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アフェクト・ブレイカー ―感情が力になる世界で、たった一秒の能力を持つ少年の物語―  作者: paguzon


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第1話 希望の1秒

はじめまして。

この作品を開いていただきありがとうございます。


本作『アフェクト・ブレイカー』は、


「感情が力になる世界」


を舞台にしたバトル作品です。


主人公は、たった1秒しか力を使えない能力を持つ少年。

その制限の中で、観察と覚悟を武器に強敵と戦っていきます。


学園バトル、能力バトル、成長物語が好きな方に楽しんでもらえたら嬉しいです。


まずは物語の始まりとなる第1話、「希望の1秒」からお楽しみください。

もし、たった一秒だけ。


 世界のすべてを、自分の思い通りにできるとしたら。


 それは“希望”だろうか。


 それとも――


 ただの、錯覚だろうか。


数年前から、世界では奇妙な現象が確認されている。


 アフェクト。


強い感情が力へと変わる現象だ。


怒り、恐怖、悲しみ、喜び。

人の感情は、ときに常識を超えた力を生み出す。


けれど、その力は不安定なものだった。

制御に失敗した能力者による暴走事件は年々増え続け、いまではニュースでその名前を聞かない日の方が少ない。


 天城未来にとって、それはずっと遠い世界の話だった。


 少なくとも――今夜までは。


    


 コンビニの自動ドアが、音もなく開いた。


 夜気が肌に触れる。春先とはいえ、日が落ちるとまだ少し冷える。未来はレジ袋の中身を確かめるように覗き込み、小さく息を吐いた。


「……よし」


 買ったのはカップ麺と、おにぎりが一つ。

 高校生の夜食としては少し寂しいが、文句を言う相手もいない。


 未来は制服のポケットに片手を突っ込み、いつもの帰り道を歩き出した。


 どこにでもある住宅街。

 どこにでもある街灯。

 どこにでもいる、普通の高校生。


 それが、自分だと思っていた。


 成績は中の下。運動は嫌いじゃないが得意でもない。友達はいる。いじめられているわけでもない。特別幸せでも、特別不幸でもない。


 ただ、半年前を境に、未来の日常は少しだけ静かになった。


 交差点で信号待ちをしていると、未来はふとガラスに映った自分の姿を見る。少し疲れた顔をした少年がそこにいた。


 未来は視線を逸らして、空を見上げた。


 薄い雲の向こうに月がある。


「……寒いな」


 自分に言ったつもりの言葉だった。


 けれど、そのあとに続きそうになった名前を、未来は飲み込んだ。


 半年前。妹が死んだ。


 事故だった。


 夜。ブレーキの音。誰かの叫び声。赤色灯。冷たくなっていく手。


 断片だけが、いまも妙に鮮明に残っている。


 未来は歩く速度を少しだけ上げた。思い出したくないのに、何かの拍子にあの日の光景は勝手に蘇る。


 何もできなかった。


 それだけが、胸の奥に棘のように刺さり続けている。


 そのときだった。


 ――ドォン!!


 夜の静けさを引き裂くような爆音が、前方から響いた。


 未来は、はっと顔を上げる。


 少し先の大通りの向こう、夜空が一瞬だけ赤く染まった。


「……っ!?」


 続いて、悲鳴。


 ざわめき。


 何人もの足音。


 人がこちらへ向かって逃げてくる。


「逃げろ!」

「アフェクターだ!」

「暴走してる!」


 その言葉を聞いた瞬間、未来の背筋を冷たいものが走った。


 アフェクト暴走。


 ニュースの中の出来事。


 画面越しにしか知らなかったもの。


 普通の人間は、関わらない方がいい。近づかない方がいい。そういう常識は未来にも分かっていた。


 分かっていたのに。


 気づけば、未来は逃げてくる人の流れに逆らって走り出していた。


「お、おい君!」

「危ないぞ!」


 誰かが呼び止めた気がしたが、止まれなかった。


 大通りに出た瞬間、熱気が顔を打った。


 交差点の真ん中で、一人の男が笑っていた。


 年は三十代くらいだろうか。スーツ姿のまま、ネクタイを引きちぎるように外し、焦点の合わない目で自分の腕をじっと見つめている。


 その腕の周囲の空気が、歪んでいた。


「は……はは……」


 男は壊れたように笑う。


「何だよ、これ……すげぇな……!」


 次の瞬間、男が拳を振り下ろした。


 ――轟音。


 アスファルトが爆ぜた。


 道路に蜘蛛の巣のようなひびが走り、近くの自動販売機が根元から吹き飛ぶ。破片が散り、ガラスが砕ける音が夜に響いた。


 未来は息を呑んだ。


 あれが、アフェクト。


 強い感情が力となって現れる現象。


 けれど目の前の男から感じるのは、力そのものよりも、むき出しの混乱と興奮だった。自分に何が起きているのかも理解できないまま、感情だけが暴れ回っている。


 完全に、制御を失っている。


「や、やめて!」

「誰か……!」


 少し離れた場所で、子どもの泣き声がした。


 未来が振り向く。


 交差点の歩道脇で、小さな女の子が尻もちをついていた。転んだのだろう、足を押さえて動けずにいる。その子を庇おうとした母親らしき女性も、散らばった瓦礫に阻まれて近づけない。


 男の視線が、そちらを向いた。


「……うるせぇな」


 低い声。


 男の腕の周囲で、再び空気が唸る。


 未来の喉がひゅっと鳴った。


 危ない。


 分かっている。


 あの子が巻き込まれる。


 分かっているのに、足がすくむ。


 怖い......


 無理だ......


 相手はアフェクト使いだ。普通の高校生が飛び込んでどうにかなる相手じゃない。


 頭の中で、いくつもの声がした。


 逃げろ...

 無茶だ...

 死ぬぞ...

 お前には何もできない...


 ――何もできない――


 その言葉だけが、妙に深く刺さった。


 赤色灯。

 誰かの叫び。

 伸ばした手が届かなかった夜。


 未来は、気づけば走っていた。


「っ――!」


 女の子の前に飛び込む。


 自分でも、何で身体が動いたのか分からなかった。


 少女の母親が目を見開く。


「き、君……!?」


 未来は自分の震える足を叱りつけるように踏ん張った。心臓がうるさいほど鳴っている。喉はからからで、まともに声も出ない。


 それでも、男を睨んだ。


「……ダメだろ」


 かすれた声だった。


 男がぎょろりと未来を見る。


「は?」


「そんな力で……理不尽に人を傷つけるのは……」


 男は一瞬ぽかんとしたあと、笑った。


「ははっ。何だ、お前」


 右腕が、さらに軋むように膨れ上がる。


「死にたいのか?」


 未来は、すぐに答えられなかった。


 死にたくないに決まってる。怖いに決まってる。逃げたいに決まってる。


 でも、ここで逃げたら。


 また、自分は何もできないままだ。


 未来は拳を握り締めた。


 爪が掌に食い込む。


 女の子のすすり泣きが背中越しに聞こえる。


 男が拳を振り上げた。


 終わる。


 そう思った、その瞬間だった。


 胸の奥で、何かが弾けた。


 熱い。


 心臓のすぐ近くで、小さな火種のようなものが一気に燃え上がる。


 視界が、鋭く澄んだ。


 空気の流れ。

 男の重心。

 拳の軌道。

 砕けたアスファルトの破片一つひとつまでが、ありえないほど鮮明に見える。


 世界が、、、遅い。


「――え?」


 自分でもそう声を漏らしたのが分かった。


 身体が勝手に動く。


 踏み込む。


 速い。


 いや、速すぎる。


 男の拳が目の前を通過するより早く、未来の身体はその懐へ潜り込んでいた。


 ただの素人の拳だ。

 フォームも何もない。

 けれど、その瞬間だけは桁が違った。


 未来の拳が、男の顎を打ち抜く。


 ――ドガッ!!


 鈍い衝撃音。


 男の身体が跳ねるように吹き飛び、数メートル先の地面に叩きつけられた。


 静寂...


 数秒遅れて、周囲から悲鳴とも歓声ともつかない声が上がる。


「い、今……」

「何が……」

「あの子、まさか……」


 未来は一歩、二歩とよろめいた。


 さっきまで身体を満たしていた奇妙な高揚感が、嘘みたいに消えていく。膝から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになるのを何とか堪えた。


「は……っ、は……」


 息が苦しい。


 全身が急に重くなる。


 たった今起きたことが、現実として処理しきれない。


 自分の手を見る。


 震えていた。


「……何だよ、今の」


「見事ですね」


 背後から聞こえた落ち着いた女の声に、未来は反射的に振り返った。


 そこには、一人の女性が立っていた。


 黒いスーツ。長い髪。夜の光の中でもはっきりと分かる、鋭く整った目元。


 彼女の後ろには、黒い車両が何台も滑り込んできている。ドアが開き、同じ制服を着た男女が手際よく現場の封鎖を始めていた。


「アフェクト管理局……」


 未来が呟くと、女性は軽く頷いた。


「ええ。私は神代ミサキ」


 彼女は倒れた男を一瞥し、続ける。


「特別監察官です」


 未来はまだ息を整えきれないまま、言った。


「今のは……何だったんですか」


 ミサキの視線が、未来の右拳へ落ちる。


「あなたのアフェクトですよ」


「……俺の?」


「そう」


 あまりにも自然に言われて、未来は逆に言葉を失った。


 自分が、、、アフェクター?


 そんなはずはない。そんな兆候は今まで一度もなかった。


 ミサキは未来の動揺を見越していたように、少しだけ声音を和らげた。


「あなたのアフェクトはかなり珍しいタイプです」


「珍しい……?」


「希望アフェクト」


 未来は聞き慣れない言葉に眉を寄せた。


「希望……」


「確認例が非常に少ない能力です。研究も進んでいない。正直に言えば、不可解な点が多い」


 不可解....


 その響きに、未来は少しだけ身構える。


「ただ、共通して確認されている現象があります」


 ミサキは淡々と告げた。


「極限状況で、瞬間的に桁外れの力を発揮すること」


 未来はさっきの感覚を思い出した。


 遅くなる世界。

 軽くなる身体。

 一瞬で相手の懐に入り込んだ、あの感覚。


ミサキは、未来の拳を見つめたまま静かに言った。


「ただ――その力を、都合のいい“希望を叶える力”だと思わない方がいい」


 未来は眉を寄せる。


「……どういう意味ですか」


「現時点では、まだ断定できません」


 ミサキはすぐには答えず、言葉を選ぶように続けた。


「確認例が少なすぎるの。だからこそ、名前の印象だけで受け取るのは危険です」


 未来は自分の拳を見る。


 さっきまでそこにあった力の感触は、もう薄れている。


 なのに、その言葉だけが妙に残った。


 希望。


 そう呼ばれた力なのに、ただ“願いを叶えるもの”として見てはいけない。


 その含みが、未来にはうまく飲み込めなかった。


「ただし」


 ミサキは人差し指を一本立てた。


「その持続時間は極端に短い。過去の例では、ほぼ共通して約一秒」


「一秒……」


 未来は呟く。


 短すぎる。


 たったそれだけで、戦えるのか。


 ミサキは頷いた。


「ええ。たった一秒」


 未来は拳を見つめた。


 一秒。

 さっき自分を動かした、あの力。


 それがなければ、あの子は助からなかったかもしれない。


 逆に言えば、一秒しかなければ、助けられないものの方が多いのかもしれない。


 胸の奥に、あの日と同じ無力感がよみがえる。


 何もできなかった自分。

 間に合わなかった自分。

 届かなかった手。


 未来は唇を噛み、顔を上げた。


「……俺、強くなれますか」


 ミサキは少しだけ目を細める。


「どうして強くなりたいんです?」


 未来はすぐには答えられなかった。


 でも、答えはずっと前から胸の中にあった。


「もう……」


 声が掠れる。


「もう、何もできないのは嫌なんです」


 ミサキは黙って聞いていた。


 未来は続ける。


「目の前で誰かが終わりそうなのに、見てるだけなのは……もう嫌だ」


 それは綺麗な言葉じゃなかった。格好いい決意でもない。ただの未練と後悔の延長だ。


 けれど、ミサキは笑わなかった。


「なら」


 彼女は封筒を一枚、未来へ差し出した。


 白い厚紙の封筒。中央には金の箔押しで校章が刻まれている。


 未来はそれを受け取る。


 表に書かれた文字を見て、思わず息を呑んだ。


 国立アフェクト学園


「能力者のための学校です」


 ミサキが言う。


「アフェクトの制御。戦闘訓練。知識。全部そこで学べる」


 未来は封筒を見つめたまま立ち尽くした。


 自分には無関係だと思っていた世界への、招待状。


「もちろん、強制じゃありません」


 ミサキは静かに言う。


「普通の生活に戻ることもできる。でも――」


 彼女は一度言葉を切り、未来の目を真っ直ぐ見た。


「あなたが本気で強くなりたいなら、来るべきです」


 未来は封筒を握り締める。


 答えは、すぐには出せなかった。


 けれど。


 夜風の中で、レジ袋が小さく揺れる。

 さっき助けた女の子は、母親に抱き締められて泣いていた。

 あの泣き声が、妙に耳に残る。


 未来は目を伏せた。


 半年前、自分は何もできなかった。


 その事実は変わらない。


 でも、今夜は違った。


 たった一秒でも、誰かを守れた。


 その重みは、未来の中で静かに広がっていく。


     


 その頃。


 事件現場から少し離れたビルの屋上。


 夜風の吹き抜けるフェンス際に、一人の少年が立っていた。


 黒い制服。

 鋭く冷たい瞳。

 風に揺れる黒髪。


 彼は、さっきの一部始終を見下ろしていた。


 暴走した能力者。

 飛び込んだ少年。

 そして、ありえない速度で叩き込まれた一撃。


「……希望アフェクト」


 少年は小さく呟く。


 その声には、皮肉でも驚きでもない、微かな興味だけがあった。


「珍しいな」


 彼はフェンスから身を離し、夜の街を一瞥した。


 赤色灯が瞬き、人が動き回るその中心で、レジ袋をぶら下げたまま立ち尽くしている未来の姿が見える。


 少年はわずかに口元を歪める。


「面白い」


 その男の名は、黒崎零。


 後にアフェクト学園最強の能力者と呼ばれる存在。


 そして、天城未来の運命を大きく変えることになる男だった。



第1話 「希望の1秒」 完

第1話を読んでいただきありがとうございました!


ここから物語は、

国立アフェクト学園を舞台に本格的に動き出します。


第2話では


・ヒロイン

・学園の能力者たち

・主人公のライバル


が登場します。


もし少しでも続きが気になったら、


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・感想


などをいただけると、とても励みになります!


それでは、次回もぜひよろしくお願いします。

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