8 新しい住処
案内されたのは、白く塗られた二階建ての木造建築で、屋根は赤色、窓は出窓でとても可愛らしい。
一階は水回りのものと大きなリビングがあり、必要な家具は全て揃っていた。
二階に続く螺旋階段を上ると、寝室の他に部屋が二つあった。
寝室以外の部屋は作業部屋や客室として使うのはどうかと、私の専属侍女たちが笑顔でアドバイスしてくれた。
侍女たちは私が家族と仲が悪いことを知らないので、家族を呼べば良いと思ってくれているみたいだった。
聞かれたら、私と家族の仲が悪いことを知らせようと思う。
家は城壁内にあるし、ノーンコル王国にいた時にはいなかった専属侍女や使用人までいて、今までの待遇は何だったのかと言いたくなるくらいだ。
他の聖女がどんな暮らしをしているか聞いたことがなかったけれど、こんなものなのか聞いてみることにしよう。
ああ、そうだわ。
世界樹がある小島に続く橋がどこにあるのかも確認しなくちゃいけないわ。
でも、今はもう少しだけ新しい家の中を探検してみましょう。
そう思い、寝室からの景色を見てみようとバルコニーに出てみた。
すると、私の視界に飛び込んできたのは大きな湖だった。
湖の沖のほうには世界樹らしきものも見える。
隣の家の下にはテラスがあり、聖女が渡るための橋があった。
「至れり尽くせりね」
私の家と橋が繋がっていないのは、ソーンウェル王国の本当の聖女がその家に住んでいるからなのでしょう。
気を遣って言い出しにくいなんてことがあってもいけないから、私のほうから聞いておく。
「隣の家に住んでいらっしゃるのは、怪我をした聖女だったりするのでしょうか」
「そうでございます。……あの、申し訳ございません」
「どうして謝るんですか?」
「リーニ様はソーンウェル王国の聖女様です。本来ならば隣の家に住んでいただくべきだとわかってはいるのですが」
「謝らなくて良いですよ。私が来たからといって、今まで住んでいた家から出ていってほしいだなんて思いません。お大事にしてほしいです」
笑顔で言うと、長いダークブラウンの髪を二つに分けて三つ編みにした、まだ幼さの残る可愛らしい顔立ちの侍女の一人であるレイカや、近くにいた使用人たちは安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、リーニ様」
「……もしかして、以前に何か問題が起きたのですか?」
レイカたちが大きな息を吐いて胸をなでおろしたので、気になって聞いてみた。
すると、レイカが代表して謝ってくる。
「……申し訳ございません。わたくし共の口からは」
個人情報でもあるし、その人の名誉にもかかわるから、自分たちは話すことができないということかしらね。
「気にしないで。でも、私はどうやってあの橋まで行けば良いのかしら」
「隣の家にテラスに出る扉があり、その扉は聖女様しか開けることができません。一階は関係者の出入りは自由となっておりますので、いつでもお使いください」
一階はということは、二階に聖女がいるということね。
隣の家に住んでいる聖女が生きている限り、新たな聖女は生まれない。
代理聖女とはいえ、ルルミー様とはまだ付き合っていかないと駄目なのね。
少し気が重くもあったけれど、新しい生活に慣れていけるように、レイカたちにソーンウェル王国でのタブーなどを教えてもらうことにした。
その日の晩、両陛下が私を呼んでいると連絡があり、謁見後に夕食を共にすることになった。
その頃、ルルミー様もノーンコル王国で王家から歓迎を受けていた。
私たちが呑気にしている時、各国の周りで棲み分けをしていた魔物たちが、ノーンコル王国に向けて移動を開始していることなど考えもしていなかった。