モアは頭を悩ませる①
時は、初夏に遡る。
ここはアストラルホールの中心部にある、女神城。
女神に仕える神官であるモアは、城中に響き渡るような声でモストに詰め寄っていた。
「モスト! お前……またひとり魔法少女を増やしたぽん!? もう、その必要は無いって言ったぽんよね!?」
「やれやれ……またあなたですか、モア殿。あなたはそう言いますが……わたくしはそうは思いません」
モアと同じ立場である、モスト。
姿かたちはよく似ているものの、性格はまるで合わない犬猿の仲である。
そんなモストは、声を荒げるモアのことなどまるで気に留めていないかのように、平然とモアの怒声に応じていた。
「いいですか? 我々は、いつか来る闇の軍勢の侵略のために備えなければならないのです。現に、今は魔王の力が封印から解き放たれているのですから」
「だから、今は芽衣という魔法少女が……」
「その話は聞き飽きましたよ。どうしてそれで安全だと言えるのか、わたくしには理解できません」
モストはモアに詰め寄ると、戒めるように言った。
「わたくしとあなたでは、根本的に考え方が異なるということです。これ以上、邪魔をしないでいただきたい」
「……それで性懲りもなく、魔法少女を増やし続けるぽんか」
モアは、大きなため息をついた。
「あなたこそ、知らないのですか? 最近急に、魔獣の活動が活発化しているのを」
「ああ……噂は聞いたぽん」
「これは由々しき事態です。モア殿、あなたの見張りが何の役にも立っていないことが証明されたようなものだ」
「はぁ? まさか……芽衣の仕業だって言いたいぽんか?」
「そうとしか考えられないでしょう? 急に魔獣が再び人間を襲うようになった……これはもう、魔王が動いているとしか考えられない」
「いやそんなわけ……」
「では、他にどういう理由が?」
「そ、それは……わからないぽんが……」
「呆れましたね。こんな事態だからこそ、魔法少女は必要なのですよ。我々は、有事に備えなければならないのです」
モストはくいっと眼鏡を上げて言った。
モストは性格上、モアの話に耳を傾けようとはしない。
モアはモストの言い分も理解していたが、それを良しとは思っていなかった。
モストは、周囲からの評判が良い神官である。
しかし、評価を得るためには手段を選ばず、やりすぎることも少なくない。
今回の件も、モストがそこまでするのは女神様から評価されたいから……モアは、そう考えていたのである。
だから、モアはモストのことを好いていなかったのだ。
「そういえば……聞いたぽんよ。魔力が相当強い魔法少女が見つかったって。しかも、鏡属性だって? 随分レアな属性ぽんね」
「おや、ご存じでしたか」
「それだけ派手に動いていてよく言う……もうみんな知ってる話だぽん」
芽衣が魔王の力を取り込んでからというもの、モストは単独で魔法少女を増やし続けていた。
芽衣のことは心配ない……モアはお目付け役を果たしながらそう報告していたが、モストがそれを許すことはなかった。
一パーセントでも可能性があるのなら、排除する……モストはそういう性分なのだ。
「ったく……頭の固いやつだぽん。どれだけ魔法少女を増やしたところで、芽衣に勝てるやつなんていないと思うけどぽん」
「……今の発言は聞き捨てなりませんね? 神官という立場でありながら……魔王に肩入れしているように聞こえましたが」
「言い方に悪意がある。そういう意図はないぽん」
「ふん……モア殿。あなたがこれからも魔王の味方を続けると言うのなら、こちらも黙ってはいませんよ。これは、忠告です」
「はいはい。ありがたい忠告、身に染みるぽん」
モアはそう言うと、その場を離れて芽衣の元へ戻ることにした。
「全く……あいつら、いつになったらわかるんだぽん。この問題が解決したら、麻子にご馳走でも用意してもらいたいところだぽんね」
モアはぶつぶつと文句を言いながら、人間世界へと繋がる穴を開いた。
「ま……モストがどれだけ動こうが、無駄だと思うけどぽん。それこそ、あの麻子や芽衣を上回るような、歴代最強級の魔法少女でも誕生しない限り」
このモアの発言は、フラグとなる。
そのわずか数日後。
神官たちをざわつかせる事件が起きた。
それが、歴代最強の魔法少女――『白雪羽衣』の誕生である。
少しだけ、過去編のお話が続きます。
どうして麻子が急にいなくなったのか……そこに繋がるまでのお話です。