第二章15:執掌主持の乄
彼女があの構えを見せて、太刀を握ったその瞬間、私はもう察していた!
「おちつけおちつけおちつけ!!」
雪鱗:『逝者は灰となり、生者は俗界に入り、世は常なり、鬼さえも泣く……与哇の破壊もまた然り……斬り尽くし…あるいは絶えよ!』
言い終えたその刹那、彼女の体からまばゆいばかりの血色の光が溢れ出した!
次の瞬間――太刀が柄から引き抜かれ!
さらに力強く、振り下ろされた!
重たき血色の斬撃が、遺跡の入り口めがけて飛び込んでいく!!!
周囲の木々さえ、白黒に染まった!
「な、なんだこの威力……」
『ブシュ------』
『ドゴォオオオオオ!!!!!!!!』
遺跡は……本当に彼女にメチャクチャにされた……。
私は、唖然とした。
でもその衝撃に浸る間もなく、雪鱗が私の手を引き、遺跡の中へと一気に走り込んできた!
……
!!!!!!!!!
遺跡へと足を踏み入れたその瞬間、目の前の世界が、まるで別の姿に変貌した!
青空は淡い紫に染まり、ときおり流れ星が横切っていく。
そして、あの壮大な建築物たち……
雪鱗:「詩欽、目を覚まして」
声は聞こえるのに、姿は見えない。
続いて、突然の浮遊感と、胃をひっくり返すような落下感が襲ってきた!
反応する間もなく、私は目を見開き――
見知らぬ空の下で目を覚ました時には、すでに空から落ちていた!
「うわあああ、なんで私、空にいるの!?」
雪鱗:「そこにいるわ!」
彼女の声を追う間もなく、空中を飛ぶ小さな飛行艇が、ぴたりと私を受け止めた!!!
でもバランスを崩し、激しく転げ落ち、あと一歩で飛行艇から落ちそうに!
その刹那、雪鱗が素早く片手で、落ちかけた私の体を引き戻した!
「はぁ……死ぬかと思った……ありがとう、雪鱗……」
雪鱗はホッとしたように微笑んで、「礼には及ばないわ。感謝すべきなのは、今回の任務を依頼した私たちの仲間よ」
彼女の指差す方を見やると――そこには、修行者らしき白衣の男が一人、静かに立っていた。
*……まさか本当に、私たちを雇った理由は、殺して財宝を奪うことじゃなかった……?*
白衣の男:「忘川嬢、この武の心得もない娘を連れてきた理由は、一体何をお考えで?」
疑念に満ちたその問いに対し――忘川嬢こと忘川雪鱗は、淡々と応えた。
「彼女の体質は、普通じゃない」
(⊙_◎)
体質って、何!?血が他人より厚いとか!?
すると、操縦していた白衣の男の動きが、わずかに鈍くなり――
視線が私に向けられた瞬間、まるで信じられないものを見たかのような表情に変わった!
だが、それもわずか二息の間。
すぐにその視線は逸らされ、飛行艇の操縦に集中し直した。
白衣の男:「忘川嬢、彼女……どこで見つけたのです?」
雪鱗:「それは、大して重要じゃないわ」
「ふふ……」
白衣の男:「ならば、深くは問いますまい……」
白衣の男:「我が名は章延、どうか良き協力関係となりますように、柯緋嬢」
!?!?
急に態度変わった!?いや、それより――
なんで私の名字知ってるの!?
(柯緋詩欽、がフルネーム)
……たぶん、雪鱗が教えたんだろうね?私自身は言った覚えないけど。
「う、うん……こちらこそ、よろしく……よろしくね……」
私の返事を聞くと、章延はもう何も言わず、静かに飛行艇を操っていた。
正直、この人めっちゃ変じゃない?
見た目クール系なのに、感情読めないし、でも時折すごく不自然な反応をする。
遺跡の空はどんよりしてて、ときおり魔獣の叫びや、修行者の飛剣の音が聞こえてくる。
それに――私がここに連れてこられた“理由”って、何なの?
私の何が使えるっていうの?
そんな疑問を抱えていた時――雪鱗が先に口を開いた。
「さっき遺跡に入った瞬間、時空の乱れを感じたんじゃない?」
「うん…よく分かんないけど……空が淡い紫で、ちょっとピンクっぽくて……流れ星もあった……」
「で、下には大きな建物がたくさん……今まで見たことないような魔球があった」
雪鱗:「魔球…そして淡紫の空……」
雪鱗:「思い出したわ、あなたはさっき、誤って魔界に入り込んだのね」
……
!?!?!?!?
「魔界!?この世界、そんなのもあるの!?」
雪鱗:「あなた、どこの世界から来たの……?魔界も魔王も普通にあるわよ。けど、私たち修行者と魔王城は関係がないから、互いに干渉しないの」
その時――今まで黙っていた章延が、突然口を開いた。
「我らには老祖がいる。いずれ戦があろうと、我らは決して敗れん」
その言葉を最後に、皆が静まり返った。
――地面には、魔獣の死骸が転がっている。
「この魔獣たちも、魔界の?」
雪鱗:「この遺跡は魔界の支部の一つ、“廃域”と呼ばれているの。魔獣は魔素に呼ばれて生まれた存在で、魔界の統治下にはないわ」
雪鱗:「本当の魔界の住人は、知性を持っている」
「じゃあ、修行者の敵は……魔界なの?」
雪鱗:「違うわ。敵は【天道】よ」
「天道って……例の、機嫌損ねたら雷でぶっ叩いてくるっていうあの――」
雪鱗:「言い過ぎよ。頭上三尺に仙明ありって、聞いたことない?」
「はいはい……」
雪鱗:「噂では、天道は人の姿をとって現れ、出会った者に“死の予言”を残すって」
……あの予言!私、生き返った時に聞いた!
雪鱗:「その顔……まさか、あなたも渡されたの?」
「……雪鱗も?」
雪鱗:「あるわ。興味ある?」
「ある!めっちゃ聞きたい!」
雪鱗:「【お前は自由なる身を失うだろう】」
………………
「それが……死の予言?本当に天道が言ったの?」
雪鱗:「間違いないわ。あの目を見れば分かる。あれは、老祖たちすら凌駕する存在よ」
「じゃあ……その予言通りなら、誰かが雪鱗を閉じ込めることになるの?」
雪鱗:「あるかもね?あなた、私を強く見すぎてるのよ。強い人なんて、上には上がいるわ」
そう言われると、私はつい興味が湧いてしまった:「じゃあ、雪鱗の“境界”って?」
雪鱗:「私は、形塑境よ」
「……強い?」
雪鱗は、一息だけ私をじっと見て――
雪鱗:「ふふ……修行の境界は、魂啓、魄聚、形塑、神錬、骨鋳、肉盈、魄定、そして真還と続くわ」
(メモ中)
*……なんか、世界観でかすぎない?いずれ破綻しそう……*
そう思いながらも、私は何の才能もない、ただの人間。
修行も、魔法も、呪文も――まったく無縁の存在……
「っていうか、私はあなたたちにとって、何の役に立つの?」
その言葉に、二人とも――なぜか沈黙した。
(ó~ò)?
雪鱗:「だって、あなたは特別だから」
逃がさないぞ!
「どこが特別なの?」
雪鱗:「うーん……自覚ないの?変な力、持ってるって」
「え、ある?」
呼吸器がおかしいくらいで、特に普通だと思うけど?
雪鱗:「あなたのその力は、【乄】よ。無罪衆の執掌主持たちが持っている力」
無罪衆……?
あっ!思い出した!
書物で読んだことある、あれは邪教だ!
“悪を根とせず、罪もまた無い”と謳う十二の執掌主持――
この世界最大の脅威で、魔王軍の六魔将よりも強大と言われていた!
そしてその力の根源が、万の術を超える一つの力――【乄】
【乄】があれば、ただの非力な人間でも、万国を脅かす存在になれる!
「私の中に……乄が?」
「ってことは、私、執掌主持!?」
……
雪鱗:「執掌主持は皆、狂人よ。あなたがそうだとは思えない」
「じゃあなんで、この力が……?」
雪鱗:「だって、あなたは“神造者”でしょ?」
「……」
本当に……そんなに分かりやすいの?




