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プロローグ

 婚約破棄を言い渡されたのは、満天の星空の下だった。


 今日はノーンコル王国の王太子殿下であるフワエル・シナルドード様のお誕生日で、城では盛大なパーティーが開かれていた。


 フワエル様の婚約者であり、この王国内にたった一人しかいない聖女である私、リーニ・ラーラルは今日のパーティーの主役であるフワエル様と共に、城の中庭にある小道を歩いていた。


 横を歩くフワエル様の表情は今日のパーティーの主役とは思えないほどに重いものだ。


 癖の強い金色の髪に晴れ渡った青空のように綺麗な水色の瞳を持つフワエル様は、長身痩躯で整った顔立ちをしている。

 だから、女性にとても人気があった。


 男爵令嬢である私が彼の婚約者になれたのは聖女だと認められたからで、そうでなければ、フワエル様は私にとっては雲の上の人のような存在だった。


 私は痩せ型で背は低いほうだし、腰まであるストレートの黒髪と赤い瞳はノーンコル王国では多くある色合いで珍しくない。


 聖女であるということでチヤホヤされてはいるが、外見が美しくないからか、男性は聖女が私だと知ると、がっかりした顔をすることが多い。


 聖女に浮かべるイメージは美人なのだそうで、私のように幼い顔立ちの女性はお気に召さないらしい。


 最初はそのことできずついていた。

 そんな私をフワエル様は、いつも優しく慰めてくれたし、傷つけた相手を罰してくれていた。


 私にとって、フワエル様はとても優しい人で、大好きな人だ。

 この人の婚約者になれて本当に良かったと、彼の隣を歩きながら改めて思った。

 

 よく座って話をする噴水近くのベンチの前まで来ると、フワエル様は足を止めた。

 すると、突然、深々と頭を下げてきた。


「リーニ、本当にごめん」

「どうかしたのですか?」


 驚きながらもフワエル様に優しく問いかける。


 長身の体を折り曲げて、こんな風に深く頭を下げて謝ってくることなんて今までになかった。


 それなのに、次の言葉を耳にするまでは、私は呑気な気持ちでいた。


「君との婚約を破棄したい」

「えっ」


 あまりの驚きに、声が裏返ってしまった。

 フワエル様は頭を上げずに話を続ける。


「宰相たちから、ここ最近、国境付近で多くの魔物を見かけるようになったと連絡が入ったんだ」

「……それは、私の聖なる力が弱いからということなのですか」

「そういう結論になったんだよ」


 聖女には魔物という邪悪な存在の侵入を防ぐ結界を張る力と、病気や怪我を治す治癒能力が授けられている。


 結界の強さを魔物は感知できるようで、強い結界が張られた場所には近づかない。


「私の力が足りないことについては申し訳なく思います。それから、すぐに結界の様子を見に行くことにいたします。ですが、どうしてそれが婚約の破棄に繋がるのですか」


 尋ねたあと、涙がこぼれないように唇を強く引き締めた。

 すると、フワエル様は頭を上げ、私を見つめて眉尻を下げる。

 外灯に照らされている私の顔は、涙をこらえるのに必死で酷い顔になっているのだと思う。


 フワエル様は小さな声で話し始めた。


「実はソーンウェル王国の聖女から連絡があったんだ。自分ならもっと結界を強くして、魔物を遠ざけてみせるって」

「……ルルミー様からですか」

「ああ。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、僕は反対したんだ。だけど、ルルミーが訪ねてきて」


 視線を下に向けて、フワエル様は話し続けていた。

 でも、私の耳にはショックで何も入ってこなかった。


 ルルミーと呼び捨てにしている時点で、フワエル様とルルミー様の距離はかなり近づいているということだ。

 

 彼女と会っていることを知らせていてくれたのなら、受け止め方が違っていたかもしれない。

 でも、フワエル様は私に内緒で隠れて会っていた。

 ということは、彼の心はもうルルミー様に移ってしまっている。


「ルルミー様が訪ねてきて、何度か会う内に惹かれてしまったということで間違いないでしょうか」

「本当にごめん! 殴ってくれても良いよ! 僕は最低な男だ」

「王太子殿下を殴れるわけがないじゃないですか」


 口を開けたせいか、こらえていた涙が溢れ出して頬を濡らしていく。


「リーニ、泣かないでくれ」

「……取り乱してしまい申し訳ございません。私のことは気になさらないでください」


 嗚咽をあげそうになるのをこらえて、フワエル様に尋ねる。


「ルルミー様と婚約するおつもりですか」

「そうだよ。そして、リーニにはルルミーの代わりにソーンウェル王国に行ってもらうことになる」

 

 ルルミー様がこの国に来ればソーンウェル王国に聖女がいなくなるのだから、私が行かざるを得ないのはわかる。

 聖女といえど、役立たずの私に拒否権などない。


「ソーンウェル王国の方々は了承しているのですか」

「もちろんだ。ソーンウェル王国はリーニを望んでるんだよ。勝手なことを言うけど、3日後にはこの国を出ていってくれ」

「……承知いたしました」


 フワエル様の役に立てない私が悪い。

 

 こんな話をしたら、両親に何を言われるかわからないけれど、フワエル様からの命令に頷くしかなかった。


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