二階の攻防①
「……華蓮さん……確かにあなたの魔力はわたしよりも強い。それは認めます」
「だったら、おとなしく……」
「ですが……勝てないなんて言った覚えはありませんよ」
「……は?」
「『電光……石化』!」
バチッと電撃が走る音と、一瞬の光。
その眩しさに思わず瞬きする間に、目の前から瑠奈はいなくなっていた。
「! 消えた!?」
いや、違う。
高速で移動しただけだ。
でも……速い!
目で追いきれないほどの速度。
わたしは咄嗟に、自分の身体を炎で覆っていた。
「『電光雷轟』!」
「あう!?」
炎を纏った身体に、衝撃が走った。
ダメージは殆どないが、一瞬身体が硬直し、痺れを感じる。
「……今のでも、膝すらつきませんか。さすがにへこみますね」
気付くと、瑠奈は階段から遠く離れた場所に立っていた。
「いったー……へこんでるようには、見えないけど」
痺れた左腕を回しながら息を吐く。
「……大方、速さに自信ありってことかしら」
「これでも、Bランク最速の魔法少女ですから。速さなら、あなたにも負けません」
薄暗い空間に、青白い稲妻がバチバチと沸き上がる。
これが、雷の魔法少女――なるほど、これは厄介だ。
確かに、わたしよりも速いだろう。
あのスピードで動き回られては追いつけない。
しかし、だ。
「でもそれだけじゃ、いつまで経ってもわたしは倒せないわよ」
さっきの不意打ちでさえ、大した痛手にはなっていない。
ちゃんと警戒していれば、瑠奈の雷にやられてしまうことはないはずだ。
「いいんですよ、倒せなくても」
「……え?」
「時間稼ぎ……それが、わたしの勝利条件ですから」
「時間稼ぎ……?」
ここでわたしを足止めすることで、何が変わるのだろう。
わたしと芽衣を引き離して、時間を稼いで……京香は、何をしようとしてる?
わからない。けれど。
「じゃ……やることは決まったわね」
それならば、話は単純だ。
やるべきことは、ひとつ。
一刻も早く、芽衣と合流する。
そのために、わたしがするべきことは。
「どきなさい、瑠奈」
「……いや、です」
「あっそ。じゃ、力ずくしかなさそうね」
右手に纏う炎の火力を一気に上げる。
「『其の二』……!」
速攻で、決着をつける!
「『送り火・大文字』!」
「『電光石化』!」
またしても、閃光と共に瑠奈の姿が消える。
残された青白い光を炎が呑み込むと同時に、思わず舌打ちをする。
右手から放たれた炎の魔法には、何の手応えもなかった。
(くっ……何よあの初動は! 溜めも何もない、それなのに一瞬であれだけの速度に到達している! 助走とか必要ないわけ!? これが雷の力!?)
「『電光雷轟』!」
「『大文字』!」
雷と炎がぶつかり合う。
炎が雷を飲み込むが、それでも瑠奈には届かない。
魔力は間違いなく勝っている。
だが、瑠奈の自慢のスピードですべて躱されてしまう。
(どうすれば、あの速度に対応できる……?)
わたしの周りで、バチ、バチと魔法がぶつかり合う音がする。
しっかりガードしていれば痛くも痒くもないが、これでは埒が明かない。
(くっそー、この広すぎる空間が悪い……! これだけ距離を取りながら遠距離で攻撃できるのは、瑠奈にとって好都合! せめて、距離を詰めることができれば……!)
わずかに見える瑠奈の姿を目で追いながら、周りで弾ける雷を炎で防ぐ。
徐々に、目は慣れてきた。
瑠奈の姿を追っているうちに、おおよその位置は掴めるようになっている。
――そう、瑠奈の姿を追うことに必死になっていたから、気が付かなかった。
この薄暗い部屋の天井に、雷雲ができつつあるなんて。