37 聖女と精霊の涙①
誠に申し訳ございません。
昨日、間違えて編集前のものを投稿してしまいました。
あらためて正しいものを投稿致します。
レッテムがノーンコル王国の謁見の間に飛ばしてくれると言うので、お願いしたところ、私の目の前の景色が一瞬にして変わった。
何度も訪れたことのあるノーンコル王国の謁見の間にいることがわかり、周りを見回す。
目の前にある壇上にはノーンコル王国の国王陛下にフワエル様、そしてルルミー様がいた。
意外だったのは、私と一緒にディオン殿下も飛ばされていたことだった。
「一体、どういうことだ」
ディオン殿下が困惑した表情で尋ねてきたので、はっきりとした根拠はないけれど考えられることを口にしてみる。
「私一人では物理的に危ないと思って、神様が一緒に飛ばしてくださったのかもしれません」
「……そういうことか」
ディオン殿下は国王陛下の手に長剣が握られているのを確認してから頷いた。
治癒能力が間に合わないような即死攻撃や連続攻撃をされたら、私の命は助からない。
私のせいでディオン殿下を危険な状況に置くことになってしまったことは申し訳ない。
でも、神様が見守ってくれているはずだから、ディオン殿下に何かある時は神様が助けてくれると信じることにした。
「リーニ、帰ってきてくれたんだね!」
ルルミー様の肩を抱いていたフワエル様は彼女から手を離して、こちらに近寄ってこようとした。
そんなフワエル様を慌ててルルミー様が止める。
「フワエル様、あたしがいるのに他の女性の所に行くつもりですか!?」
「そういうわけじゃない。リーニにはこの国の聖女として頑張ってもらうだけだよ。結界を張ってもらって魔物から守ってもらわないといけないんだ」
事情がわかっていないルルミー様とフワエル様のやり取りは無視して、国王陛下に話しかける。
「国王陛下、ソーンウェル王国からのお手紙は読んでいただけたのでしょうか」
「読んだ。だが、ルルミーは渡さぬ!」
「どうしてでしょうか」
「俺は10カ国を治める王になるんだ! そのためにはこの女が必要だ!」
国王陛下は立ち上がって、意味がわからないことを叫んだ。
「信じられないことを言ってるが、それより気になるのは、どうして世界を統治するためにルルミーが必要なのかということだな」
「邪神がルルミー様を使って国王陛下にコンタクトを取っているからだと考えられています」
「邪神は聖女の結界を通り抜けられるのか?」
「どう言ったら良いのかわかりませんが、本体は無理です。ですが、思念体としてなら結界の中でも大丈夫なようですね」
「ルルミーを器にしているということか」
私とディオン殿下が小さな声で話をしているのが気に食わなかったのか、ルルミー様が叫ぶ。
「何を言われてもソーンウェルには帰らないから! あたしはこの国にいたら特別でいられるの!」
「ルルミー様、あなたは魔物になるつもりですか!?」
「ならないわ! 邪神が約束してくれたもの! 美しい体のまま長生きさせてくれるって!」
やっぱり、ルルミー様は邪神とコンタクトを取っているんだわ。
驚きで言葉を発せないでいると、ディオン殿下がルルミー様に尋ねる。
「邪神の言葉を信じるつもりか」
「神様なんて綺麗事を言うだけで、何にもしてくれないじゃないですか! それなら、ちゃんと話をしてくれる邪神を信じるわ!」
「神様には、お前よりも信仰心の強い人が多いだけだと思うがな」
「目に止めてもらわなければ報われないなんて、もううんざりです!」
ルルミー様が叫ぶと、国王陛下もそれに同意する。
「そうだ! 今まで崇めてきた神は何もしてくれん! 頭が固い小娘にしか力を貸さないのなら、俺は邪神を信じる! 俺の全てを邪神に捧げよう!」
国王陛下が叫んだ、その時だった。
ルルミー様の体がふらついたので、フワエル様が慌てて彼女の体を支えた。
「どうしたんだ、ルルミー」
「わ、わかりません。急に足の力が入らなくなったんです」
フワエル様の問いかけに答えた時、ルルミー様の足からどろりとした青い液体が流れ始めた。
「な、何なの、これっ」
ルルミー様が悲鳴を上げたので、この状況を残念に思いながら話しかける。
「ルルミー様、以前にご連絡差し上げたはずです。思い出せませんか」
「思い出せませんかって……嘘でしょ! そんな! 邪神は自分が付いている間は魔物になんかならないって言っていたわ!」
「付いている間は、ですよね」
私の言葉の意味に気が付いたルルミー様は絶叫する。
「嫌よっ! 魔物になんかなりたくないっ!」
「な、なんだ、この足はっ! 化け物じゃないかっ!」
ルルミー様の足が青色に変わっていることに気が付いたフワエル様は、ルルミー様の体を壇上から突き落とした。
ルルミー様は悲鳴を上げながら階段を転がり落ちると、私たちのすぐ目の前でうつ伏せの状態で動かなくなった。
そうしている内に、ルルミー様の魔物化は進んでいく。
「ルルミー様も酷いですが、フワエル様、あなたはもっと酷い人ですね」
気を失っていると見られるルルミー様に治癒魔法と浄化魔法を同時にかけながらフワエル様を睨みつける。
「だ、だって、魔物化しているじゃないか! 人間じゃない!」
「そんなことを言ったら、あなたのお父上もそうでしょう」
ディオン殿下が言うと、フワエル様は怯えたような顔をして、自分の父親に目を向けた。
国王陛下は見たことのない凶悪な顔をして、私たちを睨みつけている。
「どうしてしまったというんです、父上!」
「フワエル! 何も怖がらなくても良い! こいつらを片付けたら説明してやるから大人しく待っていろ」
「ですが、父上!」
「待っていろと言っているだろうっ! 言うことを聞かないようなら、お前も排除するぞ!」
国王陛下がフワエル様に気を取られている間に、ディオン殿下が素早く動き、持参していた剣の柄で国王陛下の首を強く突いた。
「ぐあっ」
国王陛下は苦しむような叫び声を上げたあと、膝をつき、そのまま前のめりになって倒れた。
そんな国王陛下の背中を見下ろして、ディオン殿下が呟く。
「自分のことしか考えていないんだな」
「それはお前もじゃないか!」
認識していなかった声が聞こえて振り返ると、そこには行方をくらましていたピッキーがいた。




