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転生業務課は本日も大忙しです  作者: めいりん君
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第二話:派遣業務もやらなきゃいけないらしいです③

続きです。

 半狂乱のまま必死に飛び続け、俺が落ち着きを取り戻す頃にはどことも知らぬ場所にたどり着いていた。

 空から見ているはずなのに、元いた平原はどこを向いても見えやしない。

 眼下(がんか)には森が広がり少し離れた所に岩山らしきものが少し見えるだけ、街や村は見える限りはどこにもなかった。

 長瀬啓示(ながせけいし)、異世界で迷子である。

 しかも―

「―っ!っとと…!」

 逃げるために必死で、無意識のうちに飛んで来たため飛び方がいまいちわからず、ホバリングすらできずにフラフラと旋回してなんとか落ちるのを防いでいる。

 正直、今翼を動かしているのもどうやって居るのか解ってない。人にはない翼という部位は未知の感覚だ。

 しかしギリギリのところで飛べているものの、兵士から走って逃げ、ここまでも必死に飛んできた俺の身体は限界が近かった。

 とにかく身体を休めたかった俺は落ちないようにゆっくりと高度を下げていき、久方ぶりの地面へ崩れるように着地する。

 翼が大きすぎて森の中には降りられなかったので旋回しながら見つけた森に空いた穴へと降り立ったのだが、そこには神秘的な泉が広がっていた。

 のどが渇いていた俺はとても透き通っていて綺麗な泉だから大丈夫だろうと根拠(こんきょ)の無い事を思いながら泉の水を手ですくって口をつけた。

「美味しい…!」

 水なのに柔らかく、ほんの少し甘い気さえした。

 俺は疲れ身体に染み渡らせるように泉の水を飲み、一息ついたところで疲れからか猛烈(もうれつ)な眠気に襲われた俺は翼を広げたまま半身で横たわり、そのまま意識を失った。


 ***


 啓示は気づかなかったが、泉の周りには様々な動物が顔をのぞかせており、啓示のことを見ていた。

 しかし、久々の運動と竜に追われる恐怖などが積み重なり疲れの限界を迎えていた啓示はそれに気づくことなく、泉の辺りで倒れてしまったのだ。

 啓示が倒れて眠ったあとも動物たちはしばらく様子を見ていたものの、明らかに動かない啓示に動物たちもやがてゆっくりと啓示に近づいていった。動物たちはいずれも地球に存在するような姿ではなく、言葉にするならば3(メートル)はありそうな青色のクマに鋭い牙を生えたヤギ、毛むくじゃらの狐のようなものなど、この世のものとは思えない姿をしている。

「フックル…」

「ぐるるるるる…?」

「くっくるー」

 動物たちは啓示から5mくらい離れたところで立ち止まり、顔を見合わせて何かを確認するように鳴いてから毛むくじゃらの狐だけが、更に啓示へと近づいていった。

 狐は啓示の顔に鼻を近づけてスンスンと匂いを嗅ぎ、身体の周りをくるくるを回って様子を(うかが)った後に、待っている動物たちへ向けて、

「くるる!」

 と鳴いた。

 それが合図とばかりに待っていた動物たちも啓示へと近づき、やはりスンスンと匂いを嗅いで、そして寝転がった。

 大きい動物は啓示の周りに、小さい動物は広げられた翼の上などそれぞれの場所を見つけて腰を下ろすとそのまま寝始めたのだ。

 そこから少し時間が経ち、啓示の周りで眠る動物たちも数匹は入れ替わったりする中、その入れ替わった動物たちの中に明らかに他の動物たちとは違う存在が混じっていた。

 その存在は啓示の翼の上で気持ちよさそうに丸まって寝ていた。丸まった羊の角のようなものが頭に生えていることを除けば、その姿は5~6歳の男の子のように見える。

 広がった翼に動物や男の子が集まって寝ている光景はとても異様で、なぜ啓示はこんな状況下で熟睡出来るのか不思議なほどだった。

「むにゃ…」

 男の子は布団でもつかもうとしているのかすっと腕を伸ばすと啓示の羽を掴んで、そのまま引っこ抜いた。

「あだぁ!?」

 熟睡している啓示もこれにはたまらず飛び起き―

「―っがぁ!」

 られなかった。

 翼に乗った動物たちの重みのせいで身体を起こせずに反動で地面に頭を叩きつけてしまうが、幸いにも下は草が生えており芝のように柔らかかったため痛みはそこまではなく、頭を擦りながらも起こせる範囲で身体を起こして辺りを見渡した啓示は驚きで目を見開いた。

「痛ってぇ……。え……?え?何?動物?え、えぇ?男の子……?なにこれ……」

 自分の周りに集まっている動物、なにより男の子の存在に驚きを通り過ぎたのか一瞬だけ慌てたものの、すぐさま落ち着きを取り戻し、むしろ呆れたような声を出した。

「……え、本当になんなの、これ」

 啓示は考えるのを諦めたのか、間の抜けた顔ですぐ近くで寝ているらしいウサギのような丸い毛玉状の動物に手を伸ばした。

 ウサギにしては少し大きいような気がするが、啓示は気にせずに手を乗せる。

 ―モフッ!

「おぉ……!」

 ―モフッモフッ!

「おおおお!」

 なんとも言えない滑らかな白く、手が沈むほど柔らかな毛並みに啓示は夢中になってモフった。

「……くぅ…?」

 モフられた動物がうざったそうな声を漏らしながら顔を上げた。

「ウサギじゃ、ない……」

 啓示はウサギだと思ってモフっていたその動物は白い毛並みで初めに啓示に近づいた狐のような動物だった。起こされた狐のような動物は目を細めて啓示の顔を見てから、

「くるぅ」

 とお辞儀をしながら一鳴(ひとな)きして啓示のそばから離れ、少し離れたところで「くうぉーん」と遠吠えをすると走り去ってしまった。

 それを皮切りに眠っていた動物達が次々に目を覚まし、何故か一様に啓示にお辞儀をしてから去っていく。

 まだ頭の働いていない啓示は最後に去っていった大きな青いクマを見ながら、

「(昔のゲームにあんなモンスター居た気がするわ)」

 などと呑気(のんき)な事を考えていた。

 啓示が寝ぼけているのもあるが、長きにわたる社畜生活が人としての危機管理能力を確実に(うば)っていた。

 後に残されたのは眠ったまま起きる気配も無い男の子と啓示だけである。

 啓示はなんとか上半身は起こせた物の、翼に乗られたままではどうしようもなく啓示は起こすか起こさないか迷ったように手を右往左往(うおうさおう)させていた。

 その時である。

「その子に何をしたっ!!」

 静寂(せいじゃく)が支配していた泉の(ほとり)を引き裂くような怒声が響いた。




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