第2話 1秒の能力者と国立アフェクト学園
第2話です。
第1話を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
今回から物語の舞台となる
「国立アフェクト学園」が登場します。
この世界では、人の感情が力になる能力
アフェクトを持つ者たちを「アフェクター」と呼びます。
そして今回、主人公の未来が
そのアフェクターたちの世界に足を踏み入れます。
さらに、学園最強と呼ばれるアフェクター
黒崎零も登場します。
第3話からはいよいよ
入学試験(アフェクター同士のバトル)が始まります。
よろしければぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。
国立アフェクト学園。
巨大な校門を前にして、天城未来はしばらく立ち尽くしていた。
高い石柱。重厚な鉄門。その上に掲げられた校名は、朝の光を受けて鈍く輝いている。
テレビやネットで見たことはあった。アフェクターを育成する、日本で唯一の専門教育機関。アフェクトを持つ者たちが集まり、学び、競い、いずれ社会へ出ていく場所。
だが、画面越しに見るのと、実際にその門の前に立つのとでは、重みがまるで違った。
(ここが……)
昨日まで、自分とは無関係の世界だと思っていた場所だ。
未来は無意識に右手を見下ろした。
見慣れた、自分の手。細かい傷の残る、何の変哲もない拳。
だが、その拳は昨夜、確かに人を守った。
暴走したアフェクターの顎を打ち抜いた、あの一撃。自分のものとは思えないほど、鋭く、重く、速かった。
(希望アフェクト、か)
昨夜、現場に現れたアフェクト管理局の女性――ミサキは、そう言った。
記録がほとんど残っていない特殊なアフェクト。
共通して確認されているのは、極端に短い時間しか力を発揮できないこと。
そして、その時間は――
「一秒」
未来は小さく呟いた。
短すぎる。
短すぎて、能力というより、まるで偶然みたいだ。
もっと分かりやすい力ならよかったのに、と思う。炎を出すとか、雷を落とすとか、遠くから敵を吹き飛ばすとか。そういう、いかにも“強そう”な力なら。
だが自分に与えられたのは、一秒だけ身体能力が跳ね上がる謎の力だ。
使いどころを間違えたら終わる。
そもそも次に発動する保証すらない。
(こんなので、本当にやっていけるのか)
「君も、新入生?」
不意に声をかけられ、未来は顔を上げた。
門の横に、一人の少女が立っていた。
肩口で揺れる柔らかな茶色の髪。ぱっと見た印象は明るいが、目の奥に好奇心の強さが見える。初対面の相手にも物怖じしないタイプらしい。
少女は未来が手にしていた封筒を見て、にっと笑った。
「あ、新入生だよね?」
未来は頷いた。
「そうだけど」
「やっぱり!」
少女は嬉しそうに笑った。
「私も!」
封筒をひらひら振る。
「雨宮ひかり」
「天城未来」
二人は自然に並んで校門をくぐった。
校内は、外から見た以上に広かった。
正面には本校舎。左右にいくつもの別棟が並び、遠くには訓練施設らしき巨大なドームまで見える。校庭というより演習場に近い広さのグラウンドでは、すでに何人かのアフェクターが走っていた。
「思ってたより、学校って感じしないな」
未来が呟くと、ひかりはくすっと笑った。
「分かる。私も最初そう思った」
それから、ひかりは何か思い出したように未来の横顔を覗き込む。
「そういえば、未来くんのアフェクトって、もう分かってるんだよね?」
「……一応」
未来は少しだけ言葉を選んでから答えた。
「希望アフェクトらしい」
ひかりの眉がぴくりと動く。
「希望?」
「聞いたことない?」
「うーん……」
ひかりは少し考え込んだ。
「少なくとも、私は聞いたことない」
「だよな」
未来は苦笑する。
昨夜説明を受けたときも、どこか現実感がなかった。希望なんて、能力の名前としてはあまりにも曖昧だ。
「普通、アフェクトって五つの基本感情のどれかに分類されるの」
「五つの基本感情?」
「うん」
ひかりは楽しそうに指を折った。
「怒り、恐怖、悲しみ、喜び、愛情」
「これがいわゆる5大アフェクト」
「アフェクターの能力って、だいたいこのどれかの性質を強く受けるんだって」
未来は少し首を傾げる。
「性質って?」
「えーっと、例えばね」
ひかりは少し考えてから言う。
「怒りアフェクト」
「炎を出す人もいるし、めちゃくちゃ怪力になる人もいるらしいよ」
「衝撃波とか武器を作るアフェクターもいるって聞いた」
「同じ怒りでも、能力の形は全然違うんだって」
未来は頷く。
「恐怖アフェクトは?」
「速さとか回避かな」
ひかりは校舎の方を指さす。
「危ない!って思ったときって、逃げたくなるでしょ?」
「だから高速移動とか、影移動とか、隠れる系の能力が多いらしい」
「悲しみは?」
「防御タイプ」
ひかりは少しだけ声を落とした。
「バリアとか再生とか、壊れにくい能力」
「耐える感じの力かな」
「喜びは?」
ひかりは少し笑う。
「これが一番派手」
「光とかエネルギーとか、衝撃波とか」
「体のエネルギーがそのまま外に出る感じ」
「高速移動になったり、パワーが急に上がったり」
「とにかく元気な能力が多い」
未来は少し笑った。
「元気な能力か」
「うん」
ひかりは頷く。
「最後が愛情」
「これは守る力」
「バリアとか回復とか、仲間を守る能力が多いみたい」
未来は感心したように言う。
「……ちゃんと分類されてるんだな」
「ただし」
ひかりは人差し指を立てた。
「同じアフェクトでも、能力は全然違う」
「さっきの怒りアフェクトみたいに?」
「そう」
ひかりは頷く。
「感情が土台で、その上にその人の性格とか人生とかが乗るんだって」
「だから能力は人それぞれ」
未来は小さく息を吐いた。
「……じゃあ希望は?」
「そこなんだよね」
ひかりは首を傾げる。
「希望って、今言った五つのどれにも綺麗に入らない」
未来は歩きながら、自分の拳を見た。
「だから異質ってわけか」
「多分」
ひかりは曖昧に言う。
「少なくとも、5大アフェクトの延長線上にある能力には見えない」
そのときだった。
周囲の空気が、ふっと静かになる。
前を歩いていた生徒たちが、自然と道を空けた。
その中心を、一人の男子生徒が歩いてくる。
黒い髪。
鋭い眼差し。
無駄な動きが一切ない歩き方。
ただ歩いているだけなのに、空気が張り詰める。
ひかりが小さく息を呑む。
「……黒崎零」
未来もその名前は知っていた。
国立アフェクト学園ランキング一位。
この学校で最強と呼ばれているアフェクター。
黒崎は二人の前で足を止める。
一瞬だけ、未来を見る。
その視線は鋭いのに、不思議と感情が読み取れない。
そして次の瞬間。
黒崎の姿が消えた。
「……は?」
未来が振り向く。
黒崎はすでに数メートル先に立っていた。
足元の影が、わずかに揺れている。
「今の……」
未来が呟く。
ひかりが答えた。
「黒崎の能力」
「アビス」
「影を使うアフェクトらしい」
黒崎は振り返らない。
ただ一言だけ言った。
「受験生」
「遅れるな」
それだけ言い残し、再び歩き出す。
足元の影が、まるで彼に従うように静かに伸びた。
ひかりが小さく息を吐いた。
「……やっぱり噂通りなんだね」
未来は去っていく黒崎の背中を見つめていた。
(強い……)
それだけは分かった。
この学園には、ああいうアフェクターが普通にいる。
そして自分の能力は――
一秒。
未来は静かに拳を握った。
それでも。
ここに来た理由は変わらない。
強くなるためだ。
未来は校舎を見上げる。
この場所で、自分の力がどこまで通用するのか。
その答えは、すぐに分かることになる。
第2話を読んでいただきありがとうございました。
今回はこの世界の能力
「アフェクト」について少しだけ説明が入りました。
簡単にまとめると、
・怒り
・恐怖
・悲しみ
・喜び
・愛情
この5大アフェクトを元に、それぞれのアフェクターが
個性的な能力を持っています。
そして主人公の未来のアフェクトは
そのどれにも当てはまらない 「希望」。
この能力が今後どういう意味を持つのか、
少しずつ明らかになっていきます。
次回は
「1秒と入学試験 ― 能力者たちの最初の戦い」
ついにアフェクター同士のバトルが始まります。
もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、
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感想もとても嬉しいです。
それでは、第3話でお会いしましょう!




