第二章09:予言/寓話
絶望の漆黒が、まるで虚無のブラックホールのように詩钦へと襲いかかり、彼女の意識を吸い込んでいく!
彼女は何の反応もできず、ついには虚無の中に――血で染まった両手が現れた……
その手は、そっと詩钦の魂を抱きしめた……
そして、不気味な女の声が響いた。
『私は信じてるよ……』
その声の主は、全身が真っ黒で色のない影のような存在。だが、姿形からして、おそらく女だろう。
詩钦が反応する間もなく、彼女の魂は――砕け散った!
次の瞬間、詩钦の魂は“記憶”の中に現れる。
気づけば彼女は、弟のそばに立っていた。弟は深い悲しみにくれて、泣き崩れていた……
そしてその場所、その理由――すべては詩钦の目の前にあった。
「私の……葬式?」
戸惑う詩钦は魂の姿で、泣きじゃくる弟の肩に手を置いてみた。だが弟はほとんど反応せず、ただ首の疲れをほぐすような動きをしただけだった。
「じゃあ異世界とか……全部夢だったの?」
考え込む暇もなく、弟は立ち上がり、詩钦の墓前に花を手向けた。
詩钦はその一部始終を見つめながら、言葉を失っていた。
*弟はきっと、ものすごく辛かっただろうな……もともと、家には私たち二人しかいなかったのに……*
*なのに私は、仕事のせいで元気を失って……事故で突然……*
だが、今の彼女はこの世に残ったただの一片の残魂でしかない。
どれほど詩钦が願っても、謝罪の思いを弟に伝えることはできない。
後悔の念が胸に溢れ、声も出ない……
――だがその時、空が突然暗くなった。
世界は一瞬にして、死の静寂に包まれた!
弟も親族も、その刹那には塵へと還った!
その光景を見た詩钦は、咄嗟に両手を伸ばし、その塵を留めようとした!
「なんで世界が真っ暗に……弟っ!」
手のひらに残された、儚く消えゆく塵を見つめながら――
思慕と悔恨が、ついに抑えきれなくなる……
肉体はないのに、涙だけは流れ落ちていた。
詩钦は最後の塵を額の中心にそっとあて、ただ一言――弟に向かって、謝った……
『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』
次の瞬間、空を覆った闇が、詩钦を丸ごと呑み込んだ!
何かを構える間もなく――
視界は漆黒となった……
【死亡】
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【逆流】
「わっ……!」
詩钦は思わず、再び目を見開いた。そして彼女の目に映ったのは――
*なにこれ……なんで、私ここにいるの……?*
なんと彼女は、宗門試験の終了直後の時間軸に戻っていたのだった!
老人:「霊根も魔力巣も陰体も……」
老人:「惜しいが、家に帰るがよい。」
その言葉を聞いた詩钦は、驚きに満ちた顔で台を降りる。よろける彼女を、父・柯绯吾がすぐに抱きとめた。
*一体何が起きてるの!? どうして私はここに……まさか、走馬灯ってやつ?*
柯绯吾は詩钦の顔色を見て、心配そうに家へ連れ帰ろうとする。
だがそのとき、またあの劉家の家主が現れ、柯绯父娘をあざけるように言った。
劉家主:「柯绯家は本当に不運だな。せっかく娘が目を覚ましたのに、ただの無能者だったとはねぇ~」
「……」
詩钦は黙ったまま、思考を巡らせていた。
この世界の論理は……どうなってるの?
なぜ自分はここに戻った? さっきの出来事はすべて幻だったのか?
柯绯吾は娘の息が荒くなるのを感じ、彼女の前に立ちはだかって叫んだ。
柯绯吾:「劉家主、もうよせ!これ以上くだらぬ侮辱をするな!」
柯绯吾:「钦児、さあ帰ろう!」
「……」
詩钦は何も言わず、父の後について歩く。
だが劉家主はなおも口を止めず――
劉家主:「どうせ、自分の無能さを隠してるだけだろう?お前と妻が無能だったから、娘も無能に育ったんだ!」
劉家主:「おいおい、なんだよ、どんどん早歩きになってるな?聞くのが怖いのか、恥ずかしいのか――」
「黙れ!」
詩钦が怒鳴った瞬間、劉家主の足元に氷の棘が現れ、危うく喉を貫くところだった!
劉家主:(!!!)
それを見た周囲の者たちは皆、驚愕せずにはいられなかった。
しかし再び振り返ったときには、柯绯吾はすでに詩钦を連れて、その場を立ち去っていた。
三人の宗門長老がその場に現れ、突如現れた氷の棘を興味深そうに観察する。
慶長老:「これは陰気でも寒気でもない……奇妙な氷だ。」
曾長老:「さっきの子供、ただ者じゃないな……劉家主、その子の家はどこだ?」
柯绯家に何かの大きな機運が巡っているのではと感じた劉家主は、慌てて答える。
劉家主:「し、知らぬのです!あの家はいつも住所を明かしていませんで!」
慶長老:「そうか?だがさっきの口ぶりでは、随分と親しそうだったな?」
劉家主:「そ、それは同じ市場で商売してるから面識があるだけで、本当に住まいまでは……!」
曾長老:「ふん、では今回の試験が終わったら、その市場まで案内してもらおうか!」
これを聞いた劉家主は、もはや言い逃れできなかった。
劉家主:「は、はい……」
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••••••••••
だが、詩钦と父は家へは戻らず、市場へと足を運んでいた。
突然の展開の変化に、詩钦は頭を痛めていた……
柯绯吾:「钦児、氷砂糖の串、食べたいか?」
「……うん」
そう答えると、柯绯吾は氷砂糖の串を買いに行った。
その隙に、詩钦は父から少し離れ、辺りをふらふらと歩き出した。
そのとき――ぼろぼろの服を着た乞食が詩钦の前に現れ、彼女の手を掴んだ!
「ごめんなさい、お金持ってないの」
乞食は何も言わず、ただ笑っていた。
「ほんとに持ってないってば!」
次の瞬間、その乞食の瞳孔が――異常変化!
眼球全体が瞳孔に変わり、白目が消えた!
*気持ち悪っ!*
その笑みはどこまでも不気味で、掴む力もどんどん強くなる!
詩钦がいくら抵抗し、助けを求めても――効果なし!
世界は静止したように、モノクロに染まり、誰も彼女に気づかない!
「お前……いったい何なんだ!」
乞食:【お前は輪廻を侮った代償として、死ぬだろう】
「……は!?どういう意味!」
次の瞬間、乞食の姿はかき消えた!
世界は再び、何事もなかったかのように動き出した!
誰一人として、あの乞食を見た者はいなかった。
詩钦の叫びも、誰の耳にも届いていなかった。
ただ、そこに残されたのは詩钦と――止まぬ余韻だけだった。
あれはいったい何だったのか!
あの乞食は何者だったのか!
化け物か?
あの言葉の意味は一体――!
柯绯吾が詩钦を見つけ、氷砂糖を手に近づいてきた。
だが、そのときの詩钦の瞳――完全に変わっていた。
普通の瞳ではなく、“輪廻”の形を宿した異様な瞳孔に!
柯绯吾:「……異瞳!?钦児、どうして君の目が――」
「私は……死ぬんだ……」
虚ろな瞳の詩钦を見て、柯绯吾は手の氷砂糖を落とし、彼女の身体を揺さぶる!
柯绯吾:「钦児、大丈夫か!しっかりしろ!」
【お前は輪廻を侮った代償として、死ぬだろう】