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高基準・当然

警報が鳴り響いて数秒後、既に優は包囲されていた。



警備隊員は、優の攻撃的姿勢に驚きを隠せないが、銃を取り彼女を発砲しなければならない。



一斉に隊を整え、彼女、もとい犯罪者に照準を充てる。



当然の反応と対応だ。



だから彼女は一切揺るがない。



彼らの目に同様と不安が移っていたとしても、腰から剣を抜く。



「撃て!!」



その合図と共に銃が乱射される。



唸る発砲音に、一括。



五月蠅いと言わんばかりに剣を上から下に大きく振るった。



「!?」



「な・・・なんだ・・・あれは?」



「??」



複数の限られた隊員に見えた、剣に纏った緑色のオーラ。



上から下に振るった瞬間、オーラは剣の軌道上を停滞し、弾丸を防いだ。



否、防ぐと言うよりオーラに触れた途端砂の様に粉々に分解され消滅した。



「ここは通さないわ」



幾度となく発砲される拳銃、そして、抜刀された剣から放たれる全てを無に帰すオーラ。



オーラは伸縮自在だが、必ず最後は彼女の剣に帰ってくる。



其処を付け狙おうと隊員は剣にオーラが戻った瞬間を狙うが、結果、剣で弾かれるか、纏ったオーラに消されるだけだった。



警備隊に為す術が無いと悟った。



銃を構えたまま銃声が止み、剣を抜刀したままそこを動かない。



膠着状態にも見えるこの状況だが、ただ彼女が動かず何も無いしていないだけだ。



隊員の一人が無線機に緊急要請をしている事に彼女は気付いた。



「あの!堂道さん!緊急です!要請をお願いします」



「堂道さん、か」



彼女は彼との関わりを思い出し、



「良い人だったよ」



と、亡き人を思う様そう呟き、その場を動いた。



その間十秒。



彼女は、その数秒間で、全警備員の背後に回り、峰打ちで気絶させたのだ。



そして、扉の前に戻り、自らが行った光景を眺めた。



後は、何事も起きなければ良い。



そうは思うが、そうはいかない。



「あーあー。君には期待していたのに。僕の彼女候補にもあがってたんだよ?残念だよ。人類の敵になってしまって」




人間は自分の為に他人を巻き込み、面倒事を引き起こす。



誰かと誰かのわがままがいつも対立している。







その男は気に障ることしかしない。



田舎を侮辱する発言も、市民を卑下する言葉も、侵略者を惨殺する行為も全て。



下手に出ればつけあがり、手加減すれば横柄だ。



いつも上から目線で傲慢で、ナルシストで。



彼女の意見も行動も全て無視、主観で受け取る。



だから今から、遠慮無く現実を見せられそうで嬉しく思う。



彼女の隣に居て、彼女の全てを知った気になった恥ずかしい男。



「どうでもいいから、かかってきなさいよ」



「ふっ。僕に一度も勝った事の無い癖に偉そうな!!」



男は単調な煽りにのり、刃のボロボロになった細長い剣を彼女の喉元めがけて突いた。



「君が僕に一度でも攻撃を与えられたことがあったかい!?君が僕の一撃を防げた事があったかい!?」



「どうでも良いのよ。勝ち負けなんて」



「ふふっ。負けたときの言い訳かい?」



「私にとって貴方は価値が無いって言ってんのよ」



彼女は刀を仕舞い、ため息をつく。



「なっ!!」



そして、突き立てた剣を指先で受け止めた。



「察することも出来ないのね」



「??」



「私から貴方へ話しかけなかったのは貴方が嫌いだからよ。いちいち鬱陶しいくらいに私に絡んできて、何度言っても貴方の解釈は自分の尺度の曲解。いい?価値が無いと興味がないは同等よ?絡んでくる時間さえ短縮させる為、わざと負けていたのに、手加減を気付かないレベルの人間で。・・・はあ、つくづくどうでも良いのよ。目すら合わせたくない程に、ね」



「は、ははは・・・。そこまで・・・そこまで君が僕を侮辱するなんて。何様なのかなぁ。剣を手で受け止めたくらいで、強がりに、反抗・・・」



「強い方が弱い方の言うことを聞く義務があるって言う貴方のルール。仕方なく私がそれに従ってあげるわ。それが一番手っ取り早いしね」



「先程から何故私が君に弱者の目線で語られているだい?・・・ははは。まあ良い。それを言った事を僕が勝った後に後悔するんだな!」



男は笑顔のまま怒っていた。



こびり付いた仮面の裏に見えるその怒り。



なんとまあ、イカれた情緒だろう。



しかしそれがその男だ。



ずっと笑顔の仮面を被ったままで、誰かを傷つけ、時には殺し、怒りを包む。



そして、その時、本領が発揮される。



男のパワーの源は、怒りであった。



負のエネルギーを吸機から体へと吸い上げ、自らの怒りと同調させ、絶大なる力へと変換させた。



「相変わらず、汚れたシステムね」



男は負をその身に象った。



負を武器として、形容する。



それ即ち、鎌鼬。



自身に纏い、荒れ狂う。



激しく強大で敵味方関係なく切り刻むその様は、正に怒りの様。



彼女は汚物でも見るかのように男を見た。



そして、少し距離を取る。






外で広がっていた闇が、心にまで浸食してくるイメージ。



少女を触った瞬間だ。



彼女の持つ「それ」と共感覚になったのだ。



つまりそれは、少女が創業から30年感、この状態をこの隔離されたこの中でずっと耐えてきたと言う事だった。



あり得ない。



羊助には想像もつかなかった。



この精神を直接切り刻まれるような状況を耐えうるなんて。



一瞬だ。



ほんの一瞬だぞ。



心がズタズタに引き裂かれ、今にも逃げ出したくなったのは。



迷子になった。悩んだ。



病む。



負の感情に羊助は引き吊られ、落ちる、墜ちる。



だからこそ、その声は響いてしまった。



救世主だと感じてしまった。



「辛かったら手を離して良いんだよ」



しかし、考える。



羊助はふと我に返る。



その言葉に喜びを感じた自身が可笑しいと思ったのだ。



辛いのはどっちだろうか。



救いたいのは誰だっただろうか。



自分?



そんな筈が無いだろうが。



何がしたかったのか。



少女が救いたいだけだ。



永劫的に苦痛を覚える。



しかしだ。



心は冴えている。



つまりだ。



焦りは無く、苦痛を飄然とする。



何が変わった?



気の持ち様だ。



それは、彼の精神的強さ。



原動力の源だ。



視野が広がり、周囲の状況を整理していく。



可笑しい。



可笑しい、そもそもの話だ。



吸機という塊が何故ここまでスムーズに稼働しているのか。



燃料は簡単に言えば人間の負の感情だ。



目には見えない不確定な感情をどうやって収集し、その場に停滞させているのか。



いや、エネルギーは目には見えない物だが、そう言う事では無くーーーー。



疑問。



そもそもエネルギーって存在は何だ?



「いや待て」と、羊助は引っかかりを紐解こうと考える。



エネルギーの在り方。



見えなくとも確かに其処に存在はしているのだ。いやしかし、エネルギーという個体が存在しているのは理解できるが、感情という個体が存在出来る理由が分からない。



いや?



確かに存在している。



自分達人間が自ら生み出しているではないか。誰かに伝わっているでは無いか。



伝わっている以上、感情はある。



しかしそこに停滞しているかと言われたら、流れて移り変わると、言った方がしっくりくる。



停滞するという原理が謎?



いや、感情だって停滞する。



誰かが苛立ちを纏っている。幸せを纏っている。喜びを纏っている。



その場にあるじゃないか。



言い方を変えれば雰囲気と言った所か。



そうして誰かに状態が伝わる様、表しているのだから、その場にそれは表現されたままにある。



表現・・・。



発生は自分から。



表現も自分か?



否、自分での表現は体にある。



見えない感情は・・・。



誕生は自らであっても、他のエネルギー同様存在を示すモノは言葉なり、形なり別にある。



それが、なんなのか、と言うこと。



見えない感情は、誰がどう表現を施してくれているのか、と言うこと。



問題点はここだ。というか、結論じゃないのか。



何か、何かは分からないが、誰かが感情をこの世で察知できるように表現してくれている。



羊助の中で何かが落ちた。



自らの理由付け、こじつけかも知れないが、打開への成長への一歩の思考。



それは誰に否定されたとて、揺るがない強き意志になる。



それに気付き、もう一つ分かった事があった。



「辛いのは、ずっとこの感情を表現している何かなんだ。彼ら自体は悪くない。もちろん、貴方も・・・」



「・・・この状況で彼らを意識してお話が出来るなんて」



苦しくて辛いのは、人間では無く、それを表現している彼ら本人だ。



表現の為に生きている存在だから、自分の意思に反し、人間の意思によって、誰かの何かの意思によって、形や事象を表現しなければならない。



其処に彼ら自身の気持ちはあれど、否定できる術も道も無い。



そう言う存在だから。



「可哀想だ・・・。いや。人間が可哀想なんて言える筋合いないか・・・」



染まってしまった、染めてしまった負の感情の奥にある誰かに羊助は触れたかった。



しかし実際なのか、幻想なのか。



心の中で優しく接するイメージしか出来ない。



ただまた、羊助のその感覚が、感情が何かを染める。



「なにか」が心の中で変化した。



暖かく。柔らかい羊助のそんな雰囲気。



その場にある「何か」が形容してくれている。



苦痛が和らぐ。



心が軽くなる。



「ふふ。君は底抜けの優しさを持ってるんだね」



それに恩恵を受けるのは少女も一緒だ。



苦しみが幾分か楽になり、周囲の闇も薄まっている。



羊助の思いが、願いが「何か」のあり方を変えたのだ。



彼の意思はそれだけ真っ直ぐと言う事だ。



ただ問題は何の解決もしていないというか、羊助のプライベート事情をただクリアしただけだ。



ここからだ。



「貴方をここから出すにはどうしたら良いですか?」



羊助は度直球に聞く。



知らないことは度直球に聞くが早いと羊助談。



「ふふ、君なら私を持ち運べるかもね。私が見えている時点で、視点も世界もこっち側だしね」



「??」



少女にも少女の世界と考え方、価値観が有る様だ。それらを羊助が理解出来ないのも仕方の無いことだ。



「一つ聞かせて?」



少女が穏やかに話しだすと、この場一体の雰囲気が和み始めた。



「私はこの場所から出たい。でも、君の人生を潰す事は出来ない。だから私は君の選択に委ねる」



「?」



「君はこれからいつも通りに過ごすことは出来ないよ。時には人から否定、時には悪者として扱われる。本当に人生を大きく狂わすかも知れない。君の望んだモノでは無いかも知れない。それでも、私を助ける覚悟はある?」



「ああ、なんだ。そんなことか」



「そんなこと!?」



少女は彼を見誤っている。



「自分は生きているだけで百二十パー幸せなんですよ。また、苦しみの先に幸せがある事を知っています。プラスアルファとして、貴方を助けて貴方が喜んでくださるならそれは自分も嬉しい事で。それが更なる幸せになるなら願ったり叶ったりですよ。それに周りの人間の目が気になっているのなら、ここには来てませんよ。いつも自分は自分の意思で選択してここに立っていますから。覚悟なんてするまでもなく、選択は決まっています」



彼はここに来ている時点で自らの足で選んできている。



後がどうなろうと、主観として苦しむ今を対処しなければ、後悔するだけだ。



苦しむ現状維持の先にある未来など変化も成長も無いただの堕落であり、それこそ『事』なんだろう。



「何が起ころうと目先の対処をするだけです。将来考えて不安で立ち止まっていても何も変わらないですから。俺の意思として、言います。貴方を助けたい。だから、方法を知っているのなら教えてください」



少女は満面の笑み浮かべた。



この場の環境が更により良く変化させる。



闇は消え、痛覚は和らぐ。



それはまるで彼女の笑顔と喜びがこの空間を浄化している様だった。



「わかったよ!じゃあ、私の手を取って」



「はい」



少女に手を差し出される。



「私はこれから君を器としてこの世を生きる。つまり、私は今から君の体の中に入る」



「わかりました」



「私には表現を体現する形が無い。この苦しみを緩和させるには私が直接、負の感情を受け取るの



では無く、貴方の体をクッションに、感情を捉える必要があるの」



少女なりの手一杯の説明だった。



どう言っても目には見えないモノであり、どうも目には見えないから分からないこと。



それはいわば直感を無理矢理言語かさせたモノで、理屈が有っても証拠は無く、過程があっても証明出来ない。



目に見えない魂と目に見える体とを紐付けるには難しく、文字や言葉での表現に収まる範疇ではない。



「おっけーです」



だから彼は考えず、直感、いわば感覚に任せることにした。



考えても分からない事は分からない。考えないで良いことなのかも知れない。



そこに時間を掛け過ぎるより、目に見えない事象に理解のある少女の見解を「そう言うモノだ」と


理解する方が幾分も楽なのだ。



そうして誰かは信者になるのだろう。



それが良しか悪しかはさて。



理解に及んだ時に、直感した時に、また思考をすれば良い。



「外は感情の嵐だから。君が私を運ぶんだ。本来、体の中に二つの魂なんて体のキャパがオーバーなんだけど、そこは私が体全てのリミッターを解放してどうにかする。まあ、形が少し変わる可能性もあるけど、それは置いといて」



異形の存在になる事はどうでも良いらしい。



まあ、現実的な話では無いわな。



「了解」



けれど、目先の少女を苦しませない方法ならと、彼は迷わず少女の手を取った。



「ああそれと、君には私の使命を果たして貰うよ。これからの世界を見れば、何をやるかは分かるから。それはまた、ね」





吸機に吸い上げた負の感情やオーラの大半は、自心を傷つける、または心を傷つけられた事が原因に寄る。



「一」世界を作る人々の負を貯めるタンクの送料は計りしれない。



それだけの力は人の首くらい容易に刎ね飛ばせる。実際、エネルギー以前に、言葉や感情に駆り立てられ、人は異常な行動を起こし、自他共に様々な形で「死亡」という結末を迎えていた、か。



人間はそれ程に強力な武器、力を備えている。



生きているだけで人に影響を与え、人生を左右する責任重大なそんな力。



無責任に、当たり前に発動可能な事に対して甚だ疑問だが、まあ、それは置いておいて。



要はその力が柔軟に、無責任に、自由自在に扱えるのならば、それは優の前にいる男の様なのだろう。



鎌鼬。



全身に纏い、誰もを寄せ付けないその状態。



心を傷つける誰かの攻撃的な感情が、刃となった。攻めた言葉や感情は紛れもなく人を傷つける為の刃である。



形は当然、その状況、事象を模している。



けれどだからなんだ。



至って当然な現象に近寄りたくないのは当然で、そんな胸くそ悪いモノを消し去りたいのは必然だ。


嫌いだから見たくないモノなんだろ?



害が及ぶモノ、嫌いなものをそのままにはしておけないだろう。



それは、平穏を保つための策。



弱き精神が、凶暴な凶器の芽を摘む為の方便としている。



だから弱い。だから人間はサイコパスなのだ。



不安や恐怖を拭う為、先手を取って誰かを攻撃する。



皆、同種であり、自ら弱者を認める。



不安は自らの弱さが生み出した精神の一部。



つまり勝手な被害妄想だ。



否定される事を恐れ、自分の意思も世間に出せないただの逃げだ。



「私は・・・私が望む道に進む。誰かなんて興味は無いし、関わっている暇もない。貴方がどうあろうが、どうでもいいのよ」



「だからその言葉は僕に勝ってからいいなよ!」



男は右手から竜巻を発生させ、そこに鎌鼬を乗せ、彼女目掛けて飛ばした。



強大だ。



施設の天井すれすれの高さ。目では捉えきれない程。



「君の恥ずかしい姿を見れそうで嬉しいよ」



優はゆっくりと。



丁寧に、腰から剣を抜く。



そしてまた、剣先を竜巻に向けるだけ。



「終わりよ」



彼女の剣と竜巻の風圧が触れた。



男は目を見開いた。



「は?あり得ない・・・」



どうにも現実を受け入れられない様子。



それもそうだろう。



彼女の剣が衝撃も無く竜巻を消した。



あり得ない光景にあり得ないという言葉は当然。



しかしそれは、目に見えているものしか捉えられない人間の言葉だ。



男はあり得ない!と、現実。そして思い描いている当然の結果を出そうと何度も竜巻を飛ばす。



しかし、目に見えない現象と、目に見える結果は同じだった。

「なん・・・で」



「貴方はそれしか出来ないの?」



彼女は男の元へ近寄る。



その際にも幾度となく竜巻を飛ばす男。



完全に笑みは消えた。



その目には恐怖すら宿っている。



「く、来るな!」



「それで楽しく人間殺してたもんね」



「!!」



「まさか、人には出来て自分がいざそう言う状況になったらどうかなんて、考えてない訳無いわよねぇ?」



「ひぃっ!」



「同じ気持ちよ、皆。苦しんで死にたい訳ない」



彼女は迫り、男は自分を守るために強く鎌鼬を纏う。



しかしそれも彼女のオーラを纏った剣に、発動した瞬間消される。



「ひっ」



彼女は剣を突き刺した。



すると男は白目を向いて、気絶した。



「私は人殺しなんて自分を下げて、責任も重くのし掛かる馬鹿な行為出来ないわよ」



男は地面へ向けて突き刺しただけの剣に恐れていた。



これもまた、不安や妄想に駆られ、精神に逃げた結果だ。



「当たり前の意識が強すぎるのよ」



彼女はそう言って、また扉の前に立つ。

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