モアは頭を悩ませる②
「歴代最強の魔法少女……!? それ、確かかぽん!?」
「ちょ、モアさん声でかいっすよ……」
モアとモストが言い争いをしていた日から、ほんの数日後のことである。
女神城では、先日新たに誕生したという魔法少女の噂で持ち切りになっていた。
それもそのはずである。
その魔法少女が、これまでのどの魔法少女よりも強大な魔力を持っているとされていたからだ。
「なんてタイミングの悪い話だぽん……これもモストのやつが?」
「どうもそうらしいっすね。モストさんが見つけてきたみたいですよ」
「…………!」
部下からその話を聞いたモアは、嫌な予感がしていた。
今の時期、モストによって誕生した魔法少女ということは……当然、魔王討伐のために勧誘された魔法少女のはずである。
となれば、その魔法少女が芽衣や麻子の敵に回る可能性は高い。
「……その魔法少女の属性は、わかっているぽん?」
「『氷』って聞きましたけど。珠玉審判では、珠玉を粉々に砕いたって噂。その常識外れな魔力から、『雪女』って恐れられているみたいですね」
「『雪女』……」
「雪女なら、魔王を倒すのも容易なんじゃないかって上が騒いでましたよ。実際、どうなんですかね?」
「は、はは……それだけ強いなら、そうかもしれないぽんね」
モアは、誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
闇の魔法は、すべての魔法を無効化する……モアはあえて、そのことを黙っていた。
芽衣がそんな力を持っていると知れ渡れば、皆が不安がり、より敵が増えてしまうと考えたからだ。
しかし実際には、芽衣は無敵ではない。
魔力には限界がある。
光属性という天敵も存在する。
だから、それだけの魔力を持つ存在が芽衣の敵として立ちはだかったとき、どうなるのか……モアには、見当がつかなかった。
「……その、雪女の家はわかるぽん?」
「わかりますけど」
(……モストがあらぬことを吹き込む前に……そいつに会ってみるべきぽんか……?)
「教えてくれぽん。雪女の居場所」
「それは構いませんが……もしかして、雪女のところへ向かうつもりですか?」
「……そうだけど……何かあるぽん?」
「気を付けてくださいね? どうも、問題児だって話ですから」
「も、問題児?」
「詳しいことは知りませんけど。えっと、場所は……」
モアは雪女の居所を聞き出すと、早速接触を試みた。
しかし結論から言うと、モアは雪女に出会うことはできなかった。
彼女の住む家を見つけることには成功したものの、近付けなかったのである。
「ここが、雪女の家……確かに魔力を感じるぽん。でも何だろう、不安定で、どこか危ういような……」
モアは、そっと玄関に向かった。
しかし、次の瞬間。
寒気がするほどの魔力を感じたモアは、思わず飛び退いた。
(!? な、なんだこの魔力……!?)
心臓の鼓動が早まるのを感じる中、モアは右手から白い煙が立ち上っていることに気が付いた。
「…………ぇ?」
自分の右手に目を落としたモアは、言葉を失った。
右手が、凍り付いていたのである。
「……う、うおおおお!? なんだこれ!?」
モアは慌ててその場から逃げ出した。
(全く! 全く気が付かなかった! 気が付いたら右手が凍っていた……! 一体何が起きたぽん!?)
近付いただけで凍り付いてしまうほどの、氷の魔力。
それは、モアにとっても信じられないことだった。
(近付けない……そんなことあるぽん!? だ、だったら……上空から見張って、家から出たところを接近してみるぽんか……?)
モアはそう思い、その日は一日中雪女の家を見張っていた。
しかし、丸一日経ってもその家から人間が出てくることはなかった。
「……全く出てこない……どういう子なんだぽん……?」
モアはじっと家を見ていたが、諦めて芽衣の元に戻っていった。
それから何度かトライしてみたものの、モアが雪女の姿を見ることは無かった。




