VS京香
「その口……閉じた方が良さそうね」
バン、と乾いた音が響き渡った。
同時に煙がたなびき、京香の顔が見えなくなる。
瑠奈を一発で倒した、炎の弾丸。
至近距離な分、さっきよりも威力は高い。
……しかし。
「……無駄だって」
少しずつ晴れていく煙の中で、京香は呆れたように言った。
「ぐっ……反射鏡……!」
わたしの指から放たれた炎の弾丸は、京香の身には届いていなかった。
速すぎてはっきりとは見えなかったが、何が起きたのかは明白である。
京香の鏡魔法に、反射されたのだ。
炎の弾丸が貫いたのは、京香ではなくわたし自身。
自分が撃った弾丸は、確かに自分が纏っている炎に呑み込まれて消えた。
「お前の魔法なら……ウチは簡単に反射できる。華蓮が『A』なら、ウチはそれに勝てる『2』って感じ。おとなしくそこで見守ってなよ、妹の活躍をさ」
「ふざけるのも……いい加減にしなさいよ!」
「……あのねぇ、ウチだってイラついているんだけど」
声を荒げるわたしに対して、京香はギロリと睨んで言った。
「あの魔王……光の魔法少女をぶつけたのに、ウチの鏡を割りに歯向かってくるなんて。おかげでふたりとも鏡の世界に追いやるしかなかった」
頬の切り傷を撫でながら、京香は恨めしそうに言った。
「それじゃ、その傷は……やっぱり芽衣の風魔法で……!?」
頬に切り傷をつけられた、京香の不機嫌そうな顔を思い出す。
「そっか……おかしいと思ったのよね。せっかく分断したのに、芽衣と華奏まで鏡の世界に来たのはそういう理由……ふん、あんたじゃ力不足だったってことね」
「……は? お前になら負けないから問題ないんだけど」
京香の声が低くなった。
お互いの感情が高ぶり、空気が張り詰めているのが肌でわかる。
どうしようかと迷っていると、京香の方が口を開いた。
「それに……解せないこともある。華蓮……お前たち、随分早く駆けつけてきたわよね。どうやってここを嗅ぎ付けたわけ?」
「!」
そうか……京香は、知らないんだ。
アストラルホールから発信されたと思われる、文字化けしたコメント……ここで出会った、フードを被った魔法少女……それらの情報があったから、わたしたちはここに辿り着くことができた。
そうじゃなかったら、今頃華奏を探して元の世界を彷徨っていたかもしれない。
こんなに早くミラージュを追い詰めることができたのは、運よく噛み合ったからだ。
「へえ……あんたにとって、こんなにわたしたちが早く来たのは計算外だったってことね……!」
「……お前になら負けないから問題ないって言ったでしょ。もうちょっと時間があれば、あの妹も完全に木偶の坊にできたって話よ」
「なっ!」
「ったく……るなちじゃ時間稼ぎもできやしない。ほんと……弱いんだから」
「……!」
瑠奈がわたしの前に立ちはだかった理由が、今はっきりとわかった。
京香の指示でそうしていた……それはわかっていたが、明確な理由があったのだ。
京香が、華奏を完璧にコントロールして操れるようになるまで……時間稼ぎがしたかったのだ。
と、いうことは。
きっとまだ、京香は華奏を完璧に操ることはできていない。
だから、華奏の力を完全に引き出すことはできていないんだ。
もし、わたしたちがここに来るのが遅れていたら。
そう考えると、ゾッとする。
紅京香――こいつは、瑠奈やほかの魔法少女とは比べ物にならない。
華奏を道具にして、芽衣を討伐しようとしている張本人。
わたしにとって、絶対に倒さなければならない『敵』だ。
「だったら……!」
両手を拡げて、魔力を溜める。
京香の鏡魔法では、わたしを操ることはできていない。
京香の魔力だって、無限ではないのだ。
だとすれば、反射魔法だって無敵のはずがない。
そこに、きっと突破口はある。
「京香ぁ……これでも……返せるかしら!?」
巨大な炎の球体が、真っ赤に燃え上がる。
わたしの炎魔法では、最強級の火力だ。
「火祭りシリーズ……其の肆!」
両手を京香に向け、叫んだ。
「『キャンプ……ファイヤー!』」