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残照  作者: 吸坂路庵
5/6

虚実の間

 目覚めたとき、ラナは自室の天蓋の下にいた。

 見慣れた天井。聞き慣れた静寂。だが、何かが――少しだけ、ずれていた。


 夢を見ていた気がする。

 誰かを追って、扉を開けて、階段を駆け上がって――

 そして、その誰かに“魔眼”を、

 ……何を?


 ラナは額に手を当てた。

 うっすらと汗ばんでいる。記憶の霧はまだ晴れない。


 扉をノックする音。

 クレイグの声が続く。


 「起きているか? ……昨夜、“宵の第四鐘”の頃、君はどこにいた」


 ラナは内心で警鐘が鳴るのを感じた。

 何かあったのだ。


 扉を開けると、彼は一枚の書類を差し出してきた。

 ギルド監視局の報告書だった。


【被害者】ナリア・エスピオ(光系魔術師)

【発見時刻】宵の第五鐘頃

【遺体状況】眼球摘出/部屋に争った形跡なし

【死因】魔力の過負荷による脳焼損

【目撃情報】第四鐘の少し前、ギルド外套を着た女と会っていたとの証言あり


 ラナは無言で紙面を睨んだ。

 ギルド外套の女。ラナが身につけているものと同じ――


 「監視記録が一部、途切れていた。観視壁に干渉が入っている」

 クレイグの声は低く、よく通った。

 「……それが、“君の魔術痕跡”に極めて近い形だった」


 沈黙。


 「否定はしないのか?」


 「……できない」

 ラナは目を伏せた。

 「私、昨夜の記憶が一部抜けているの」


 それは事実だった。

 ナリアの死に関与した明確な記憶は、ない。

 だが、“そこにいた”という身体感覚がある。

 まるで、第三者の視点でそれを見ていたかのような感覚――


 「誰かに“視られて”いた可能性がある」

 ラナの言葉に、クレイグは一瞬だけ目を細めた。


 「……まさか。君の中に“魔眼”が?」


 ラナは小さく頷く。

 それは恐怖ではなく、確信だった。


 もし、“視られること”が、記憶や行動にまで影響するのだとしたら――

 自分がナリアを殺した可能性は、否定できない。


 否応なく浮かぶ言葉。


 ――誰が、誰を、視ていたのか。


 ラナの記憶に、ロゼの死の直前の声が蘇る。


 「虚ろの魔眼は、視たくないものまで視えてしまうんだよ」


 その“視えたもの”が、殺意でなかったと言い切れるだろうか。

 それが“他人の感情”であったとしても。


 「……クレイグ」

 ラナは静かに口を開いた。

 「私は、真実が“どちら”だったかを見極めなければならない。魔眼の記憶が、私を“殺人者”に変えたのか、それとも――」


 「君自身が、殺したのか」


 二人の間に、長い沈黙が落ちた。

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