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バカサバイバー

「いででで、痛い痛い!!」

「そこの女、この男の仲間だな」


 スリが複数で仕事をする場合、誰かが騒ぎを起こしている隙に共犯者がスリを働く手口はままある。

 断定口調なのが気になるが、ノルトは普通にしらばっくれようとした。無関係だと言ってしまえば罰金で済むし、裏から手を回せばスリくらいいくらでももみ消せる。

 ……が、それよりも、衛兵に抑え込まれているケイス(バカ)を罵倒したい気持ちの方が先に立ってしまった。


「あんたねえ…その男から盗もうとしたの? こいつが誰か知らないの? ここの治安所の所長よ!? それくらいなんで下調べしてこないの!」

「偉そうに言ぃな! そもそもそういうのが大事やってお前に教えたんは俺やろが!」

「どっちが偉そうなの! 教えた自覚があるならちゃんとしなさいよ!」

「せやな! …あ、いや大体なんで治安所の所長がこない成金みたいなカッコしとんねん!!」

「お金で買った地位なんじゃないの!? ザラにある話でしょうがバカ!」


「わかった! 君たちが仲間なのは()()()()()()()()わかった!」

 よくわからないが、この喧嘩は止めないとこちらが要らぬケガをする。そう思って「所長」は芸人のように罵倒しあう二人を止める。


 少し居心地が悪そうになった衛兵に背を向け、咳ばらいをしながら話し出す。

「さて――ここで君たちを牢送りにするのは実に簡単だ。しかし少々迷っている。未遂とするか、余罪を追及するか――」


 何言うてんねんこのおっさん。とケイスは思った。

 ノルトの方は感づいていた。この男、なにか取引しようとしている。どちらか…いやどう考えても間違いなく自分と。


「ところで、私は少々魔法を研究しているのだが」

 来た、と思った。この男が魔法マニアなのは割とよく知られた話だ。それに関するキナ臭い話だって沢山掴んでいる。

 

「君の魔法は、ギルドなどで研究されている古代語魔法とは違うね。少々変わってはいないかな?」

「そんなことないと思うけど」


「話によっては、君たちを客として迎えることもできるのだが?」

「え、マジ? おいノルトちょっと乗っとくか?」

 バカは空気を読まない。バカなのは知ってたけど、想像以上に読まない。


「馬鹿言わないで! あんた捕まって来なさいよ、後で出してあげるから!」



***



 ノルトが魔法を使うようになったのは、「銀の円盤」を手に入れてからだ。しばらくギルドはその存在を知らなかった。なにしろノルトは「いないもの」だし、誰も彼女の動向を気にしていなかった。世話係の男一人を除いて。

 周りが気が付いたときには、それなりの使い手になっていた。どこで手に入れたかは頑として口を割らない。取り上げようとしても、術で妨害される。ギルドの仕事に役立てるようになってから、ようやく認められたというか、誰も異を唱えられないような存在になっていた。


 世話係の男こと、ケイスはなんとなく聞いている。これを媒体に、この国の各地に祀られている「土地神」――それは精霊であったり、旧いイキモノであったりする――と契約し、その力を借りて魔法を使っているのだ。他の国では知らないが、彼らの住む辺りでは非常に珍しい魔法といえる。

 ケイスはその契約行を「カミサマと仲良うなりに行ってる」と、大雑把すぎる解釈をしている。


 この魔法について知っているのは、ノルトは(ケイスは置いといて)自分と、これを手に入れるきっかけとなったもう一人だけだと把握している。そのほかの人間、ましてや官憲側の成金親父に掴ませる気などサラサラない。



***



 だが、その成金親父は無遠慮に、銀色の円盤に近づいていく。

「そこの円盤、非常に興味をそそる」

 そして、噴水に向かって歩を進める――

サブタイトルは特に中身と連動してないことも多いです。

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