二階の攻防②
(もうちょっと……!)
青白い光を炎で追いかけながら、徐々に瑠奈を追い詰めていく。
瑠奈だって、いつまでもあの速度で躱し続けることはできないはず。
雷の魔力を使っているからこそのあのスピード。
いつかは燃料切れになるはずだ。
しかし時間が惜しい。
そう思い、必死に瑠奈が纏う青白い閃光を追い続けた。
そのことに必死になっていたからだろう。
上空に注意が向かなかった。
(……暗い?)
元々薄暗い部屋だったが、さっきよりも暗くなっている。
瑠奈の姿も見えにくい。
(……まさか)
バッと上を見上げる。
(な、なにあれ……雨雲?)
ここは室内だ。
それなのに、高い天井にもくもくと黒い雲が拡がっている。
(いや、あれは……!)
天井を覆っていた雷雲が、カッと光を放った。
「『雷・霆・万・鈞』!」
「んな……!」
落雷――
激しい轟音と共に、雷が落ちてきた。
(何よこれ……十分災害級だっつーの!)
室内なのに雷が落ちるって……どういう魔法よ!
これでBランク!?
よくもSランクを災害呼ばわりできるものだ。
瑠奈の雷魔法も大概である。
「『どんど焼き』ぃ!」
炎の壁を、真上に展開する。
地響きを立てながら魔法がぶつかり合う衝撃に、思わず目を瞑りそうになる。
さっきまでの電撃よりも、遥かに強い。
こっちも手加減できない。
炎の壁で上空から降り注ぐ雷を防ぐが、腕が痺れる。
(ぐ……できるだけ魔力は温存したいのに……!)
数十秒に渡って、次々と雷が落ち続ける。
それでも、わたしの炎の壁を雷が突き抜けることは無かった。
「これでもダメ……ですか」
遠くで、瑠奈が息を荒くしているのが見えた。
「今のが、わたしの最大魔法だったんですけどね」
肩で息をしている瑠奈が、疲弊しているのは明らかだった。
魔法を使うには体力を要する。
あれだけの魔法だ、当然瑠奈の身体には相当の負荷がかかっているはず。
しかし、瑠奈の目は死んでいない。
まだまだ時間稼ぎするつもりらしい。
「はぁ、はぁ……十分でしょ。雷鳴轟かせて、この世の終わりみたいな光景作ってたわよあんた」
「でも、あなたは倒せなかった」
「……そうね。なら、負けを認めてわたしをここから出してくれる?」
「まさか……そんなこと……」
――ズ ン
「!!??」
「上……!?」
わたしも瑠奈も、一瞬上を向いた。
間違いない。
今の地響きは、上から聞こえた。
つまり、三階で何かが起きたのだ。
(上の階でも戦いが……? まさか、芽衣も鏡の世界に呑み込まれたってこと!?)
嫌な予感がする。
芽衣の相手ができるとしたら……今、上にいるのは……京香?
「ちょっ……何よ、今の音は!」
問い詰めるが、瑠奈の表情も驚いているように見えた。
(……!? 今の音は、瑠奈にとっても予想外ってこと……?)
「……っ、どけぇ!」
わたしは、炎を纏いながら階段に向かって走り始めた。
「……! 『電光石化』!」
青白い閃光が走る。
「また消えたっ……だったら、無視して先に進むまでよ!」
「『電光雷轟』!」
「うぅ!?」
バチンと衝撃が走り、身体が麻痺して硬直する。
「い、行かせません……あなたは……!」
「瑠奈ぁ……!」
(だめだ、無視できる相手じゃない! 何か方法は……!)
雷の魔法少女。
最速の魔法少女。
最初にホテルで出会ったときは、こんなに厄介な相手とは思わなかったのに……!
「……あっ」
最初に出会ったとき……あのとき、わたしは……
(そうだ……これなら!)