表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

おかあさんといっしょ

「助かったわ。相変わらずできる子ぉやな」

「あんたとは出来が違うもの」


 さいで、とケイスは思ったが、全くその通りなので口に出さない。


「と、言いたいけれど今回はこれのおかげ」


 ひと悶着あった場所から少し離れて、銀色の円盤を撫でながらノルトが言う。

「幻影とか鑑定とか、今までも出来たんだけどここの精霊は力が違う。なんとか時期を合わせて来た甲斐があったわ」

「そら良かったな。そしたらもう用事は済んだし、()ぬで?」

 いいタイミングの馬車があるとええなあ、もう借り切ってまうかあ。親方(ノルト)が金持ってるやろうし……と思いつつ、立ち止まっているノルトの表情を窺う。


 機嫌が悪いとか、怒っているとかでなく全く感情が出ていない静かな表情。


 その表情に、悪い予感がした。


「決めた。あのメダル、スッて来るわ」


 大当たりか。

 最悪か。

 

「なにアホなこと言うとんねん。それをでけんようにするんがあのメダルやろ?」

「できるわよ」


「お前、頭に血ィ登ってるやろ」

「上ってない」


「あの成金親父に脅されたんが、メッチャ腹立ってんやろ」

「あたしを脅そうとか100年早いとは思ってる」


 あくまでも表情の出ないノルトの顔を見ながら、ケイスは思った。



***



 あのな、俺はお前がいくつの時からの付き合いやと思っとるねん。

 ガリガリに痩せて、眼光だけキツうて、調理場からゴミみたいなもん拾って食うて、誰とも話さんと、ギルドの地下でガラクタから訳のわからん羊皮紙やら石板睨みながらうずくまっとったガキの時から知っとんねんぞ。


 ボロキレみたいな服替えさせて、ついでに体も洗わせて、ほかのガキんとこ連れてって一緒にメシ食わせて。

 字ぃとか読めるんかな、思たら「知ってる」とか抜かして。

 鍵開けもスリも尾行も、教えたったら一発で誰より上手くなりよって。

 ちょっと健康になったかと思ったら、ちょいちょい一人でフラッとおらんようなって。

 他のガキらと一緒に探しても大抵ケロッと帰ってくるから、そのうち誰も心配もせんようになって。

 気がついたらおかしな魔法とか使うようになって。

 こっそり、あの妙な円盤見せてきて。

 他の誰かに言ったら殺すとか言うて。

 精霊がどうたら古文書がどうたら、なんやかんや説明してきて。

 俺が理解できるか、っちゅーねん。



***



「どんなに強力な魔法でも、それが人の心に働きかけるものである限り“絶対”なんてないのよ」



 なんや思い出したら、お()んみたいやな俺は。



「聞いてる!?」

「聞いとる聞いとる」


「絶対じゃない言うてもな、それはただの理屈やろ!?」

「あ、あいつ移動するわ。先回りするわよ」

「お屋敷に帰るんかな」

「この先に治安所の詰め所があるから、多分そこね」


 こいつ、大体の街の地図は頭ン中入っとるもんな。

 まったく、お()んの教育の賜物やで。


 衛兵を帰してしまったので、一人イライラしたように歩きだした所長の姿を見ながらノルトは迷わず軽やかに走り出す。拾った帽子を何度もはたいているのを横目に、ケイスも慌てて走り出す。


()()()に気を逸らしてやれば、必ず隙ができるのよ。つまり」


 痩せてうずくまっていたかつての少女は、気がついたら脚も早くなっていた。

 鈍足シーフの異名も持ち合わせるケイス(おかん)は、遅れないよう必死についていく。


「あんたにもわかるように簡単に言ってあげる。ビックリさせるのよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ