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小さい頃田舎で遊んでいた男だと思っていて大学に入りアパートで同じ部屋に住むことになった覆面売れっ子作家の幼馴染みで不良に絡まれているのを助けたら好意を持たれたが実はあの夏祭りの日何らかの約束を交わして

作者: 難波優輝

「おいねぼすけ起きろ!」

突然の大音声に目を覚ますと、女の顔がドアップで目の前にあった。

見慣れたサキの顔があった。そのサキが枕元に立ってこちらをじっと見ている。

「起きないと……こうだ!」

と言うやいなやオレの布団を引き剥がし安眠を奪う。


やれやれ。毎度繰り返される朝のルーティンだ。

ドヤ顔でこちらを見ているのはサキ。小さい頃田舎で遊んでいた男だと思っていて大学に入りアパートで同じ部屋に住むことになった覆面売れっ子作家の幼馴染みで不良に絡まれているのを助けたら好意を持たれたが実はあの夏祭りの日何らかの約束を交わしているらしく入院している祖母を安心させるために付き合っているフリをすることになっている。


「おい、小さい頃田舎で遊んでいた男だと思っていて大学に入りアパートで同じ部屋に住むことになった覆面売れっ子作家の幼馴染みで不良に絡まれているのを助けたら好意を持たれたが実はあの夏祭りの日何らかの約束を交わしているらしく入院している祖母を安心させるために付き合っているフリをすることになっている女」

「確定記述すな!」

「おい、サキ。いいかげん大学生にもなってオレを起こしに来るのはやめろ。一人で起きれる」

「ふん、〈小さい頃田舎で遊んでいた男だと思っていて大学に入りアパートで同じ部屋に住むことになった覆面売れっ子作家の幼馴染みで不良に絡まれているのを助けたら好意を持たれたが実はあの夏祭りの日何らかの約束を交わしているらしく入院している祖母を安心させるために付き合っているフリをすることになっている男〉が何を言ったって説得力ないけど?」


それはそれとして、サキとオレの間には二つの課題がある。すなわち、


(1)入院している祖母を安心させるために付き合っているフリをすることになっているが、いつこのことをバラすべきか。

(2)あの夏祭りの日に交わした何らかの約束が何かを思い出すこと。


「それにはもう一つ加えるべきでしょ、すなわち、」


(3)結局サキとオレは付き合うのかどうか。


「あれ、オレとサキは付き合ってなかったのか……」

「当たり前でしょ。少なくとも(2)を解決することが必要条件だからね。二人が好き合っていることは恋の十分条件じゃないの」

つまり、少なくとも(2)を解決することで、付き合うことが可能になり、付き合うと決定すれば(3)に答えが出て、(1)は自ずと解消されるわけだ。


「だが、その(2)こそがもっとも難しいわけだ」

「これに関してはわたしは助けないよ。答えは知っているけどね」

サキはふふんと不敵な笑みを浮かべる。

「ていうか、答えはほとんど出てる。〈小さい頃田舎で遊んでいた男だと思っていて大学に入りアパートで同じ部屋に住むことになった覆面売れっ子作家の幼馴染みで不良に絡まれているのを助けたら好意を持たれたが実はあの夏祭りの日何らかの約束を交わしているらしく入院している祖母を安心させるために付き合っているフリをすることになっている〉男、というあんたの確定記述にね」

「それは何度も聞いたが分からないんだよな」

とりあえず要素を並べてみよう


・小さい頃田舎で遊んでいた

・男だと思っていた

・大学に入りアパートで同じ部屋に住むことになった

・覆面売れっ子作家

・幼馴染み

・不良に絡まれているのを助けたら好意を持たれた

・実はあの夏祭りの日何らかの約束を交わしている

・入院している祖母を安心させるために付き合っているフリをすることになっている


「そうか……分かったぞ」

「はあ、やれやれ、やっとか、で、答えは?」

「答えは……小さい頃田舎で遊んでいた男だと思っていて大学に入りアパートで同じ部屋に住むことになった覆面売れっ子作家の幼馴染みで不良に絡まれているのを助けたら好意を持たれたが実はあの夏祭りの日何らかの約束を交わしているらしく入院している祖母を安心させるために付き合っているフリをすることだ!」

「……その通り。なんで分かった?」

「オレの確定記述に答えが書いているということは、オレの確定記述にあることしか答えに含まれておらず、オレの確定記述にあることを十分に使うとするとこの答えしかありえないからだ」

「でも、あんまりな答えじゃない?」

「答えは直観に訴えかけるかどうかじゃない。問いに対応するかどうかでしかない」

「あんたらしい」

(終)

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