開戦の号砲
「ウチからすると……お前の方が理解できないけどね」
「……何ですって?」
「知らないわけないよね? 魔王を倒したときのご褒美。魔王を倒すと、何でも願いを叶えることができるって話」
「そりゃ、知ってるけど……あんた……そのためだけに、芽衣を……!?」
「だけ? 何言ってんの?」
「んな……!?」
「こんな大きな理由、他に無いでしょう。あの魔王ひとり仕留めるだけで、何でも願いが叶うのよ。それなら、なんだってすると思わない?」
「だから! 今、その魔王は芽衣で……芽衣は、普通の女の子なんだから……!」
「普通の? 冗談でしょ。魔王は魔王よ」
「……っ!」
「あの魔王は、ウチが潰す。邪魔するなっていうのは、そういう意味よ」
「……どっかで聞いたような台詞ね、それ」
わたしは、目の前にいる京香にかつての自分を重ねていた。
確かに、芽衣は魔王の力をその身に宿している。
と、いうことは。
芽衣を殺した者は、願いを叶えることができるということだ。
それは、わたしもわかっていた。
だから、冬に芽衣と戦ったとき……正確には、麻子と芽衣をアストラルホールから現実世界に連れ帰るとき、その考えは一瞬頭をよぎっていた。
今ここで、芽衣を殺してしまえば。
華奏の病気が治るんじゃないかって。
だけど、わたしはふたりを病院に連れて行くことにした。
いくら華奏のためとはいえ、芽衣という『普通の』女の子を殺すなんて選択肢、わたしには無かった。
しかし、京香は違う。
芽衣を倒して己の願いを叶えることに、ためらいはない。
本来、京香ひとりでは芽衣を倒す手立てなど無かったはずだ。
わたしぐらいの魔力を持つ人間ひとり操ることもできないのなら、芽衣を操ってどうこうすることも不可能のはず。
だからこそ。
京香は、芽衣に勝てる『駒』を用意する方法を思いついた。
芽衣に勝てる存在……光の魔法少女を操って、魔王を討伐するという方法を。
「……いや……待って」
そこまで考えて、わたしは思わず口に出した。
「だとしたら、願いを叶えることができるのはあんたじゃなくて華奏になるはず……やっぱりこんなことする意味ないじゃない!」
「馬鹿だねぇ。ウチは操れるんだよ?」
「えっ……?」
「操って、光の魔法少女にウチの願いを言ってもらえばいいだけでしょ」
「は……はは」
自分でも何故だかわからないが、乾いた笑い声が漏れていた。
これ以上、話しても無駄だ。
「……なるほど。もういいわ」
わたしは指鉄砲の狙いを京香に向けた。
人差し指の先に、炎を灯す。
「その口……閉じた方が良さそうね」
――バン、と乾いた音が響き渡った。