7 選ばれた理由
戻ってきたミーイ様にディオン殿下が聖女代理の話をしたと言うと呆れ顔になった。
「リーニ様はこちらに来られたばかりなのですよ。それなのに、もうそこまでお話しされてしまったのですか」
「……彼女はこの国で頑張ると言ったんだ。それに聖女が嘘をつくわけないだろう」
「何を言っているんですか! ルルミー様という悪い例を目の当たりにしたではないですか」
「彼女は代理だし……、いや、軽率だったな。悪かった。何かあった時には俺が責任を取る」
部下の意見に耳を傾けるのは当たり前のようでいて、貴族や王族の間では難しいと言われている。
部下は遠慮して言えずにいるし、上の立場に当たる人間も何でも言えと部下に言っておきながら、自分のやり方にケチをつけるなと怒り出す人も多い。
だから、ディオン殿下が怒らずに素直に謝っているところは好印象だった。
比べるのは失礼だとわかっているけれど、ノーンコル王国の国王陛下は明らかに間違っているとわかっていても指摘されるのを嫌っていたから余計にそう思ってしまう。
一番、酷いと思ったのは、国王陛下が怒りに任せて、その場で気に食わない相手を切り捨てようとした時だった。
即死だと治癒は間に合わないし、死んでしまった人を生き返らせるようなことはできない。
たまたま私がその場に居合わせて、すぐに治癒魔法を施したから助かったけれど、そうでなければ、その人は今頃はこの世にいない。
「リーニ様、どうかされましたか」
過去のことを思い出して眉根を寄せていたせいで不機嫌になっていると思われたらしい。
ミーイ様が心配そうな顔で尋ねてきたので、慌てて首を横に振る。
「私に信用がなくて申し訳ございません。あの、秘密は必ず守りますので、ご心配なく!」
「失礼いたしました。リーニ様を疑っているわけではないのです。そのように取られてしまうような態度を見せてしまい申し訳ございませんでした」
ミーイ様は眉尻を下げて続ける。
「リーニ様もお聞きになったと思いますが、ルルミー様があんな調子でしたので、もう少し、日にちが経ち、リーニ様の人となりがわかった時点でお知らせしようと思っていたんです」
「ルルミー様とは私も色々とありますので、気持ちは理解できます。ですが、ルルミー様は代理だからであって、私も含め、他の聖女はあの方のような人物ではありませんので、ご安心ください」
ルルミー様のせいで、私はともかく他の聖女たちが悪い印象を受けるのは納得いかなかった。
だって、みんな良い人だもの。
すると、ディオン殿下が問いかけてくる。
「聖女なのに聖女らしくないのは、神様が選んだのではなく、聖女が選んだ人物だからということだな?」
「そう思います。どうして、ルルミー様を選ばれたのか理由はわかりませんが」
「そのことなんだが俺もよくわからないんだ。聞いてみても彼女が話をしたくないみたいでな」
「そうなんですね」
話を長くしていたせいか喉が乾いてしまい、二人に顔を背けて咳をすると、先程、私が飲んだカップをディオン殿下が手に取った。
すると、冷めていたはずの紅茶から湯気が立ち上る。
「魔法で温めた。味は少し落ちているかもしれないが、冷めたものを飲むよりかは落ち着くはずだ」
「お気遣いいただきありがとうございます」
カップを受け取って喉を潤すと、気分的なものかもしれないけれど、心が落ち着いた気がした。
熱々というわけでもなく、ちょうど良い温度で、ディオン殿下は魔法のコントロールが上手いのだと感心してしまう。
「両陛下にリーニ様がいらっしゃったとお伝えしたところ、今晩、お会いしたいとのことです。挨拶もその時で良いとのことでした」
「承知いたしました」
お茶を飲んでほっこりしていると、ミーイ様がそう話しかけてきたので頷く。
話の続きは明日の朝からすることになり、今日のところはここで別れて、私のために用意してくれたという部屋に、メイドに連れて行ってもらうことになった。