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33 聖女と精霊の過去②

 レッテムは話すのをやめて、私の動揺が収まるまで待っていてくれた。


 何とか気持ちを落ち着かせた私はレッテムに尋ねる。


「じゃあ、ピッキーは人間の時に何らかの理由で魔物になってしまって、そこから神様に助けられたということ?」

「うん。そうだよぉ。たまにね、魔物になっても人間の心を忘れない人がいるんだぁ。そして、自分がやってしまったことに嘆いている魔物がいたら、神様は助けてあげてるんだよぉ」

「そんなことができるなんて知らなかったわ」

「あまり、公にされてないんだよねぇ。それにそんなに多くある事例でもないんだぁ」


 レッテムはそう言うと、ピッキーが魔物になってしまった理由を教えてくれた。


 かなり昔の話になるけれど、ピッキーには恋人がいて、その人が病気になってしまった。

 どうにかしてピッキーは彼女を助けたかった。

 でも、特効薬も見つからなくて、日に日に弱っていく彼女を見たピッキーは自分の願いを聞き入れてくれない神様を恨んだ。


 その思いがとても強かったのか、邪神がピッキーに近づいた。


 邪神はピッキーの恋人を助けるかわりに信仰する神を自分にするように指示した。

 そして、ピッキーはそれを実行した。


 ピッキーの恋人はそのおかげで死なずに済んだ。

 でも、ピッキーと彼女は人間ではなくなってしまった。

 邪神は彼女を助けるとは言ったけれど、人間のままでとは言っていなかったのだ。

 屁理屈かもしれないけれど、彼女の病気は魔物になることで消えたから、嘘をついたわけではない。


「ピッキーの恋人は命を助けるかわりに魔物になった。そして、ピッキーも邪神を信じたから魔物になったんだよぉ」

「ピッキーと恋人とは、その後どうなったの?」

「……魔物になっても二人共に人間の心が残っていたんだぁ。ピッキーは二人で生きていこうとしたけど、彼女は駄目だったんだぁ」

「駄目だった?」

「……うん。神様を裏切ったって、そんな自分が生きているのは罪だと言って命を絶ったんだぁ」


 レッテムはしゅんと顔を下に向けた。


 神様を信仰している人にとって、邪神は穢れたものでしかない。

 だから、ピッキーの恋人は死を選んだのね。


 せっかく助かった命なんだから大事にしてほしいという気持ちが湧いてくる。

 でも、私が他人のことをどうこう言える立場ではないわね。


「こんなことを言うのはなんだけれど、神様はピッキーを助けたのに恋人は助けなかったの?」

「ピッキーは彼女が死んでから神様に詫びたんだよぉ。自分の命を捧げるから、せめて彼女に人生をやり直させてほしいってぇ。それを聞いた神様はピッキーに手を差し伸べたんだよぉ」

「ということは、彼女も助けてもらえたの?」

「元の姿で生き返ることはできなかったけど、新たに生まれ変わったよぉ」


 生まれ変わって、新たな人生を歩めてたのなら、本当に良かった。


「でも、神様はピッキーを甘やかし過ぎじゃないかしら。今回の結界の件はさすがに駄目よ」

「だよねぇ。だから、ピッキーは人間とコンタクトを取れる精霊じゃなくなると思う」

「……どういうこと?」

「精霊にも色々とあるんだぁ。人間とコンタクトを取れるのは、エリートの精霊なんだよぉ」


 レッテムが胸を張って誇らしげな様子を見せる。

 その仕草が可愛くて、そんな場合じゃないのに、つい和んでしまった。

 でも、すぐに気を取り直して尋ねる。

 

「ピッキーがエリートとは思えないんだけど」

「ピッキーは特別枠みたいなものだからねぇ。あと、昔の恋人に助けられていたんだぁ」

「そうなの?」

「うん。ピッキーは知らないけどねぇ。それから、ピッキーの恋人の見た目はリーニに似てるんだぁ」


 ピッキーが私を好きになった理由は昔の恋人に似ていたからだったのね。

 

「ピッキーに彼女のことを伝えないの?」

「神様は彼女から言わないでくれと頼まれているから言わないんだよぉ」

「寛容になっているのも、彼女からのお願いなのね?」

「うん。それについてはぼくを含む他の精霊にも許可をとってくれてるよぉ。最近は調子に乗りすぎてるから、みんなも怒り始めてたんだぁ。でも、今回の件で堪忍袋の緒が切れたよねぇ」


 その後、レッテムはピッキーがどうなるかという話をしてくれた。

 ピッキーがまた闇に落ちてしまう前に、恋人のことを話すことにしたらしい。


「ピッキーは嫌な奴だけど、だからってぼくらは彼を見捨てちゃ駄目なんだぁ」

「そうね。教えてくれてありがとう。ところで、話を聞いて気になることがあるんだけど、邪神はどんな風に人を選んでいるの? 神様を恨むような負の気持ちを感じ取れたりするのかしら」

「うん。神様を信じる声は強ければ強いほど神様に届きやすい。それとは逆に神様を恨む気持ちは神様には届かなくて、邪神に届きやすくなるんだよぉ」

「……レッテムはルルミー様のことをどう思う?」


 私が尋ねた時だった。

 レッテムが長い耳を動かして言う。


「ごめんね、リーニ。神様から招集されてるから行くねぇ」

「わかったわ。今日はありがとう」

「どういたしまして。おやすみ、リーニ。また明日ねぇ」


 レッテムはそう言って、姿を消した。

 そして次の日の朝、小島に行くと神様から聖女たちに話があると言われたのだった。



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