昼行燈と孤立無縁
こんにちは、位名月と申します。
なろう内でTS転生二重人格主人公異能力バトルものの『熾天使さんは傍観者』という小説を連載しています。
今回は探偵×異能力でやっていきます。不定期でまとめて更新すると思うので、気長にお付き合い頂けると嬉しいです。
孤立無援という言葉がある。頼れるものがなく、ひとりぼっちで助けがない状態を指す言葉らしい。ただ、俺はそんな状態でもまだマシだと思っていた。
孤立無縁。
たったひとりで助けてくれそうな人間はそもそもいない。それどころか敵になるような人間だっていない。誰もが異能を持つこの世界で、俺には異能もない。敵もいなければ味方もいない、それが今までの俺の人生だった。
…ただ神様ってやつは気まぐれで、俺みたいな奴にも白羽の矢を立てることがあるらしい。今まで敵でも味方でもなかった奴らが一斉に俺の敵になった。味方は誰もいない。反論したところで信じる人間もいない。
今までの人生でとっくに諦めがついていたと思ったが、まだ俺の心は壊れる余地があったらしい。まともに思考する余裕もないまま雨の降る街を傘もささずにフラフラと彷徨っていた俺は、いつの間にか小さい探偵事務所の前に立っていた。
「湊探偵事務所…」
ほとんど無意識のうちに扉の横にかけてある看板の文字を読み上げる。その看板も建物も、よく手入れが行き届いている。街の雑多な空気の中では異様に見えるほどのその建物は、二十年暮らしていたこの街で今まで意識したことがないのが不思議なほどだった。
まともな思考が働かないまま、俺の足はフラフラとその探偵事務所の扉に近づいて行ってその扉に手をかける。
「…?」
扉を開けた瞬間に何かが焼けているような匂いが鼻を刺激する。匂いの元を探して視線を彷徨わせると、本や何かのファイルが壁一面の本棚に並べられた部屋の奥…高級そうな事務机と革製の黒い椅子。そしてそこに腰掛けながらタバコを咥えて本を開いている、中学生ぐらいに見える美しい少女の姿があった。
「…ノックも無しとは随分礼儀のなってないお客さんだねぇ?」
「……」
本に視線を向けたままこちらに言葉を投げかけてくる少女のような風貌の人物。俺は理解の及ばない光景に、異世界に迷い込んだような感覚を覚えて黙り込んでしまう。返事をしない俺に少女はタバコの火も消さず、本も閉じないままで怪訝そうな表情で俺に視線を向ける。
「…?お兄さん、傘もささずにどうしたのかな?もしかして強盗だったりするのかな?こんな世の中でそんなバレやすい犯罪に手を染めるのはおすすめしないよ?」
「…いや、強盗に来たつもりはないぞ」
少女は本を閉じながら妙に風格のある口調でペラペラと捲し立ててくる。働いていない頭からなんとか否定の言葉を捻り出すと、少女は「そうかい?」と興味なさそうに答えてタバコに口をつけ、煙を吐き出す。それから興味のなさそうな表情から一変して、新しいおもちゃを与えられた子供のような表情で俺に向き直る。
「それなら、お兄さんは僕のお客さんってことになるねぇ?」
「…そう、なるな」
自分でも何故こんなタバコを吸っているような死にたがりの不良少女に真面目に答えているかわからないが、自然と口から肯定の言葉が出てくる。その少女は俺の言葉に、寒気がするような美しい顔に浮かべていた笑みを深める。
「それならお客さんはいい縁に恵まれたねぇ?」
そう言った少女の形容し難い迫力に気押されて押し黙っていると、その少女は楽しそうな表情のままもう一度タバコの煙を吐き出してから口を開く。
「ここにちょうど退屈で退屈で適当な殺人現場に突撃してみようかとまで考えていた名探偵がいるんだ」
おどけたようにそう言いながら短くなったタバコの火を消した少女は、新しいタバコに火を着けて煙を吐き出して続ける。
「僕に任せたが最後、お兄さんの困り事なんて面白おかしく完膚なきまでに壊してあげるからさ?」
…それが、孤立無縁な俺とこのふざけた探偵の厄介な縁が出来上がってしまった瞬間だった。
今回から始まった『知る、話す、触れる、壊す。』ですが、長いので基本『昼行燈探偵』というように言いますね。
更新の際は『熾天使さん』も『昼行燈探偵』も更新の際はTwitterの方で告知をしていますので、気に入ったという方は作者のTwitter(@cry_tura)をフォローして頂けると追いやすいかと思います。
『熾天使さん』とは違い、ある程度書き溜めてからまとめて更新になるので更新頻度は遅くなりますがお付き合い頂けると嬉しいです。