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第六九話 女子高生を動かすもの


 さて、ラスリューの村建設もそろそろ佳境だ。様々な部材ができて、いよいよもって組み立てないといけない。

 鬼族のパワーも体力も人間とはまるで違って、大きな丸太をまるでレゴブロックみたいに持って行く。とても頼もしいその姿によって、組立作業は大半のところを彼らだけで素早く行っていった。


 しかし、どうしても鬼族だけでは無理が出てきた重要な建物がある。村で一番大きく立派な建物。ラスリューの館である。


 というわけで動員されることに、俺は文句は無い。むしろ〈クラフトギア〉を持っているのに、彼らばっかりに働かせては申し訳ないと思っていた。


 大いなる力には大いなる責任が伴う。頼られるのは信頼の証。言うなれば運命共同体。互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。袖すり合うも、他生の縁。だからこそ森で生きられる。人類皆兄弟。ワンフォーオールオールフォーワン。


「嘘 を 言 う な!」


「説得失敗か……」


 暗い森の隅で妖しくぬめ光るなにかを覗かせながら蠢く闇を纏ったまま、千種が動いてくれなかった。


「しっ、知らない誰かと一緒に働かなくても良いって、言ってたじゃないですか!」


「うん」


「騙したんですね!」


 こういう予想はしてた。それを言わなかったのは騙したことになるだろうか。

 なると思う。


「でもほら、今日までは割とそのとおりだっただろ? 最後までそうとは言っていない気がする」


「そっ、そんな詭弁で騙されるのは、真面目な人だけですから。私は絶対働かないですから!」


「でもなー、千種。ちょっとだけ顔見せてくれよ」


「あっ、でも……」


「ちょっとだけだから。ちょっと聞いてくれよ。話をするときは、顔を見せるものだろ? な?」


「あっ、はい……」


 千種を隠す闇が薄くなる。恐る恐るといった様子で、顔を見せてくれた女子高生に、俺は思案顔をする。


「でも千種だって、うすうすは思ってただろ? 鬼の人と仲良くしたいって」


「えっ? えっと……」


「だってヒナが作ってくれる料理は、どんどん美味しくなってるじゃないか。これから鬼族が畑も田んぼも作っていくんだから、美味しいものを作ってくれる人たちだぞ?」


「あっ、あ……」


「仲良くした方がいいよな?」


「あ、はい……」


 押し切った。


「でも千種は人見知りするから、トークをするのは苦手だと思うんだ。だけど一緒に働いたら、きっとみんな認めてくれる。会話が少なくても、仲良くなれるんだ」


「それは……私のトーク力が絶望的、ってコト……?」


「千種の能力が超有能ってことだから」


 やるやらないの話じゃなく、うまくいくかどうかという話になってきた。

 いい感じだ。


「いくらなんでも、あの大きさの建物を素早く立てようと思ったら、俺と千種が手伝わないと、大変だ。このままだと田植えができなくて、来年は米無しかも……」


「ううぅ……」


 千種が苦しんでいる!


「少しだけやってみてくれないかな? 無理だったらすぐに止めていいから。それならいいだろ?」


「あっ、でも、でもお米……」


「大丈夫だよ。アイレスの友達だからって、鬼族たちもすごく丁重にしてくれるから」


「あっ、友達じゃないです」


 そこ否定するんだ……。

 もう仕方ない。最後の手段だ。


「頼む! 千種にしかできないことだから、どうしても千種が必要なんだ!」


「えぇぇ……」


「闇魔法なんて才能を持っているのは千種しかいない!」


「えっと……」


「俺もできるだけフォローする。千種のことを信頼してるから、こんなこと言えるんだ。もう鬼族たちが待ってるし、ほら、行こうな?」


「あっ、はい……」


 というわけで、最終的に頷いてもらった。





「うぅ……わたし、押されると断り切れない……」


 とぼとぼと手を引かれて歩く千種。すごく乗り気じゃなさそうなところに、最後はやる気を出してもらう後押しを使用する。


「ところで話は変わるけど、ドリュアデスのミルクで、ヒナと一緒にいろいろと試行錯誤中なんだ」


「あっ、はい」


「でも、どうしても成功させたかったやつだけは、急いで成功したんだ」


「はあ……なんですか?」


「生クリーム」


 びくん、と力無く垂れていた千種の手が反応する。


「なま……」


「クリーム。泡立て器がなかったから、〈クラフトギア〉で樹皮の形を整えながらな。一本一本丁寧に作ったホイッパーでシャカシャカって」


「成功した……?」


「なんとか形にはなったよ。あんなに砂糖入れるもんだとはね」


 お菓子作りはたしか義務教育の時にやったかな? くらいしか記憶になかった。

 ヒナは味覚が鋭いが、初めて食べる時に美味しさの基準にするのは、俺の舌だ。


「少し材料が足りなかったけど、それでも……パンケーキはパンケーキだ。クリームをたっぷり。それに果実もたっぷり。その見た目はどう見ても──」


 ぐぎぎ、とだんだん力がこもっていく千種の反応に気を良くしながら、最後に言う。


「──この世界で初めて見る”スイーツ”だったな」


「あああああっ! ずるい、それはずるい!」


 千種が叫んだ。

 そして、俺の手を握り返してぐんと引っ張る。前後が逆転して、俺の方が女子高生に引っ張られる形になった。


「さぁーっさとやります! その後に! なんですよね!?」


「その後でなら、スイーツのケーキでも食べるといい」


「チクショウ乗せられてやるー!」


 給油完了した。

 今日も一日ご安全に。



毎日更新していきます。

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