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6  明らかになったこと

「聖女代理という言葉を初めて聞いたのですが、一体、どのようなものなのでしょうか」

「そのままの意味だ。今回は特例だと言って、丸いウサギの精霊が委任状を持って現れたと聞いてる」

「い、委任状ですか?」


 丸いウサギの精霊というのは、レッテムのことでしょうね。

 レッテムは以前はもっと丸々としていたと聞いたことがある。

 今も太り気味ではあるけれど、ルルミー様に交替してからストレスで少し痩せたのかもしれない。


「本当の聖女が動けない代わりに、自分の選んだ人間に聖女を任せるという委任状だと聞いたが、君は知らないのか?」

「知りませんでした。委任状があるということにも驚きですが、聖女が動けないというのはどういうことなのでしょう。聖なる力で病気や怪我を癒せるはずです」


 今までに聞いたことのない話ばかりだったので、ディオン殿下に聞いても意味がないかもしれないと思いながらも信じられなくて聞いてみた。


 ディオン殿下は私の態度に気分を害した様子もなく、質問に答えてくれる。


「本当の聖女は、自分自身を癒せないと言っていた」

「そんなことはありません。私は自分自身の傷を癒やしたことがありますから」

「なら、正確に言えば再生ができないのかもしれない」

「再生? ……足に大きな怪我をされたのですか?」

「ああ。両足が使えなくなった」


 目を伏せたディオン殿下を見て、よほど痛々しい状況だったのだとわかる。

 もしくは彼にとって本当の聖女が大事な人だったのかもしれない。

 悲しいことを思い出させてしまうので、これ以上、話を聞いても良いのか迷ってしまう。


 聖女の力にも限界があり、体が欠損した部分を再生することはできない。

 欠損していても残っている部分を縫えば何とかなるようなものなら治癒することができる。

 でも、切断されてしまった場合は難しい。

 上手く繋ぎ合わせることができれば良いけれど、時間が経ってしまうと生命を守ることが優先されるため繋ぐことはできないと、聖女の中で最年長のノマ様が教えてくれた。


 本当の聖女も間に合わなかったパターンなのね。

 この件があって、ノマ様も知ったというところかしら。


 どうしてそんなことになってしまったのかはわからないけれど、本当にお気の毒だわ。

 遠隔操作で聖なる力は使えない。

 足がなくなっても連れて行ってもらえれば何とかなる気もするけれど、聖女のそんな姿を国民に見せるわけにはいかないので委任状ということになったのかしら。


 聖女は国民にとって希望になっているから、マイナスのイメージを植え付けるところは見せられない。


 ――そういえば、ルルミー様を代理に指名したという聖女がどんな方か知らないわ。

 それに他のみんなも、その話をしてくれていない気がする。

 代理としてルルミー様が動いているのだから、生きていらっしゃるということは間違いない。

 

 私が聖女に選ばれたのは、前任者のおばあさんが亡くなってからだから、約5年前になる。

 聖女になった頃は、周りを見る余裕がなかったから自信はない。

 その頃にはルルミー様は聖女代理だったのかしら。

 多くの聖女は争い事を好まないし、人の気持ちに寄り添おうとする。

 だから、言いにくいことがあって、私には伝えてくれていない可能性もある。


 それにしても、本当の聖女はどうしてルルミー様のような人を代理に選んだのかしら。


 ルルミー様の本性を知らなかったとか、そんなことはないわよね。


「ルルミー様の本性を知っている方は多いのでしょうか」

「王族はみんな知っている。それに今回の手続きに関係した人も知っている。一応、ノーンコル王国にも伝えたが気にしていないようだった」


 ディオン殿下は嘲笑とも取れる笑みを見せた。


 ルルミー様は聖女の中では一番、聖女として優秀だと世間的には言われているから、その力が欲しかったのね。

 そうだったとすると、役立たずだった私に責任があるわ。


「今回の件はどちらからの申し出だったのでしょうか」

「聖女の交換のことか?」

「はい。質問ばかりで申し訳ございません」

「気にしなくて良い。ルルミーが勝手に動いていたんだ。だから、連絡をしてきたのは向こうの王家からだよ」

「……そうでしたか。私が不甲斐ないばかりにご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「何を言っているんだ。こちらとしては君がこの国に来てくれて良かったんだ」


 良かったという言葉の意味がわからなくて首を傾げる。


「どういうことでしょう。ルルミー様はしっかりと仕事をしていたのではないのでしょうか」


 授けられている魔力は使わなければ体内に溜めていくことができるので、いざという時に力を一気に発揮することができる。

 結界を張る場合であれば、より強固なものができるし、治癒能力だって一度に多くの人を癒やすことができる。

 だからこそ、ルルミー様は褒めそやされていた。

 私だって、あんな嫌な性格の人でなければ、素直に尊敬できていたと思う。


「実はルルミーは聖なる力を上手く使えていない」

「……どういうことでしょうか」

「これは本人でさえも知らないことなんだが」

「本人さえも知らないのですか!?」

「ああ。伝えようとしても聞く耳を持たなくて無駄だった。あとでミーイが帰ってきたら、あいつに再現させる」


 呆れたような顔をして、ディオン殿下はため息を吐いた。

 再現させるというのはどういうことなのか気になりはしたけれど、今は聞かないでおく。


「力が上手く使えていないというのはどういうことなのでしょうか」

「彼女には魔導具を貸していたんだ。それは魔力を増幅するものでな」

「……それって」

「そうだ。彼女の力が他の聖女よりも優れていたのは魔導具のおかげなんだ」

「そんな……!」


 それなら、ノーンコル王国に行ったルルミー様は普通の聖女になってしまったということなの?

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