第二章22:脅威の拡大
章延がまたもや、私の乄を一気に貫いた!
その衝撃で、私はその場に崩れ落ちる。
──でも、私はもう雪鱗の斬撃範囲の外にいた。
そして──章延は……。
彼はちょうど、その範囲の中にいたのだ!
*章延、おしまいだ!!!*
「クソッ、クソッ、クソッ!」
状況の悪化を悟った章延は、魔刀でなんとか防ごうとする。
「ドン!!!!!!!」
今回の神言・抜刀斬も、変わらずの衝撃。
私ですら、巻き込まれそうになった……!
眩い刀光が空間を切り裂き、その後、章延は重く地面へと崩れ落ちた。
私は勢いよく雪鱗の方を見たけれど──
雪鱗の表情は、むしろさっきよりも沈んで見えた。
怒っているわけでも、不快そうでもない。
……そこにあったのは、未練と哀しみの色。
なぜ、彼女がそんな顔をしているのか……私にはわからなかった。
だから、私はただ黙って見つめていた。
……
…………
雪鱗がようやく言葉を紡ぐ。「ごめん……怒ってたわけじゃないの」
彼女が自ら話し出したことで、私は軽くうなずく。
彼女は何も言わず、ただ腰に携えた太刀を見せてきた。
雪鱗:「この太刀……これは兄の子供の頃の誕生日プレゼントで……そして兄が一番望まなかった贈り物……」
私は、その言葉に少し戸惑った。
「……どうして?」
雪鱗:「その贈り物が……兄から、大切な仲間の命を永遠に奪ってしまったの……それ以来、兄はもう二度と剣を振りたがらなかった」
その話を聞いて、私は言葉を失い、ただ静かに心で理解しようとした。
雪鱗:「……信じられないかもしれないけど、さっき神言を唱えていたとき、兄の仲間の魂が一瞬……見えたの」
その一言に、私は思わず息を呑んだ。
雪鱗:「でも、それはほんの一瞬だけで……」
「……何か、言ってたの?」
雪鱗:「……魂って、話せないんじゃないかな?」
*……ということは、何も言わなかったのか……?*
そう思いつつ、私は周囲の様子に目を向けた。
「さっきの斬撃で壊れた壁の向こう、道があるかも。行ってみよう?」
雪鱗:「……いいよ。ついていく」
そして、私は彼女を先導して歩き出した。
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〈雪鱗視点〉
──けれど、腰の太刀は静かに紫の瘴気を漂わせていた。
そして、彼女だけに届く声が響く──
『認めない……許せない……』
『怒りが収まらない……復讐したい……』
太刀から溢れ出るその呪詛は、どんどんうるさくなっていく──
もう、我慢できない!
雪鱗:「……黙れ!!」
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〈詩钦視点〉
突然の怒号に、私はびくっと身体を震わせた。
けれど──さっきまで、何も聞こえなかったはず……?
*私は……何も言ってないよね?*
雪鱗:「ごめん、あなたに怒ったわけじゃないの……」
「ううん、大丈夫。先に進もう」
──私は内心、彼女が二重人格か何かじゃないかと疑いながら、遺跡の奥へと足を進めた。
……
……
──すると、しばらくして。
背後にある章延の亡骸のあたりから、何人かの話し声が聞こえてきた。
??:「任務どおり、血刀だけを回収。他は無視。」
??:「了解。」
??:「輪廻に罪なし。願わくば……」
その会話を聞いて、雪鱗が表情を険しくする。「どうしてあの人たちが……!」
「誰のこと?」
雪鱗:「シーッ、早く!逃げるよ!」
何が起きたのかわからないまま、私は彼女と共に駆け出した。
……
……
どれほど走ったのかもわからない。
やっとのことで、遺跡の出口が見えてきた。
走る途中で、雪鱗がさっきの集団の正体を教えてくれた。
──それは、この世界で最も恐れられる存在、
『無罪衆』!!!
無罪衆の階級構成:
1.無罪三廷(操る者たち)
2.無罪執掌主持(最強の12人)
3.峰位信徒(主持に従う)
4.常位信徒
さっきの者たちはその信徒であり、中に一人は峰位だったかもしれない。
そして彼らは、任務の指令に従い、ただ動くだけ。
その任務の指令元こそが──無罪執掌主持!!
「それなら、早く外に出て逃げなきゃ!」
……そう言う私を、雪鱗が制した。
雪鱗:「遺跡の出入り口には、すでに無罪衆がいるかもしれない。もしかすると……執掌主持も。」
雪鱗:「最悪、修仙者や使者、長老たちがすでに戦闘している可能性もある……」
「……じゃあ、どこにいても詰みじゃん……」
雪鱗:「……まず私が様子を見てくる」
彼女はそう言い残し、外へと一人で歩いていった。
……
……
──けれど、いくら待っても帰ってこない。
私は不安に駆られ、自分の足で様子を見に出た。
──そして、目に入った光景に、息を飲んだ。
結界が破壊され、修仙者たちの亡骸が辺り一面に転がっていた。
一本の大きな木杭に、長老の体が貫かれ、地面に打ちつけられていた。
だが、彼はまだかすかに息があった。
長老:「げほっ……あいつは……怪物……」
「誰のこと? 一体誰が?」
長老:「お前は……侵入者か……」
長老:「お前たちのせいだ! 咳っ……あいつらを……招き入れたのは……」
「そんな……私、何も知らない……!」
長老:「言い訳は不要……まだ心に善が残っているなら……弟子を、頼む……」
──命の終わりに、なおも弟子を案じる長老の言葉が、私の胸を突いた。
「……わかった。できる限り助けてみせる。……でも、あなたを傷つけたのは誰?」
長老:「ふふ……そんなの、決まってるだろ……無罪衆……その……執掌主持……」
「執掌主持が来てるの……!?」
その言葉を最後に、長老の光は消えた。
私は、彼の遺志を継ぐことを決意した。
──けれど、今一番優先すべきは……姿を消した雪鱗!
『まさか、俺が──』
『お前に最初に出会う主持になるとはなぁ……』
その声に、私は顔を向けた。
そこにいたのは、少年の姿をした者。
肌は異様に白く、深いクマが目元を覆っていた。
彼はあくびをして……
眠そうな顔で立っていた。
「……あなたは誰?」
『ようこそ、神造者……』
『俺は……』
『ふぁぁ~~~~……』
……名前を名乗る前に、彼は芝に倒れ込み、眠り始める。
目をこすりながら、またあくび。
「ふざけないで! 雪鱗はどこに行ったのよ!」
『ふぁ~~~~……そんなに焦るなって……』
『人生、つまらないと思わないか?』
『どうせ、皆いつかは死ぬ……』
『どうせ、忘れ去られる……』
『努力なんて……無駄だろ……』
『ふぁ~~~~……』
「それでもいいから、名前を名乗りなさい!」
『俺の名前……?』
『俺の名前は……』
『勉勉……』
「眠眠……?」
『俺は無罪執掌主持……』
『担当する罪は……』
『慢心──』
こいつが、まさかの……無罪執掌主持!
そして、その名が意味する通り。
彼の担当は──『慢心の罪』!
──まずい……これは本当に、まずい……。