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残照  作者: 吸坂路庵
3/6

視えぬもの

ヴァラスト伯爵の弟子は、七人。

 火、水、風、土、光、闇、そして――時間。

 彼のもとで学んだ異能の徒たちは、それぞれ異なる魔術系統を受け継いでいた。


 だが、そのうちのひとり――〈風の魔術師〉ロゼ・カルナティアが消息を絶ったのは、処刑のわずか二日後のことだった。


 ギルド監視局が記録した異常な魔力反応をもとに、ラナとクレイグが訪れたのは王都郊外の廃礼拝堂。

 瓦礫と埃に覆われたその場所の奥――、古びた祭壇の前に、女の遺体は横たわっていた。


 そして、

 彼女の両目は、くり抜かれていた。


 眼窩には黒く乾いた血痕だけが残り、周囲の皮膚には爪か刃物のような痕跡があった。

 ただし、くり抜き方には一定の“技術”があった。人体の破壊ではなく、器官を摘出する目的で行われた処置――そう見えた。


 クレイグがしゃがみ込み、懐から銀のペンデュラムを取り出す。

 遺体の上空を振り子が旋回しはじめ、やがて低く呻くような音が鳴った。


 「……眼球そのものが、魔力器官として転用された可能性がある」


 ラナは床に散らばる護符の破片を拾い上げる。風系結界術式の符。

 ロゼは抵抗したのだ――だが、それは敵の前には無力だった。


 「魔眼は、眼そのものを宿主にする……。視る力を奪い、あるいは他者の視線を得る」


 祭壇の上に置かれた古い鏡が、僅かに曇っていた。

 ラナはその鏡に近づき、わずかに手を触れる。


 その瞬間、視界がねじれた。


 一瞬だけ、白くぼやけた視界――

 見知らぬ夜道。背後から近づく人影。

 振り返るロゼの驚愕。

 そして、誰かの声。


 ――「視えたくないものまで、視えてしまうんだよ」


 ラナは目を開け、鏡から手を離した。

 息が荒くなっているのに気づき、深く呼吸を整える。


 「誰かが、魔眼の力を手にしている。そして、それを“移植”して回っている可能性があるわ」


 「……魔眼狩りか」


 クレイグの言葉に、ラナは黙って頷いた。


 七人のうち、一人が殺され、眼を奪われた。

 それが“偶然”とは思えなかった。


 奪われたのは、眼球ではない。

 視線。意志。記憶。そして、力。


 それを必要とする“誰か”がいる。

 魔眼を求めて。

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