22 精霊からの忠告
私たち聖女は、神様の行動に疑問を持つことがあっても、最終的にはその考えを改め、神様のことを信じ続けている。
そんな聖女が神様を信仰する気持ちを失くし、神様を恨む気持ちを持つことを、私たちは闇落ちと言っている。
闇落ちした聖女がどうなるかというと、神様の敵に当たる邪神に寝返ることになる。
魔物の体ではなく人間の体のまま心が闇に落ちるだけなので、結界の意味がなくなってしまうことも問題視されている。
聖女がそんなことになるわけがない。
そう思うのが普通だ。
でも、ルルミー様は代理であり、神様が選んだ聖女ではない。
聖女代理の任を解けば、彼女はまだ助かる可能性がある。
邪神が狙うのは、邪神の囁きに耳を貸してしまいそうな聖女ばかりだからだ。
『話を戻しますが、テイラーが悪いとは思っておりません。私ができなかったことをやってくれただけです』
「もし、聖女代理のまま、ルルミーが闇落ちした場合、エレーナはどうなるのですか」
精霊のリーダー格であるアッセムが尋ねると、神様は長い沈黙のあとに答える。
『エレーナの体が闇の力に侵される可能性があります。聖女の聖なる力は元々はエレーナのものです。その力が闇に変わるのです』
話を続ける神様の声が震え始める。
『聖女代理など認めなければ良かった。でも、そうしなければ、エレーナの命を奪わなければならなかったのです。私が選んだのに命を奪うだなんて……』
神様の涙なのか、明るい空から大粒の雨が降ってきた。
雨のように見えるのに、私たちの体を濡らさないことは不思議だった。
聖女の選び間違いは今までにもあった。
だけど、ここまでこじれたことはなかった。
聖女が生き方を間違えたことがあっても、あとからでも自分でその間違いに気付けたからだと思う。
私には友人がいなかったから人に惑わされずに済んだ。
でももし、ルルミー様のような友人がいたなら、どうなっていたかはわからない。
「神様、私たちは出来る限りのことをしようと思います。指示を出していただけませんか。失礼なことを言うようですが時間が惜しいです」
こうやって話をしている間にも、ルルミー様の感情が負に陥っていく可能性があるため、無礼だとわかっていながらも、ノナが急かした。
『そうですね。その通りです。エレーナへの交渉は私がします。聖女たちは交代しながら結界の補強に務めてください。結界はすぐに破られるものではありませんから、結界付近のノーンコル王国の国民には、そのことを伝えつつも避難する準備を進めさせてください』
神様からの話を聞いた私たち聖女はすぐに一箇所に集まって、結界を張る順番を決めていくことになった。
レッテムは神様と共にエレーナの所に行って話をしてくると言っていた。
現段階ではラエニャ様が結界を張りに行ってくれていて、今日、私が交代するつもりだった。
本来なら、私の後はルルミー様に交代という形だったのだけど、ルルミー様ではなく、他の聖女が交代してくれることになった。
「今、ルルミーはラエニャの国にいるのよね」
「そうです。私がノーンコル王国に入ればラエニャ様は自分の国に戻りますし、ルルミー様はソーンウェル王国に飛ばされるんだと思います」
ロマ様に応えると、いつの間にか近くに来ていたピッキーが言う。
「おい、お前ら。今回の件で神様が悪いとか言うなよ。そうなった時、お前らのところに邪神が来るぞ。邪神は聖女を闇落ちさせようと必死だからな」
いつも腹の立つことばかり言ってくるピッキーだから、彼の言うことは聞き流してばかりだった。
でも、この言葉は胸に刻んでおこうと思った。




