鏡の魔法少女
(何なの……何が起きてるのよ!?)
京香も、芽衣も、華奏も。みんな様子がおかしい。
混乱して動けないでいるわたしを見て満足したのか、京香はふいと視線を外すと正面を向いた。
わたしも釣られて、京香の視線の先を追う。
(……あれは……何? 大きな、鏡……?)
薄暗い部屋の中で、何かがぼんやり光っている。
京香の視線の先には、まるで映画のスクリーンのような巨大な鏡があった。
(なんであんなところに鏡が……いや、違う……あれは……!)
その鏡は、明らかに普通の鏡ではなかった。
なぜなら、その鏡には本来映るはずのものが映っていなかったのだ。
普通なら、当然正面に座っている京香の姿が映るはず。
しかし、今その鏡に映っているのはそうではない。
そこに映し出されていたのは、『鏡の世界』の現状。
すなわち――芽衣と華奏が、戦っている姿だった。
「芽衣……! 華奏!」
やっぱりおかしい。
京香が、何かをしているんだ。
そう思い、京香に詰め寄ろうと走り始めたその瞬間。
「う!?」
足が、思うように動かない。
突然、自分の身体が鉛のように重くなったのだ。
いや……それだけじゃない。
ずり、ずりと。
自分の足が、勝手に後ろに下がろうとする。
(身体の自由が……利かない!?)
「邪魔しないで、って言ったはずだけど」
京香が頬杖をついたまま横目でこちらを見ながら、吐き捨てるように言った。
(京香の魔法!? 何なのこの力……!?)
「……っああああああ!!」
自分の身体が勝手に動く恐怖心を振り払おうと、大声で叫ぶ。
同時にわたしの身体は炎に包まれ、火柱が立った。
――ぱりん
「……っつ!」
京香の顔が歪む。
わたしには、その理由がわからなかった。
今はただ、我武者羅に炎魔法を纏っただけだ。
京香には何も手を出していない。
それにも関わらず、京香の顔には苦痛の色が現れていた。
「痛ったー……やっぱ全然無理かぁ。さすが、妹とは違うね」
「はあ、はあ……あんた、一体何を……?」
全然無理……京香の言っている言葉の意味がわからない。
でも、燃え盛る炎の中で、わたしは確かに聞いた。
何かが、パリンと割れるような音を。
「言ったでしょ。ウチの属性は、『鏡』だって」
「……? 鏡だから……なんだって言うのよ!?」
「だからぁ……鏡なんだって。わからない?」
「は、はあ……?」
京香は掌をかざして、目の前にある巨大な鏡を見ながら言った。
「鏡魔法の真骨頂は、『映す』ことにあるのよ。実像と、鏡像……同じ動きしてないと、おかしいでしょ?」
「あんた……何を言って……」
言いかけた直後、首筋を一筋の汗が伝った。
京香の言おうとしていることが、何となく理解できたのだ。
もし、そうだとしたら。
今鏡の世界で起きていることも、さっき自分の身に起きたことも納得できる。
「ウチにとっての実像は……ここ。これで、わかったでしょ」
そう言うと、京香は自らの頭を指さした。
「まさか……まさかあんた……」
わたしは唾を飲み込んで、声を絞り出した。
「あんた、華奏を……操ってるの?」