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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~樋本華蓮編~
92/200

紅京香は躊躇わない

「まさかあんた、華奏を……操ってるの?」

「そーいうこと。これが、ウチの魔法……『映し鏡』よ」


 映し鏡――それは、相手と自分の瞳にお互いの存在を映すことで発動する鏡の魔法。

 京香は、自らが脳内に思い描く像と同じ動きを、他人に強要することができる。

 一度条件を満たしてしまえば、普通の人間に逃れる術はない。

 強力な魔力をもつ京香は、離れたところにいる相手を操ることすら可能とする。


「反射とか、鏡の世界とか……そんなのは、鏡魔法を使った(わざ)に過ぎない。華蓮も操れれば、話は簡単だったけど……」


 京香は自嘲気味に薄ら笑いを浮かべて言った。


「お前は魔力が強すぎて無理ゲーだったわ」

「……!」


 やっぱり、さっき一瞬足の自由が利かなくなったのは京香の仕業だったんだ。

 魔力の強い人間を操るのは、京香にとっても容易ではないということだろうか。


「そうか……だからあんたが最初に接触してきたとき、手の内晒してまでわたしに魔法を使わせたのね。わたしが操ることができるレベルの魔法少女か、見極めるために……!」

「ご名答。お前がウチの映し鏡で操れるかどうか、確認したかったのよね。ま……案の定無理そうだった。でも……」


 こちらに目線を向けた京香の目は、不気味だった。

 思わず、怯みそうになるほどに。


「でも、妹は違ったわね」

「……! それであんたは、華奏を攫った……説得して協力を仰ぐ必要なんて無い。ただ、操ればいいだけの話だから!」

「そ。だって、光属性の子なんだよ? 上手に使ってあげないと、勿体ないでしょ」

「使う……って」


 京香の口ぶりに、心がざわつく。

 身体を纏っている炎がゆらゆらと揺らめいて、顔が熱くなるのを感じた。


「いやいや、そんな怖い顔しないでよ。んー、なんて説明するといいかなぁ……」


 京香はソファーに深く腰掛けると、髪を弄りながら言った。


「……大富豪ってゲーム、知ってる?」

「……は?」


 突然の問いかけに、思わず語尾が強くなる。


「あれ? 知らない?」

「……トランプの……よね?」

「それそれ。大富豪で言うと、華蓮、お前は『(エース)』って感じ。めちゃくちゃ強いし、頼れるカード」

「……何が、言いたいの?」


 急に話を脇道に逸らされて、京香の意図が分からない。

 しかし京香は、わたしの問いかけを無視して話を進めた。


「それに対して、闇の魔王は『ジョーカー』。最強と言ってもいいぐらいなんだよねぇ」


 京香はこちらを振り向いて、言った。


「でも、ジョーカーに唯一勝てるカードがある。わかる?」

「……スペードの、3……でしょ」

「そうそう。光の魔法少女は、そんな感じなのよ」


 スペ3返しってちゃんとした公式ルールらしいよ、と京香は笑っていた。


「あの光の魔法少女の魔力は、大したことない。でも、光属性は闇属性に対抗することができる有能カード。だったら……有効活用しない手はないでしょ?」

「……っ……」


 眩暈がした。

 倫理観の欠片もないのか、こいつには。

 京香の方がよほど魔王らしい。

 わたしの妹を自分の手足のように使って、悦に入っている。

 人を自分の思うように操ることに、何の躊躇いもない。

 思わず、巨大な鏡に映った芽衣と華奏に目を向けた。


(華奏……!)


 華奏が、軽やかに動きながら芽衣を追い詰めている。

 しかし、どう見ても自分の意志によるものではない。

 華奏は、身体が弱い子だ。

 あんなに動けるような子じゃない。

 あれは、本人の限界以上の動きを――京香に強要されている。

 それでも、芽衣は華奏に負けていない。

 芽衣の闇が華奏の光に打ち消されているように見えるが、それすらも目くらましにして、上手に風を使って逃げている。


(……芽衣……あんた、大丈夫なの……!?)


 芽衣は、ひたすら逃げに徹していた。

 いくら光の魔法少女が相手とはいえ、ふたりの魔力の差は大きい。

 風の魔力も併せ持つ芽衣が本気を出せば、互角の戦いはできるはずだ。

 にもかかわらず、それをしないのは……今目の前に立ちはだかっているのが、わたしの妹だからだろう。

 戦えば、どちらかは倒れる。

 これは、そういう戦いだ。

 もう、見ていられない。

 このふたりが、戦っているところなんて。


「……もう止めて! 芽衣は、魔獣がまた人間を襲うようになったこととは関係無い! ちゃんと調べればわかるはずなの!」


 わたしは声を荒げた。


「京香……あんた、なんでここまでするのよ!? あんたには、そんなに魔法少女の使命感でもあるっていうの!?」

「えっ? ……ああ、そうか。お前はまだわかってなかったのね」

「……え……?」

「いやいや、なんでも。そうそう、ウチは魔法少女だからねぇ。魔王なんて存在、許しておけないわけよ」


 うんうんと頷く京香。

 しかし、全く本心とは思えない。

 まるで人を小馬鹿にしたようなその態度。

 わたしがわかっていないって……何を?


「……? な、なんなの……あんた、何を企んでるのよ? あんたの考えてること、まるで理解できないんだけど!!」

「はあ……ウチからすると、お前の方が理解できないけど」

「……何ですって……?」

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