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マキの薪

作者: チダム

初めての投稿です。今まで、個人的にいくつかの小説を書いて来ました。童話を書いたのは初めてです。イメージが膨らむ絵があるといいなと思います。

 今朝も裏山から神々しくお日様が昇りました。マキは家の中に朝日が射し込むのを待ち構えていたかのように早速立ち上り、お天道様に両手を合わせて"今日もいちにち元気でおられますように"とお祈りをしました。家の前には田んぼがありましたが、米は余り採れず泡と稗が採れるだけでした。でも、欲をかかなければ自分ひとりが生きて行くにはそれで十分でした。たまに山に入って木を切り、暫く乾燥させて薪を作り麓の部落へ行って売って歩くこともありました。秋から冬にかけてはよく売れました。

 「マキの作った薪はよく乾いていて、かまどの焚き付けにちょうどいい」ともっぱらの評判でした。薪を売ったお金で、さつまいもやおせんべいを買い年の瀬にはおもちを買ったりもしました。マキにはそれが何よりの贅沢でした。

 今日は、夕暮れから部落の鎮守の村祭りがあるというのを隣部落の百姓イチから聞いていました。そのせいもあってけさはお日様と一緒に目が覚めたのかも知れない。イチとは尋常小学校の時からの幼なじみで二十年来の旧知の友でした。そのためお米が足りなくなればお互い貸し合うくらいの仲でした。実のところはマキが借りてばかりいる事が大半でしたが……でもイチは「薪で返してくんな」といつも決まって言うのでした。

 マキはお日様が山の端にかくれる前に村祭りに行こうと思い、せっせと山を下って行きました。お寺には屋台がところ狭しと並んでいました。境内には舞台が作られていて、昔ながらの素人歌舞伎の準備をしているところでした。ひと通り回っているうちに人手も増え部落の人みんなが来ているのではないかと思われるほどになりました。ふと立ち止まると目の前に好物の団子屋の屋台がありました。つい立ち止まって眺めていると、ねじり鉢巻きのおやじさんから声をかけられました。

「お兄さん、おいしい団子だよ。安くしとくよ。おまけしとくよ。」

マキはちょうど腹も減ったしもらおうかなと思い懐に手を入れたところ巾着袋を持って来るのを忘れたことに気が付きました。すると、

「どしたい?お兄さん」と聞かれたのでつい、

「銭っ子持って来なんだ」と正直に答えました。

「大丈夫だよ、お兄さん。ツケがきくから。いくついるんだい、えぇ?」

マキはちょっと考えましたが、団子屋が親切に言ってくれているのだからと

「そんじゃ、ふた包下さい。」とイチも来てるだべと思い二人分買い、ツケを書いた紙と一緒に受取りました。

 竹の葉包みの団子をぶら下げながら、どこで食おうかなとウロウロしていると通りの反対側で同じようにキョロキョロしている人が目に止まりました。イチでした。イチは今来たばかりで同じようにマキを探していたのでした。ふたりは林の中のお寺の階段に腰をおろして食べ始めました。そして今年のお米の出来具合が芳しくないだの畑に熊が出て荒らされて困っているとか、麓の庄屋の娘がイチの部落の庄屋に嫁入りする事になったとか他愛もない話をしました。

 歌舞伎や民謡の歌合戦等、たいがいの出し物は終わった事だしもうひと回りして帰るべと立ち上がりました。ちょっと歩くとラムネ屋が目に入りました。イチに飲むべと誘われ戸惑っていると、「俺おごるよ」と言うので飲む事にしました。何年かぶりに飲みました。小学校の頃イチと飲んだラムネの味を思い出しました。イチとの昔話にホッコリした気分で家に帰りました。いっぱい歩いて疲れたのでふとんに入って寝ようと寝間着に着替えていると懐から紙が落ちました。アッ、そうだ。ツケがあったっけと思いだし何気なく見てみて真っ青になりました。団子をふた包み買っただけなのに"金百円也"と書いてあるでねえか。なしてあの時に確認しなかったのかと反省しましたが、それこそ後の祭りです。次の日村祭りのお寺に行ってみましたが団子屋がいるはずもありません団子屋の居場所の当てもなく、またこんな恥そらしなことを相談です人もなく月日だけが過ぎていきました。

 しばらくしたある日、畑仕事が終わってたくあんと野菜のぬか漬けで晩飯を食っていると戸を叩く音がしました。「誰だ、今ごろ」と思いながら戸を開けると、着流しで腕に入れ墨をした怖そうなおやじさんが立っていました。そして、

「こないだの村祭りで団子を買った時のツケを未だ払ってもらってねえですよね。ずっと待ってたけがいつんなっても返してもらえねえだで、探し回ってただ。利息が壱円ついたけが百円にまけとくよ」と言いました。マキはションベンちびりそうになりましたが、どもりながら言い返しました。

「ナナナ・・何が何でもヒヒヒャクエンはべらぼうじゃねぇですか?」

「はぁ、ナンダァ今ごろになってせっかく来てやったのにモンクあんのかぁ」

マキはもうビビって返事ができなくなってしまいました。何でこんなべらぼうな大金を払わなきゃならねんだと思ったけぇが、あの時ちゃんと見なかったオラがアホだったと思い、

「お金で返すのはできねんで飯炊き用の薪で払ってもかまわんですか?」と恐るおそる聞いてみたのでした。

「ナニー、薪だとぉ。ん~~しょうがねぇな。十年間薪を持って来い」という事で許してもらいました。その年からは下の部落へ行って薪を売る事が出来なくなり食うことにも事欠くようになり、今までよりももっと働かくてはならなくなってしまいました。

 野菜畑で草取りをしていると、久しぶりにイチが通りがかりマキを見てそれはびっくりしました。顔は赤黒くなりゲッソリ痩せこけていたからでした。イチはマキに駆け寄り、

「何があっただ?そんなになって」と声をかけました。イチは団子屋のいかさま師のような顛末を聞いて、

「それはべらぼうだよ。人のいいあんたをだますペテン師だよ」と言って、庄屋の甚右衛門さんに相談したらえぇと言って聞かせました。それでもマキは、

「オラがアホだからこんな目に合っただ。オラが悪いのに相談なんか出来んよ」と言うのでした。イチは、そんなあくどいあきんどをほっておいたら世のため人のためにならんからと甚右衛門さんちに必ず行くように説得したのでした。次の日マキは、オラのことを思ってあんなに一生懸命話してくれたのに行かなくてはイチに合わせる顔がないと一大決心をして庄屋さんちに出かけて行きました。立派な門をくぐって入ると庭先には先客が何人かいました。むしろに座って順番を待っていた時、顔見知りのヨタがいるのに気が付きました。

「ホイ、ヨタ。甚右衛門さんに何のお願ぇがあって来たんだ?」

「米をツケで買ってたけぇが、米屋に今までのツケを少しでも払ってくんねぇと売らねって言われたで甚右衛門さんに借金のお願ぇに来たんだべよ」

「へぇ、そういうこつかい。ヨタさんちもてぇへんだな。米ならウチに少しばっかりあるでよ。貸してやるよ」とつい親切心を出して言ってしまいました。そして、"また、アホな事をやっちまった"と思ったのでした。粟と稗とさつまいもがあるから死ぬこたぁねぇべと、甚右衛門さんにお願いする事も忘れて帰ったのでした。

 また、村祭りの季節がやって来ました。マキは今年は流石に行く気にはなれませんでした。部落からは太鼓やピーヒャララという笛の音が風に乗ってかすかに聞こえてきていました。ややもすると足が祭に向きそうになりましたが、イチからは"今年はオラは行かねぇからオメも行くな"と言われていたのでした。粟に米が少し混じった晩飯を食っていると、戸を叩く者がありました。イチでした。

「なんだ、イチか。どうしただ?」

「下の村祭りの辺りから煙が舞い上がってたんで、ひとっ走りして見て来ただ。ほだら、びっくりこいた。団子屋の屋台から火が出て、周りの屋台までみんな燃やしてしもた。こら大ごとだべさ。今さっき部落の火消しが出て、やっと消したところだ」

 翌日イチが燃えた団子屋のことを知らせに来てくれました。団子屋は着ていた浴衣に火がついて全身に火傷をしたそうだ。すぐに診療所に連れて行ったんだが、けさがた死んじまったんだとよ。駐在所のお巡りさんが原因を調べてたら屋台の引き出しの奥から借金のツケの証文が出てきた。それでマキのツケは"返すに及ばず"という事になったみてぇだ。

 マキはイチの話をポカンと口を開けていました。全然自分事に感じませんでした。ただ、団子屋に薪を持って行かなくてよくなって、昔のように粟と稗に米の混じった飯が喰えることを嬉しく思いました。そして今日からまた、お天道様、お月様、山神様と一緒につましい日々が送れることに感謝しました。

 今夜は何の心配もなく、自分の薪でわかした五右衛門風呂に入って寝るべ。

今後、ファンタジーを書いてみたいなと思っています。

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― 新着の感想 ―
今後への期待を込めて4星
薪10年分は大変ですね。
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