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アフェクト・ブレイカー ―感情が力になる世界で、たった一秒の能力を持つ少年の物語―  作者: paguzon


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第10話 1秒の防衛戦

第10話です。


ここから物語は、いよいよ“訓練”ではなく

本当の戦いへと踏み込んでいきます。


これまで積み上げてきた連携や判断が、

初めて実戦の中で試される回になりました。


未来・ひかり・ハヤトの3人が、

模擬戦とはまったく違う状況の中で

どう動き、どう選ぶのか。


そして、学園を襲った敵の目的――

その一端も見え始めます。


一気に空気が変わる第10話、

ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

爆煙が、訓練フィールドをゆっくりと飲み込んでいた。


 ついさっきまで模擬戦が行われていた人工芝は、もう見る影もない。抉れた地面。裂けた芝。崩れた外壁。風に乗って流れてくるのは、土と焦げたコンクリートの匂いだった。


 未来は浅く息を吐いた。


 右腕がまだ痺れている。

 黒崎が見せた圧倒的な実力も、敵の侵入も、さっきまでの模擬戦をまるごと過去にしてしまった。


 ここはもう、訓練場じゃない。


 本物の戦場だ。


 煙の奥に、まだ人影がある。


 一つではない。三つ。


「複数の侵入者を確認! 全員、防御体勢を維持して!」


 観測塔の上から蒼真白の声が響く。


 よく通る声だった。いつもの柔らかさは残っているのに、迷いが一切ない。


「上級生は新入生の避難を優先! 各区画の封鎖を開始して!」


 ひかりが観測塔を見上げた。


「先生……」


 巨大なガラス越しに、蒼が複数のモニターを見ながら指示を飛ばしているのが見える。校内地図、侵入経路、生徒の位置表示。訓練フィールドの外でも戦闘が起きていることが、一目で分かった。


 ハヤトが短く言う。


「今はあそこが中枢だ」


 その直後、遠くでまた別の爆発音が響いた。


 校舎の向こう。


 わずかに悲鳴も混じる。


 ひかりの顔から血の気が引いた。


「他の場所でも……」


「当たり前だろ」


 低い声が割り込む。


 黒崎だった。


 長い前髪の奥の目は、崩れた外壁の向こうを見据えたまま微動だにしない。


「一人で来るなら、ただの馬鹿だ」


 未来は無言で視線を前に戻した。


 煙の中から、三つの影がゆっくりと輪郭を持つ。


 一人は細身の男。肩まである黒髪を後ろで束ね、指先でナイフを弄んでいる。


 一人は大柄な女。身長は赤城ガイに近いが、纏う圧はまた別種だった。赤黒い紋様が両腕から首元へ這い、皮膚の下で何かが蠢いているように見える。


 そして中央。


 フードを深く被った小柄な人物。顔は影の奥に沈み、よく見えない。ただ、その視線だけは分かった。場の全てを観察し、選り分けるように見ている。


「……思ったより抵抗が早いね」


 中性的な声が静かに響く。


 その声を聞いた瞬間、未来の背中に嫌なものが走った。


(見られてる)


 ただ敵を見る目じゃない。

 何かを探している目だ。


 黒崎が一歩前に出た。


「用件は」


 短い問いに、フードの人物が小さく笑う。


「ずいぶん短気だね、黒崎怜」


 ひかりが小さく息を呑む。


「やっぱり、向こうも知ってる……」


 ハヤトが低く返した。


「それどころか、最初から黒崎を警戒して来てる」


 フードの人物は肩をすくめるように言った。


「私たちは別に、君たち全員を殺しに来たわけじゃない」


 未来の眉が動く。


「じゃあ何しに来たんだよ」


 ほとんど反射で言葉が出た。


 フードの人物の顔が、ゆっくりと未来へ向く。


 ぞくりとする。


「探し物だよ」


 短い返答。


 それだけなのに、場の温度がさらに下がった。


「反応は確かにこの学園内にある」


 ハヤトの表情が変わる。


 未来はそれを見逃さなかった。


「反応……?」


 フードの人物はわずかに首を傾けた。


「まだ“起きてない”のかな」


 意味は分からない。


 けれど、その言葉だけが胸の奥に引っかかった。


 黒崎の声が低く落ちる。


「それ以上喋るな」


 次の瞬間、黒崎の足元から影が一気に広がった。


 人工芝を侵食するように黒が走る。


 それを遮るように、大柄な女が踏み出した。


「させるかよ!」


 女の腕の赤黒い紋様が脈打つ。


 その瞬間、皮膚の表面が変質した。


 肘から拳、肩へかけて、赤黒い殻のようなものが幾重にもせり上がる。甲殻。しかもただ覆うだけじゃない。打ち出す方向に沿って形が変わり、拳の周囲に鋭い稜線を作っていく。


 未来の目が見開かれる。


(硬化……いや、変形してる)


 女はそのまま踏み込んだ。


 重い。だが速い。


 拳ではなく、甲殻ごと叩き潰すような打ち下ろしが黒崎の影へ落ちる。


 ゴガンッ!!


 鈍い音。


 影が揺れ、芝と土が巻き上がる。


 だが、今のは衝撃波ではない。


 未来ははっきり分かった。


 空気が爆ぜたんじゃない。

 硬質化した腕そのものが、異常な重量で叩きつけられたのだ。


 ハヤトが目を細める。


「怒りアフェクト系だ」


「ガイと同じか?」


「違う」


 返答は即座だった。


「ガイは“力を上げて叩く”タイプ。あの女は皮膚と筋肉を変質させてる。装甲化だ。硬さと質量を、必要な場所に集中させてる」


 未来は女の腕を見た。


 殻はただ硬いだけじゃない。拳を振る瞬間に厚みを増し、防御する箇所では薄く広がる。まるで生きている鎧だった。


「攻撃にも防御にも使えるってことか」


「たぶんそうだ。厄介だぞ」


 その横を、細身の男が滑るように前へ出る。


「足止めは任せろ」


 ナイフがくるりと回る。


 次の瞬間、指先から銀色の線が走った。


 ワイヤー――に見えた。


 だが違う。


 もっと細い。光に近いほどの細線が何本も空間に張られ、一瞬で前方に檻のような領域を作り出す。


 黒崎の影が触れた瞬間、青白い火花が散った。


「電流付きか」


 黒崎が小さく舌打ちする。


 未来の喉が鳴る。


 三人とも役割が違う。

 前衛。拘束。指揮。


 最初からチームとして完成している。


 ひかりが低く言った。


「こっちも……行くよね」


「当たり前だ」


 未来は答える。


 ハヤトが短く続ける。


「ただ突っ込むな。今度は実戦だ」


「分かってる」


 言い返しながらも、未来の鼓動は速かった。


 相手は上級生以上だ。

 本物の敵だ。


 でも、ここで下がるわけにはいかない。


 フードの人物が一歩だけ後ろへ下がる。


「じゃあ、足止めお願い」


 軽い声。


 その瞬間、大柄な女と細身の男が同時に動いた。


「来る!」


 ハヤトの声が鋭く飛ぶ。


「ひかり、正面の女! 未来、右!」


「了解!」


 ひかりの全身から金色の光が弾けた。


 足元から噴き上がる光をまとい、一気に加速する。踏み込み一つで距離を消し、大柄な女の懐へ飛び込む。


「速ぇな!」


 女の拳が振り下ろされる。


 ひかりは直前で身体を沈め、その下をすり抜けた。風圧で髪が跳ねる。


「レイ!」


 ひかりの掌が女の脇腹へ走る。


 だが、鈍い感触。


「硬っ……!」


 脇腹に赤黒い殻が走っていた。直撃の瞬間だけ、肋骨に沿って装甲が閉じたのだ。


「そりゃ通らねえよ!」


 女が腕を薙ぐ。


 甲殻の縁が刃のように尖っている。


 ひかりは後ろへ跳ぶが、避けきれない。


「一秒!」


 未来が割り込む。


 全身が跳ねるように強化され、視界が鮮明に切り替わる。未来はひかりの前へ滑り込み、薙ぎ払いの軌道へ腕を差し込んだ。


 ガンッ!!


 重い。


 衝撃波ではない。

 硬い塊で殴られている感覚だ。


 甲殻の先端が腕に食い込み、受けた場所から痺れが広がる。


 未来は歯を食いしばりながら、ひかりを後ろへ押した。


「下がれ!」


「でも――」


「今はいい!」


 ひかりが悔しそうに唇を噛み、後退する。


 同時に、右から気配。


 細身の男がいつの間にか側面に回っていた。


 指先が動くたび、見えにくい細線が空間に張られていく。逃げ道をじわじわ塞ぐような配置だ。


「未来、しゃがめ!」


 未来は反射で膝を落とした。


 頭上を細線が走り、背後のコンクリート片を両断する。切断面から火花が散った。


(今の、首の高さだった)


 細身の男が笑う。


「いい判断だ」


 ハヤトが低く呟く。


「悲しみアフェクト系だな」


「今それ分かるのかよ」


「分かる」


 ハヤトの視線は男の手元から一瞬も外れない。


「前に出て圧すタイプじゃない。相手の動きを狭めて、有利な形に閉じ込める制御型だ」


「糸を作ってるっていうより、空間に導線を通してる感じだな。触れたら切れるし、たぶん感電もある」


「張る位置には規則がある。そこを読めば抜けられる」


 その声には、もう恐れより集中が勝っていた。


「フォーサイト!」


 ハヤトの眼差しが鋭くなる。


 男の肩、指、呼吸、重心。その全部を追っている。


「次、左から二本! その後、足元!」


 未来が前へ転がる。


 直後、さっきまでいた空間に二本の細線が走り、芝を裂いた。遅れて足元に一本。もし一歩遅ければ脚を切られていた。


 未来は起き上がる。


「助かった!」


「礼は後!」


 ハヤト自身も動いていた。ただ避けるだけじゃない。敵の射線が通りにくい位置を選びながら、未来とひかりが動きやすい角度へと誘導している。


「ひかり! 女は脇腹の装甲が閉じるまでに一拍ある!」


「見えてる!」


 ひかりが大きく迂回するように走る。光の残像が弧を描き、女の背後へ抜ける。


 女が反応する。


 だが、わずかに遅い。


 ひかりの蹴りが脇腹へ突き刺さる。


 バシッ!!


 今度は装甲が閉じる前。


 女の身体がわずかに傾いだ。


「やっぱり!」


 だが、まだ浅い。


 女は振り向きざまに腕を打ち下ろす。ひかりは飛び退くが、甲殻の先端が頬をかすめ、細い血の線が走った。


「っ……!」


 未来の中で焦りが強くなる。


 効いてはいる。

 だが足りない。


 その時だった。


 中央で対峙していた黒崎とフードの人物の間の空気が変わる。


 黒崎の影が一気に膨れ上がり、地面一帯を黒く染める。対するフードの人物は一歩も動かない。


「まだ見つからないなら」


 静かな声。


「少し、刺激してみようか」


 瞬間。


 未来の頭に鋭い痛みが走った。


「……っ!?」


 視界がぶれる。


 胸の奥を何かが撫でるような、不快な感覚。


 ひかりも足を止める。


「え……?」


 ハヤトの表情が一変した。


「未来!」


 未来は膝をつきかける。


 頭が熱い。鼓動がうるさい。


 何だこれ。


 自分の中に、何かが触れてきたような――


 フードの人物が、じっと未来を見ていた。


「やっぱり、反応した」


 その瞬間、黒崎の声が鋭く走る。


「見るな」


 影が跳ね上がる。


 地面から無数の影杭が生え、フードの人物を襲う。細身の男が割って入り電線を張るが、黒崎の影はその上から力ずくで押し切った。


 バチバチバチッ!!


 火花が散る。


 大柄な女も割って入るが、黒崎の影が足元を掴み、動きを鈍らせる。


 未来は荒い呼吸のまま顔を上げた。


(今の、なんだ)


 ただの威圧じゃない。


 もっと直接的だった。


 “中”を触られた。


 ハヤトが未来の肩を掴む。


「しっかりしろ。今ので何か分かったか?」


「……分からない」


「でも、あいつ……俺を見た」


「俺“を”じゃない」


 ハヤトの声は低く、鋭い。


「お前の中の何かを見てた」


 その言葉に、未来の胸がさらにざわついた。


 ひかりが前に出る。


 頬の傷から血が流れている。それでも目は死んでいない。


「だったら、なおさら止めないと」


 光が強くなる。


 さっきまでより明らかに出力が上がっていた。細い粒子になった光が周囲へ散り、彼女の輪郭を眩しく浮かび上がらせる。


「ひかり……?」


「未来くん、ハヤトくん」


 ひかりは前を見たまま言った。


「次、合わせて」


 ハヤトの目が細くなる。


「いけるのか」


「やるしかないでしょ」


 迷いのない声だった。


 大柄な女が笑う。


「威勢だけはいい!」


 女の拳が来る。


 ひかりは真正面から走った。


 速い。さっきより一段速い。


「セイル!」


 光が尾を引く。


 一直線ではなく、小刻みに軌道をずらしながらの加速。いくつもの残像が重なり、女の視線を狂わせる。


「ちっ……!」


 女が拳を振る。


 外れる。


 もう一撃。


 それも空を切る。


「今、左脚に重心!」


 ハヤトの叫び。


 未来は頷く。


「一秒!」


 全身が跳ねる。


 未来は女の死角へ回り込んだ。


 ひかりが正面で視線を奪う。ハヤトが重心を読む。未来が一撃を通す。


 模擬戦で作った形の、完成版だった。


 未来の拳が女の脇腹へめり込む。


 ドッ!!


 今度は浅くない。


 女の目が見開かれる。


 そこへ、ひかりの蹴りが右肩へ叩き込まれた。


 二重の衝撃。


 女の巨体が、たまらず膝をつく。


「ぐっ……!」


「まだ終わってない! 細い方が来る!」


 ハヤトの声。


 電線が走る。


 未来は着地と同時に動こうとするが、一度使った反動で体が重い。


 数十秒。


 次の一秒までは、まだ遠い。


 間に合わない。


 だが。


 ひかりが振り向いた。


 両手を前へ。


「シャイン!」


 閃光が弾ける。


 扇状に広がる強い光。細身の男が目を細め、その一瞬で電線の軌道がぶれた。


「今!」


 ハヤトの叫び。


 未来は歯を食いしばって踏み込む。


 能力はまだ使えない。


 それでも行く。


 細身の男の懐へ飛び込み、肩からぶつかるように体当たりした。


 男の体勢が崩れる。


 その隙に、黒崎の影が足元を掬った。


「邪魔だ」


 低い一言。


 次の瞬間、影が男を地面に叩きつける。


 ドガッ!!


 細身の男の息が詰まる音がした。


 フードの人物が、そこで初めて後ろへ下がった。


「……なるほど」


 感情の見えない声。


 けれど、その視線だけは未来から外れない。


「やっぱり、そういうことか」


 黒崎の影がさらに広がる。


「言わせると思うか」


 フードの人物は小さく笑った。


「今日は確認だけでいい」


 その言葉に、未来の背筋が凍る。


 確認。


 何を。


 誰を。


 問い返す前に、フードの人物が片手を上げる。


「退くよ」


 大柄な女が舌打ちしながら立ち上がる。細身の男も苦しげに息を吐きながら後退した。


「待て!」


 未来が叫ぶ。


 だが、次の瞬間、地面に黒い煙のようなものが広がった。


 視界が覆われる。


 ひかりが身構える。


 ハヤトが目を凝らす。


 黒崎の影が伸びる。


 しかし一瞬遅い。


 煙が晴れた時には、三人の姿はもうなかった。


 その直後だった。


 訓練フィールドの反対側から、また爆音が響いた。


 空気が揺れる。


 崩れた壁の向こう、別区画の方角から黒煙が上がっていた。


「各区画で交戦継続中! 新入生は単独行動を禁止! 上級生の指示に従って直ちに避難して!」


 蒼のアナウンスが、間髪入れずに響く。


 未来は歯を食いしばる。


 敵は退いていない。


 少なくとも、学園全体ではまだ戦闘が続いている。


 ひかりが不安そうに周囲を見回した。


「まだ、いるんだ……」


「当然だ」


 黒崎が短く言う。


 未来たちの前を横切るように歩き出し、そのまま崩れた外壁の方へ向かう。


 未来が反射的に声をかけた。


「おい、どこ行くんだ」


 黒崎は足を止めない。


「他の侵入者を片付ける」


 あまりにも当然のような口調だった。


 ひかりが目を見開く。


「一人で!?」


「お前らがついてきても足手まといだ」


 冷たく、はっきりとした言葉。


 だが、それは事実だった。


 未来は思わず拳を握る。


「……っ」


 黒崎がそこで、ほんの少しだけ横顔を見せる。


「避難してろ」


 短い命令。


 それだけ言い残して、黒崎は影のように駆け出した。


 次の瞬間には、もうかなり先にいる。


 崩れた壁を飛び越え、黒煙の上がる別区画へ一直線に消えていった。


 ひかりが呆然と呟く。


「……速」


 ハヤトが低く言う。


「本気で戦場を動き回るつもりだ」


 未来は黒崎が消えた先を見つめたまま、奥歯を噛み締める。


 悔しい。


 悔しいが、言い返せない。


 今の自分たちでは、あの場についていくことすら難しい。


 その時だった。


 訓練フィールドの端、崩れた壁の近くで、何かが赤く点滅した。


 未来の視線がそちらへ引かれる。


 瓦礫の隙間。


 そこに、小さな黒い端末のようなものが落ちていた。


「……あれ」


 ひかりも気づく。


 ハヤトの表情が一気に険しくなった。


「待て。触るな」


 未来たちは慎重に距離を詰める。


 画面はひび割れている。だが完全には壊れていないらしく、赤いランプが不規則に点滅していた。


 その奥から、ノイズ混じりの音声が途切れ途切れに漏れる。


『――標的候補……確認――』


 三人の空気が止まる。


『……希望……反応……適合――』


 そこで音声は途切れた。


 未来の心臓が、大きく脈打つ。


 希望。


 その単語だけが、耳の奥に異様なほど残った。


 ひかりが未来を見る。


「……今のって」


 未来は答えられない。


 代わりに、ハヤトが険しい顔のまま口を開いた。


「たぶん……狙いは未来だ」


 未来が振り向く。


「は?」


「断定はまだできない。でも、あいつは最初からお前を見てた。いや、正確には……お前のアフェクトの反応を見てた」


 未来の背中に冷たいものが走る。


 希望アフェクト。


 一秒。


 まだ自分でも分からない、この力。


 その時、また遠くで爆発が起きた。


 地面が震える。


 蒼の声が重なる。


「未制圧の侵入者を複数確認! 新入生はその場を離れないで! 上級生は周辺警戒を継続、教員は各区画の制圧班と連携して!」


 ひかりが唇を噛む。


「避難、した方がいいよね……」


 そう言いながらも、視線は未来から離れなかった。


 ハヤトも同じだった。


 避難すべきだ。


 本来なら、そうするべきだ。


 でも――


 未来は落ちていた端末を見つめる。


 標的候補。

 希望。

 適合。


 もし本当に自分が狙われているのなら、ただ避難するだけで終われる話じゃない。


 未来はゆっくりと息を吸った。


「……まだ分からないことだらけだ」


 自分に言い聞かせるような声だった。


「でも、これだけははっきりした」


 ひかりとハヤトが未来を見る。


 未来は端末から目を離さず、低く言った。


「俺たち、もう完全に無関係じゃない」


 サイレンが鳴り続けている。


 黒煙はまだ空へ伸びている。


 戦いは、終わっていない。


 むしろ、ここからが本当の始まりだと、そんな予感だけがあった。



第11話


1秒の標的

第10話まで読んでいただきありがとうございます。


今回の話では、

「実戦の怖さ」と「それでも動くしかない状況」を

意識して描きました。


模擬戦とは違い、

正解も余裕もない中での判断。


未来たちにとって、

ここが本当のスタートラインになります。


そしてラストでは、

敵の目的に関わる重要なワードも登場しました。


まだ断片的ではありますが、

この先の展開に大きく関わってきます。


また、戦い自体もまだ終わっていません。

学園内では引き続き交戦が続いています。


次回、第11話「1秒の標的」


少しでも面白いと思っていただけたら、

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引き続きよろしくお願いします。

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