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21 邪神の動き

 ディオン殿下に何度断られても、エレーナ様は彼を愛し続け、手紙を一日に十通以上送り付けるようになった。

 さすがに、ディオン殿下の側近もエレーナ様の愛情が普通とは違うものだと感じ、手紙はディオン殿下に渡る前に止められた。

 検閲で止められていることを知らず、返事がないことに怒り狂ったエレーナ様は、ディオン殿下の部屋まで押しかけようとしたため、城への出入りを禁止された。

 あまりの愛の強さに、息子の命の危険を感じた両陛下が動いたのだ。


 ディオン殿下にフラれた理由が私のせいだと思い込んだエレーナ様は、ディオン殿下に手紙を送らなくなったかわりに、私への嫌がらせを続け、最終的には精霊によって罰を与えられ、自由に動けない体になってしまった。

 それからはずっと、今の家で寝たきりの状態になっているという。


 そうなる前に、レッテムや神様が何らかの形で止めているのでしょうけれど、聞く耳をもたなかったんでしょうね。

 そして、他の国の精霊が我慢しきれなくなって、エレーナ様を罰したのだと思われる。


 他の聖女たちは何も知らなかったでしょうから、かなり驚いたでしょうね。


「そういえば、エレーナ様の肖像画はあるのかしら」

「ございます。隣の家から持ってまいりますね」


 レイカが頷くと、近くにいたメイドの一人が、彼女から何か言われる前に慌てて部屋から出ていったのだった。

 

 少ししてから、見せてもらった肖像画のエレーナ様は、はにかんだ笑みを浮かべた、優しそうな印象を受ける女性だった。


 勝手な思い込みでしかないけれど、エレーナ様はルルミー様に依存しすぎたせいで、悪い方向に進んでいってしまっただけの人のような気がした。


******



 次の日、小島に行って力を授けてもらうと、レッテムが近寄ってきて、私に話しかけてきた。


「大変だよぉ」

「どうかしたの?」

「ルルミーの力が弱まってるんだってぇ」


 レッテムは表情が変わらないため、口調だけだと呑気そうに言っているように聞こえてしまい、私は眉根を寄せて尋ねる。


「対応はどうするつもりなの? ラエニャ様はそのことを知っているの?」

「うん。予定よりも早い時間にラエニャが交代したんだ。でね、元々の話では三人で交代していくつもりだったけど、今は聖女全員で交代していくという話になってるみたいだよぉ」

「祭壇に行ける時間が限られているから、そうしてもらえると助かるけど、そんなに良くない状況なの?」

「それくらいに魔物が結界に触れてるんだぁ」


 魔物が結界に触れるたびに、魔物の数は減るけれど、結界にもダメージがある。

 その修復がルルミー様の魔力では追いつかないようだった。


「ルルミーはソーンウェル王国の魔導具に助けられていたから、今まですごい聖女だと言われてたけど、魔導具がなかったらそうでもないんだよねぇ」

「今回の場合は、魔物の量も多いみたいだから、ルルミー様だから駄目だというわけでもないんじゃないの?」

「……それがそうでもないんだよぉ」


 レッテムが顔を下に向けた時だった。


 柔らかな風が吹いたので、世界樹のほうに顔を向けると、私と同じように近くにいた聖女たちも世界樹を見つめた。


『邪神の動きを感じます。そのため、ルルミーの聖女代理の任を解くようにエレーナと話をするつもりです』


 神様の言葉を聞いたロマ様が眉根を寄せて尋ねる。


「神様が人間のやることに介入してはいけないのではなかったのですか。ルルミーを選んだのはエレーナなのでしょう?」

『わかっています。ですが、このままでは、ルルミーが闇落ちしてしまいます』

「闇落ち?」


 驚いて聞き返すと、世界樹の枝が大きく揺れた。


『エレーナはとても優しい子でした。ですから、ルルミーを選んだことを後悔すると思っていました』

「ぼくもそう思ってたよぉ。恋に落ちるまでのエレーナはとっても良い子だったんだぁ」

「神様に人の未来が見えないことは承知しております。そして、それは今までにもあったことなのでしょう。それなのに今回はどうして介入されたのですか?」

『代理というものがイレギュラーだったからです』


 神様がロマ様に答えると、他国の精霊でありワニの姿をしたテイラーが出てきて、神様に謝る。


「あまりの聖女らしくない行動に出しゃばった真似をしてしまった、わたくしが悪いのでございます。どうぞ、罰してくださいませ」

「本当だよ! お前のせいで無茶苦茶だ!」


 ピッキーがテイラーに叫ぶと、私だけじゃなく他の聖女たちもピッキーを睨み付けた。

 それぞれ言いたいことはあるみたいだけど、代表して、私がピッキーに話しかける。


「ピッキー、テイラーよりも神様の遣いである精霊らしくないのは、あなただと思うわ」

「オレは真面目にやってるよ!」

「そうとは思えない。私のことだって散々馬鹿にしていたじゃない。本来なら、私とあなたは助け合う関係にならなければいけなかったのに」

「お前がオレに助けてくれって言えば良かったんだ!」


 ピッキーが鼻を鳴らして、文句を言ってきた。

 

「それは気づかなくてごめんなさいね。でも、そうだとしたって、あなたにテイラーを責める権利はないわ。私だってあなたに言われたことで傷ついて、闇落ちする可能性はあったんだから」

「思いやりがなくて悪かったな! でも、聖女は優しいだけじゃ駄目なんだ!」

「ピッキー」


 アッセムが私たちの会話に割って入ってこようとした。


 ピッキーはこれ以上言えば、アッセムに殴られると思ったのか、橋のほうに向かって逃げていく。


 

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