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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~樋本華蓮編~
96/200

最期の魔法

「あんたが……魔獣を、操っていたの……?」

「あ。バレちゃった?」


 あっさりと。

 悪びれる様子もなく。

 京香は、平然と答えた。


「ミラージュの魔法少女にもバレなかったのに。気付いちゃったか」


 ふぅと息を吐きながら立ち上がると、京香は操り人形を動かすように指を動かした。


「そのとおり。魔獣は、自ら人間を襲うようになったわけじゃない。わたしが……魔獣を見つける度に操って、人間を襲わせていたのよ」

「なんで……なんで、そんなこと」

「そうしないと、魔王に勝てる駒が見つからないでしょ?」

「は……?」

「世論操作ってこと。魔王は悪だ、だから魔王を倒す魔法少女が必要だ、だから魔法少女をもっと増やすべきだ……そういう理由付けとして、必要なことだったのよ」


 当たり前のように言っているが、どうかしている。

 つまりこいつは、魔王を倒せる魔法少女を見出すために、魔獣をも利用していたということだ。

 魔法少女が増え続ければ、いつか魔王に勝てる魔法少女が誕生すると見込んで。


「正直、諦めかけてたけどね。どいつもこいつも弱い魔力しか持ってない……魔獣と戦っているみんなを見て、何度落胆させられたか」

「魔獣と……それじゃ、魔獣と戦う魔法少女の補佐をしてるって言ってたのは……盾になるためじゃなくて、魔法少女を攻撃する魔獣をすぐ近くで操るため……!?」

「そーいうことよ」

「あ、あんた……いかれてる。全部、自作自演だったってこと? 瑠奈が……あいつが、どういう気持ちで戦ったのか知らないわけじゃないでしょ!?」

「だからぁ……言ってるじゃん。この組織は『ミラージュ』だって」

「ミラー……ジュ?」

「『幻想』なのよ、この組織は。全部わたしの自作自演。存在しない敵に対抗するために作られた、幻想の組織。実態なんて……初めから無かったのよ」


 眩暈がした。

 こいつは、いかれている。

 京香は、自分の目的のために動いている。

 ほかの魔法少女のことなど、なんとも思っていない。

 ようやく、ミラージュの全体像が見えた気がした。

 京香が魔獣を操って、人間を襲わせる。

 すると、魔法少女の需要は高まる。

 そうなれば、魔法少女の数も増える。

 当然、魔王の芽衣にも矛先が向くだろう。

 魔法少女を統率して、魔王に勝てる優秀な魔法少女を見つけるために……全て京香が仕組んだことだったんだ。


「そういう……ことだったのね」


 魔法少女は闇が深い――かつて、麻子からそんな言葉を聞いたことがある。

 確かに、麻子も芽衣もわたしも、どこかこじらせていたように思う。

 それにしたって、こんな魔法少女はいい加減にしてほしい。

 これじゃ、魔法少女は……悪役だ。


「あれ……もしかして、もう壊れちゃう?」


 京香が巨大な鏡を見ながら、ぽそりと呟いた。


「え……あ、華奏!?」


 体力の限界が近いのか、鏡に映っている華奏が倒れた。

 それでも、京香の指先一つで立ち上がり、再び動き始める。

 まるで、意識のない操り人形のように。


(やばい……! 華奏、もう限界なんだ! もう、迷ってる場合じゃない!)


「……京香ぁああああああ!」


 一気に炎魔法の火力を上げる。

 さっきの『キャンプファイヤー』は、京香の鏡を一枚貫いていた。

 だったら!

 もっと魔力を上げればいい!

 全力で撃てば、絶対に負けない!


「あんたは……ここで、倒す!」

「……なっ……」


 メラメラとうごめく炎を纏ったわたしを見て、京香が一歩下がる。


「なっ……なんてデタラメな魔力……!」


「『火祭りシリーズ……其の陸(エクストラ)!』


 これを使ったら、魔力をほとんど使い切ることになる。

 それでも、出し惜しみしている場合ではない。

 もう、華奏には時間がない。


「『舞火龍』!!」


 耳を覆いたくなるような轟音と共に、炎の龍がまっすぐ京香を襲った。

 いける! 

 これなら!

 京香の鏡二枚ぐらい、粉々に粉砕して……!


「……なんてね」

「ぇ」

「ほんと……単純な挑発に引っかかるんだから。馬鹿な女」


 京香の周りが、一斉に歪んだ。

 あっ、と気付く。

 なんでわたし、京香の鏡が二枚までって決めつけていたんだろう。

 なんで、二枚壊せれば京香に攻撃が届くと思ったんだろう。

 そうとは限らないって、少し考えればわかるはずなのに。

 でも、もう遅い。

 目ではっきり見える。

 京香の周りを、無数の鏡が埋め尽くしていた。


「『狂咲……万華鏡』」


 炎がスローモーションに見える。

 このままじゃダメだってわかっているのに、動けない。

 止められない。


「『万倍返し』」


 炎の龍が、牙を剥いてわたしに向かってくる。

 それを見たわたしは、瞬時に悟った。


 ――終わった。


 これはもう、防ぐとかそういう問題じゃない。

 あまりにも、巨大すぎる。

 逃げ場はどこにも無い。


「『A』じゃ『2』には勝てないんだよ……さよなら」


 遠くで、京香が笑う姿が見えた。

 同時に、涙で視界が歪んだ。


(ごめん……華奏……芽衣)


 判断を誤った。

 もっと上手に戦えば、京香の魔力が尽きるまで戦えたかもしれないのに。

 目の前が真っ暗になる。

 死ぬのかな、わたし。

 わたしは無意識のうちに、こう呟いていた。


「助けて……麻子」

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