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31 新しい婚約者

 ルルミー様が出て行ったあと、ソファに座って大きなため息を吐いた。


 あんなことを勝手に聖女がやって良いのかわからない。

 でも、よっぽど駄目なことをしたなら、レッテムが現れて叱ってくるはず。

 叱ってこないということは許してもらえたのだと思う。


 人の性格なんてものはそう簡単には変わらない。

 今まで自分がやってきたことを自分がやられる側になって、嫌だとか駄目だということを自分で実感する人もいる。


 相手がどういう気持ちになっているか、その時になってわかるものなのではないかと思っている。


 これからも監視が付けられるだろうから、ルルミー様がどう動くかはわかる。

 聖女代理じゃなくなったのに監視が付くのは、もし、ルルミー様が闇の力に取り込まれて魔物に変わるようなら、その場で騎士が殺さなければならないからだ。

 そんな危険人物を野放しにするのも良くない。

 でも、もしかしたら、ルルミー様が反省するという可能性もあるので、彼女が変わらないと決めつけるのは良くないという話になって自由にさせることにした。

 でも、これは私たち、人が決めたもので、神様が決めたものではない。


「できれば、そんな悲しいことになってほしくないわ」


 自分しかいないはずの部屋でそう呟いた時だった。


「リーニ、大変だよぉ」

「ひゃっ!」


 レッテムが突然、目の前に現れたので変な声が出てしまった。


 さっきのルルミー様への対応が悪かったのだと思って、慌てて謝る。


「ごめんなさい。駄目だったのであれば、今すぐに」

「違うんだよぉ。ルルミーのことじゃないんだよぉ」

「……ルルミー様のことじゃない?」


 驚いて聞き返すと、レッテムが頷く。


「神様が修復してくれたから今すぐには危険はないけど、結界が破られたんだよぉ」

「……結界が破られた?」

「うん。ノーンコル王国とソーンウェル王国の間にある結界を戻したでしょぉ」 

「……ええ。もう大丈夫かと思って戻したわ。でも、あとから上手く張れていることを確認したし破られるだなんてありえない」

「知ってるよぉ。そのことを責めてるんじゃないんだぁ。結界が破られたのはノーンコルのほうだしねぇ」

「どっちにしても一緒だわ。私が結界を戻さなければ良かったんだもの」


 頭を抱えたくなったけれど、そんなことをしている場合ではない。


「魔物に襲われた人はいるの?」

「大丈夫だよぉ。すぐに結界を神様が張り直したからねぇ」

「……神様が張り直した?」


 そういえば、さっきもレッテムは神様が張り直したと言っていた。

 結界が魔物に破られただけなら、人と魔物での出来事なので神様は介入しない。

 それなのに介入してきたということは――


 その時、リビングの扉の向こうから声が聞こえてきた。


「リーニはいるか?」

「いらっしゃいます。ですが……」


 話をしているのは、ディオン殿下とレイカだ。

 レッテムを見ると、精霊は聖女以外の人には見られてはいけないからか、慌てて話し始める。


「詳しいことはディオンが教えてくれるはずだよぉ。聞いてみてぇ。まだ、話したいことがあるから、リーニが話せるようになったら、僕の名前を呼んでくれるかなぁ?」

「わかったわ」


 レッテムが姿を消したと同時に部屋の扉が叩かれた。




***** 



「ノーンコル王国から、ソーンウェル王国に救助要請があった」

「救助要請ですか? 何があったのでしょう」


 扉を開けてすぐに、ディオン殿下からそう言われて、私は挨拶も忘れて尋ねた。


「結界が破られたらしい。慌ててエレーナがその場所に行ったらしいが、その時には修復されていたというから謎だ」

「……結界の修復は神様のお力のようです。でも、突然、結界が破れたというのは気になりますね」

「だから、リーニにも見てほしいと言っている」

「……何をですか?」

「結界が本当に上手く張られているのか、ノーンコル王国側から確認してほしいんだそうだ」


 結界を確認するのはかまわないけれど、その時はエレーナ様と交代しないといけなくなる。


 その間、エレーナ様はディオン殿下と一緒にいるのかしら。

 こんな時なのに、それは嫌だな、なんてことを思ってしまう自分が嫌になる。

 でも、もやもやしているよりかは先に聞いておくことにした。


「調べるのはかまいませんが、エレーナ様はその間はどこにいるおつもりなのでしょうか」

「元々、彼女が使っていたあの部屋にいてもらおうと思う。一応、掃除は毎日させているからな」

「……そうなんですね」


 それなら、ディオン殿下とそう頻繁には会わないわよね。

 ああ、嫌だ。

 こんな黒い気持ちを持つことになるだなんて。

 本当にごめんなさい。


「どうかしたのか?」

「いえ。何もありません。すぐに向かう用意をいたします」

「俺も一緒に行くから、そこまで急がなくて良い」

「ディオン殿下もですか?」

「ああ。フワエル殿下は君とコンタクトを取りたがっている。それをわかっているのに、君だけを向かわせるわけにはいかないだろう。私情を挟むのは良くないがお互い様だ。それに、俺の転移魔法を使えばすぐに行けるしな」

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 深々と頭を下げると、ディオン殿下は私の両頬を手で掴んで顔を上げさせる。


「すぐに頭を下げたり、俯いてしまうのは君のくせなんだろうな。だけど、王太子妃になるなら、もっと堂々としていれば良い」

「……王太子妃?」


 意味がわからなくて聞き返すと、ディオン殿下は苦笑する。


「本当はもっとちゃんとした場所で言うべきなんだろうが、俺の婚約者になってほしい」

「は、はい!?」

「……それは良いという意味か?」

「いえ! あの、嫌というわけでもないのですが、あまりにも急なことですから驚いただけです!」

「悪い。もうちょっと落ち着いてから話すつもりだったんだ。でも、フワエル殿下が君とよりを戻したがっているとわかったら落ち着かなくて。ちゃんと形にしたものを残したいと思ったんだ」


 ディオン殿下は申し訳無さそうな顔になった。


 普通なら、あまり良い気はしない。

 だけど、今、私にちゃんと確認してくれているのだから良いことにしてしまおうか。


「えっと」

「君の両親からは許可を得ている。あとは君次第だ。今すぐに答えを出せないと言うのであれば、答えが決まってからでかまわない」

「答えは決まっています」


 真剣な表情で見つめると、ディオン殿下も見つめ返してきた。


「ディオン殿下の婚約者にしていただけるなら、本当に幸せです」

「そうか」


 ディオン殿下は微笑んだあと、私の頬から手を離して、いきなりその場にしゃがみ込んだ。


「ディオン殿下!?」

「……悪い。すごく緊張してたんだ」

「そうだったんですね」


 告白とは少し違うけれど、緊張する気持ちはわかる。


「ありがとうございます、ディオン殿下」


 微笑むと、ディオン殿下も私を見上げて嬉しそうに笑ってくれた。


 その後、準備を整えて、ディオン殿下と一緒に問題の結界場所に向かった。

 すると、そこにはフワエル殿下と私の家族が待ち構えていた。


 お父様は心労なのか、病気だといわれてもおかしくないくらいに痩せ細っていた。

 目もどこか虚ろで、焦点が合わない。


「お願いよ、リーニ、あなたは私たちの娘でしょう! あなたのお父様を助けてあげて!」


 お母様はそう叫びながら、私の元に近付いてきたのだった。


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