうよ。友達が昼休み部活に行っちゃって1人じゃ寂しいんだ」


「あぁ、別にいいけど」


「待ってて。お財布持ってくる」


 財布?


「え、あ、購買ってそうか。財布が必要か…」


 鞄に財布を取りに行く。最近どころかここ数年使った覚えがない。外に出る時は短い時間の偵察だし、SCRの中にいる時は全部タダだし。


「お待たせー!じゃいこう!」


「あ、購買っていくらくらい?」


「え?うーん何食べるかによるけど、千円あれば大抵は?」


「あ、そんなもんか。わかった。ありがと」


「……ふふ」


 モタモタと準備していると、隣で海美がクスクスと笑っている。

 やば、何かやっちまったか?冷や汗が伝う。


「な、なに?」


「なんか優也、学校初心者!って感じ。何か初々しい感じして可愛いなって」


「……………」


 悪かったな。初心者で。


 次第に騒がしくなる教室を出て、綺麗に掃除された廊下に出る。窓からは学校の裏手から広がる森の木々がさわさわと風に揺れて木漏れ日を地面に落としていた。


 廊下を歩けば周りがコソコソと噂話をしている。内容は学校の中でも有名人らしいコイツと転校生である俺が並んで歩いているのを面白がっているのがほとんど。付き合ってるのかとかどうやって気に入られたんだとか、昔から噂話ほどくだらないものはない。バレないよう小さくため息をつく。


 そんな俺の様子も知らず、ねぇと海美が話しかけてきた。


「ねぇねぇ聞いてもいいかな。嵐巻先生って婚約者さんいるって話だったけど、優也は会ったことある?」


「ん〜……あるけど、昔の話だからちゃんとは覚えてないな」


「え!そんな昔からの仲なの?」


「あーいや、俺は昔小さいころ遊んでもらったことがあるだけでほとんど覚えてない」


「なるほどね。どう?お兄さんが結婚するの」


「………なんとも」


 ふぅん、と言いながらじっと顔を見つめられる。なんだ?なんかついてるのか?


「な、何?」


「んーなんか、嵐巻先生とはそんな似てないよなぁって。兄弟なのに」


「あの人はその、母似なんだよ。俺は父似」


「そんな変わる……?ま、いっか!」


 想定してた質問ではあるけど、いざこう聞かれると危ないな。ていうか、なんでわざわざ兄弟設定にしたんだよ。別にしなくてもなんとかなっただろ……!?


 あとで絶対文句言ってやる。面白いからと言ってその設定考えたの龍斗さんだし。そんなことを考えていると、目の前に俺の頭痛の原因が現れた。


「よ!優也に鮫島ちゃん!元気にやってる?」


「あ」「噂をすればだね」


 前から歩いて来た龍斗さんがひらひらと手を振っている。ちら、とその後ろを見ると遠巻きだが何人もの女子生徒が龍斗さんのことを見ており絶好調そうだ。初日でこれか。さすが自他共に認めるイケメン様は格が違う。キャーキャーと声が上がるのと同時に俺の中のイライラ度も上がった気がした。


「今から昼ご飯?いってらっしゃい」


「嵐巻先生はご飯食べないんですか?」


「いやー来て初日はやること多くてさ。時間あるかねぇ。あ、そうだ優也」


 そういうと龍斗さんは俺の制服の胸ポケットにペンを挿す。


「『忘れもんだぞ』。生物室に落ちてた。気をつけろ〜」


「……はい。ありがとうございます」


「敬語なの?まぁ、ここじゃお兄ちゃんじゃなくて先生だもんね」


「そうそう。ここじゃね。じゃ、俺は仕事あるから、ごゆっくり〜」


 ワシワシと一瞬俺の頭を撫でてからヒラヒラと手を振って後にする龍斗さん。その後を追うようにゾロゾロと女子生徒がついていく。あの人婚約者のこと公にしてんのにどうなってんだ。女子はよくわからない。


「いいなぁお兄ちゃんが先生とか。もしかしてテストのこと聞けたり?」


「しないな。あの人ああ見えて、勉強見るの厳しいんだよね。元研究者だし」


「ふーん。嵐巻先生って元研究者なんだ」


「……海美は1人っ子?」


「ん?私?あーえーと、お姉ちゃんいるかな。いや、いたって方が正しいか」


「……!ごめん」


「あ!!いやいやいや全然気にしないで!というかこっちこそごめんね!!……お姉ちゃんのこと久しぶりに聞かれたからびっくりしちゃって」


 頭を下げると海美もあわてて頭を下げてくる。久しぶりに聞かれた?そんな聞かれるような話なのか?この子の姉が亡くなったことはそんなに周知の事実なのか。もしかしたら過去の事件が原因か?


 左手首を右手でグッと握りしめる。


「もしかして、過去の」「ほら、大体みんな知ってるもんだから。家のせいで」「……え?」


 ピタリと動きが同時に止まってお互い顔を見合わせる。お家?そんな有名なお家なのか?


「あー……私、苗字が鮫島じゃん?聞いたことないかな、《サメジマ財閥》って」


「さめじ……あぁ!!!」


 頭に電流が走る。そうか!この子、あの超大企業サメジマ財閥の娘か!


 サメジマ財閥とは、現代のありとあらゆる企業、例えば食品、農林、水産、建設や不動産をはじめとし、さらにIT系や金融、医療やマスコミや果てには全国展開しているスーパーまで、どこの業界にも大きな影響力をもつとされている財閥だ。特に力を入れているのは海運産業らしい。


 それに少し小耳に挟んだ話じゃ、そのトップである鮫島厳夫はSCRの存在を認知している数少ない一般人のうちの1人であり、その多方面への大きな影響力から協力を依頼することもあるという。


「コトラ事件でお姉ちゃんが死んじゃって、それでその妹の私が後を継ぐって話がSNSとかで広まっちゃって、それで。わー恥ずかしい!自分でサメジマ名乗るの無理すぎ!」


 もしかしてこれが特秘事項につながるのか?というか、その前にまず謝らないと。


「そうだったのか。ごめん、わざわざ嫌なこと聞いて。知ってれば聞かなかったのに」


「え、あ、いや、ううん!全然問題ナシ!……え、それだけ?」


「え」


 謝罪が足りねぇよってこと?もしかして土下座した方がいいのか?困惑していると海美がわたわたと手を振って慌て始める。


「あいやいや、あの、……いつもはさ。私が鮫島財閥の娘だってわかったら、その、色々あるわけ。なんかこう、色々大袈裟に持ち上げられたりとかさ」


「はぁ」


「それがなくて拍子抜けしたっていうか何というか。初めてで」


「はぁ」


「ふふっ、優也って珍しいね。私のこと特別扱いしない人、初めて!」


 褒め言葉として受け取っていいのか?これ。よくわからないけど。

 微妙な顔をする俺をふふふと海美は笑う。


「その……ね。よく鮫島家の後継ぎ、コトラ事件の生き残りってだけで変に持ち上げられちゃってさ。高校のクラス委員長だってやりたくないけど『鮫島さんしかいないでしょ!』とか、成績だって別に言ってないのに『きっとトップだ!』とか。私結構アホなんだけどね」


 確かに周りから聞こえた噂話は海美を持ち上げる声がほとんどだ。海美の困ったように下がった眉と視線、何かを堪えた表情が言葉よりも雄弁だ。


 耳をすませば聞こえてくる。


「鮫島さんは転校生の世話をしていて優しいね」

「この前のテスト、順位はどれくらいだったんだろう。きっと1位に違いない!」

「さすがは鮫島財閥の跡取り!優秀で気品のある素敵な人だ!」

「お嬢様はきっと私たちとは違うよね〜」


 耳をすまさなくとも、聞こえてくる。


「私はみんなの中じゃ、《鮫島財閥の優秀で気品のあるお嬢様》なんだ」


 はにかむ海美の声は静かな悲鳴そのものだ。


 俺はそんな持ち上げられる立場になったことがないから分からない。でも、反対側の気持ちなら分かる。事実以上に持ち上げられるんじゃなくて、必要以上に貶される方の立場。そして、


「ろくに自分のやりたいこともできない。というか言えない。私、自分のことすら知らないことたくさんあるし……って、自分語りやばいね!ごめんね!」


 偏見まみれの中で生きなきゃいけない、その息苦しさが。


 遠い存在のはずの海美が何故か近くに思えた。初めて会ったはずなのに、正反対の境遇のはずなのに、何もわかるはずがないのに。隣で目を伏せ悲しみを誤魔化すように笑う海美の痛みがまるで自分のことのように感じる。


 ……ま、どうせ任務が終われば赤の他人だ。年上として、ちょっとくらい調子のってアドバイスしてもいいだろ。いつもはされるだけだから、ここでならちょっとくらいは。


 いきなり立ち止まる。海美は数歩先で止まってどうしたの?と心配そうに振り向いた。


 海美の大きな瞳と目線を合わせる。ちゃんと伝えたい。少しでも、ほんの少しでもいいから、息が楽になればいいな。



「よく事情はわからないけど、海美が生きたいように生きればいい。周りが何て言おうと、海美は海美だろ」



「……え…?」




「好きなことすればいい。1番やりたいことやればいい。俺は応援するよ」




 ポン、と海美の頭に優しく手を置いた。いつも俺がされる側だから、なんだか慣れないけど。



 すると後ろからキャア!?という女子の短い悲鳴が耳を貫き、背中に刺さるいくつもの鋭い視線を感じる。海美は黙り込んで俯いてしまった。え、何?どうかしたのか?


 そこまでしてハッと気がつく。


 そうだ。そうだった!俺は何をしているんだ!


 任務前、簡単に女子に触れたら色んな意味で大怪我だぞって龍斗さんに言われたじゃん。もしかしたら逆鱗に触れるようなこと言ったか俺?いやいや頭撫でるとかキモすぎだろ!!しかもサメジマ財閥のご令嬢に!?殺されないよな!?バカバカバカ!作戦中なのに何やってんだ!


 ぱっと手を挙げて降参の意を示す。サーっと血の気が引いていく感覚。初日から揉め事は勘弁だぞ!


「あ、え、あっと、ごめ、」


「ううん。……嬉しい。ありがとうね。じゃ」


 挙げていた手をぎゅっと掴まれる。ギョッとした顔で海美を見れば満面の笑み。なになになにやらかした!?まさか集団リンチにされる!?校舎裏に呼び出し!?


「早く購買いこっ!」


「あっ!?いやちょ、ごめ、わかったから手はなせ、はなしてっ!?」


 狭苦しく感じていた廊下を走り抜ける。窓から入った少しだけ冷たい春風が横を通り抜けていく中で、周りがお似合いカップルだなんだと騒ぎ立てる声すら聞かず、2人で購買まで走って行った。


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