3 信じられない話
彼は私を導いてくれる精霊で名前はピッキーだ。
運動が苦手な私を、どんくさいと言って嫌っている。
聖女には神様との橋渡し役として、精霊が付いてくれる。
普段は神様の許しがない限り、姿を見ることはできない。
小島では、神様の許しがなくても精霊を見たり話したりすることができる。
精霊は種類は違うけれど、全て動物の姿をしている。
ピッキーは大きな角でグリグリと私の腕を押してくる。
「早くノーンコル王国から出ていけよ。僕はルルミーと一緒に頑張るからさ」
生意気な態度のピッキーは、私の一回り以上、体が大きい。
だから、力で押し返そうと思っても無駄だった。
それに精霊と喧嘩するのも馬鹿らしい。
「今度こそは上手くやれるかしら」
誰に問うわけでもなく呟いた時、ソーンウェル王国の精霊でピンク色の毛を持つ、ちょっと太り気味のウサギのレッテムが話しかけてきた。
「ごめんなさぁい。ぼくがルルミーと上手くやれなかったからだよぉ」
しゅんと俯いて謝ってくるレッテムを見つめて口を開こうとすると、ピッキーが後ろ足で私のお尻を蹴った。
「とっとと力をもらって帰れよ! 出来損ないの聖女め!」
「……わかったわよ。もう行くから、あんまり喚かないで。レッテム、またあとで話をしましょう」
「う、うんっ! 本当にごめんねぇ」
ポロポロと涙を流すレッテムの頭を撫でてから、順番待ちをしようとした。
でも、他の聖女たちが順番を譲ってくれたおかげで、私は2番目に聖なる力を神様から授けてもらうことができた。
いつも9番目ということで、何日かに一度は誰かが順番を譲ってくれる。
今日はルルミー様以外の聖女全員が順番を譲ってくれた。
聖女たちは私が努力していることを知っているから、そうするのだと言う。
周りの優しさに感謝して、辛いことがあっても挫けずに、これからソーンウェル王国のために頑張っていこうと気持ちを新たにした。
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魔力をいつもより多く授かっても、聖なる力を使わない限り、体に何か変化があるわけではない。
でも、多く授かれば授かるほど、強い結界も張れるようになるので、ソーンウェル王国に向かう前に結界が弱いと言われた場所に向かった。
ソーンウェル王国に向かわないといけないことはわかっている。
でも、世界樹の小島は別として、同国に聖女は一人しか存在することができない。
だから、ルルミー様がノーンコル王国に入れば、私は自動的にソーンウェル王国に飛ばされるはずなので、ギリギリまではノーンコル王国に尽くすことに決めた。
どんな風にいつ飛ばされるかわからないから不安でもあるけれど、深くは考えないことにする。
「わたしがもっと強い結界を張れていれば婚約破棄もされなかったし、結界付近の人たちを怖がらせなくても良かったんだもの。せめて、ここを出る前に結界だけはちゃんとしないと駄目よ」
一人でそう呟くと、住人たちに罵られることを覚悟して馬車から降りた。
すると、私の姿を見た人たちが笑顔で集まってきた。
「聖女様、わざわざ遠くまでお越しいただきありがとうございます」
「礼を言われることではありません。私の結界が弱かったせいで、皆様にご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません」
深々と頭を下げると、騒がしかった周りが一気に静まり返った。
今度こそ怒られるんだわ。
覚悟して目を伏せた時だった。
「結界に何も異常はありませんよ」
歓迎してくれていた中の一人の声が聞こえたので、目を開けて、声を掛けてくれたと思われる女性を見つめる。
「……今、なんと言いましたか?」
「結界はいつも通りです。何か結界に不具合が生じたのでしょうか」
「……いえ。あの、結界の力が弱まっていると聞いて、ここまでやって来たのですが違うのですか?」
私を囲んでいる人たちは困ったように近くの人と顔を見合わせた。
そして、先程の女性が代表して口を開く。
「そんな話は聞いたことがありません」
「……どういうこと?」
思わず疑問を声に出してしまった。