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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~樋本華蓮編~
85/200

一階の攻防

「うわー……なにこれ」


 洋館に入ると、そこには豪勢な白い空間が拡がっていた。

 床も壁も、白。

 こうも白一色だと逆に落ち着かない。

 わたしの部屋も白を基調にした部屋だが、雰囲気は全くの別物だ。

 高い吹き抜けにシャンデリア。高級そうなブラックフレームの大きな鏡。

 洋館の外見を見たとき、舞踏会でも開かれそうと思ったが……まさにそのとおり。

 一階は、ダンスホールのような場所になっていた。

 普段のわたしだったらワクワクしたかもしれないが、今はそう思えない。

 正直言って……不気味。

 窓には全てカーテンがかかっており、ホールを照らすのはシャンデリアの明かりのみ。

 薄暗いせいで、部屋全体を見渡すことはできない。

 それに、やけに静かだ。

 誰もいない学校を不気味に感じるのに似ている。

 華やかな空間のはずなのに、誰もいない薄暗い空間がいっそう不気味に感じるのだ。


「こう言っちゃなんだけど……趣味が良いとは言えないわね」


 きょろきょろと周りを見渡しながら、慎重に歩みを進める。


「ですね……あ、でも見てください。あそこにあるの階段じゃないですか?」

「ほんとだ。あそこから上に行けそうね」


 徐々に目が慣れてきて、ぼんやりと派手な装飾が施された階段の影が見えてくる。

 しかし見えてきたのは、それだけではなかった。


「……あ」


 薄暗い階段の上から、ひとり、ふたり。

 ぞろぞろと人が現れる。

 十人……十五人……いや、それ以上だろうか。


「なんだ……やっぱりそういうこと」


 二階から次々と現れたその人たちを見たわたしは、納得した。

 揃いも揃って、全員少女。

 間違いないだろう。

 こいつら全員……魔法少女である。


「源芽衣に……樋本華蓮ね」


 先頭に立つひとりが、話しかけてきた。


「……なんなの、あんたたちは?」

「わたしたちは、京香さんに仕える魔法少女……今はまだ、あなたたちを進ませるわけにはいきません」

「京香『さん』に『仕える』……ねぇ」


 今の一言だけで、ミラージュがどういう組織なのか想像がつく。

 瑠奈から話を聞いたときから予想はしていたが、ミラージュは京香のワンマンチームだ。

 だとしたら、そこまで恐れる必要はない。

 わたしはその場から動かず立ち止まったまま、周りを見渡した。

 ……うん、ざっと二十人以上はいるだろう。

 それだけの魔法少女が、わたしたちふたりを取り囲んでいた。

 絵面だけ見ると、弱い者いじめをしているようにしか見えない。


「ふーん……やっぱりここは、ミラージュの根城ってわけ。だったら、目的地は間違ってなかったみたいね」

「……数が多いですね。華蓮さん、ここは手分けして……」

「待った。芽衣、あんたの魔力は温存した方がいい」


 前に出ようとする芽衣を制止して、後ろへと追いやる。


「……華蓮さん?」

「こういう場面は、得意だから」


 そう言って両手を拡げると、わたしは指先に火を灯した。


「始めましょうか……火祭りを」


 両手の指先に炎を纏ったわたしを見て慌てたのか、魔法少女のひとりが声を上げた。


「まずはその炎の魔法少女を……魔王から引き離すのよ!」


 誰かがそう言った瞬間。

 周りの魔法少女たちが、各々自分の魔法を使おうとしているのがわかった。

 しかし、その発動を悠長に待ってあげるほど、わたしは優しくない。


其の壱オープニングセレモニー……!」


 ぐっと身体を捻り、わたしは叫んだ。


「『花火』!」


 ぱぁん! と、弾けたような破裂音。

 魔法少女になってすぐ、初めて魔獣に遭遇したときのことを思い出す。

 あのときも、多数の魔獣に囲まれた。

 でもわたしは、その魔獣を一度に殲滅して見せた。

 その様子を見たモアは驚いて、褒めてくれたっけ。

 そう、魔獣が魔法少女に変わったところで関係ない。

 わたしの花火は、周りのすべてを巻き込む。


「……凄い……」


 闇魔法で身をガードしていた芽衣が、ぼそりと呟く。

 周りにあれだけいた魔法少女は、全員が床に倒れていた。


「う、うぅ……」

「……なに、今の……こんなに強いの……!?」

「これが……Aランクの魔法……?」


 倒れている魔法少女たちが、今の一撃だけで戦意喪失しているのがわかる。

 誰も、立ち上がって歯向かおうとする者はいなかった。

 そんな様子を見た芽衣が、感心したように言った。


「これだけの広範囲魔法……さすがですね、華蓮さん」

「そう? 芽衣もこれぐらいできるでしょ?」

「いや……どうでしょう」

「?」

「なんというか……技術が凄いんですよね、華蓮さんの場合」

「どういうこと?」

「わたしじゃそこまで魔力を制御しきれないと思います。力加減とか、コントロールとか……」

「いやいや、わたしだって焦ったときはうまくできないわよ。麻子の前で思いっきり魔法使っちゃったこともあるし」

「……そうですか」


(いや……華蓮さんの技術は本当に凄い。今のも、ただ炎を撒き散らしたわけじゃない。二十人以上いる魔法少女全員に、的確に技を命中させていた……これは、華蓮さんのセンスがあってこその芸当……!)


「……どしたの、芽衣? 先行くわよ!」

「あ、いえ……華蓮さん凄いなあと思って」

「……そんなに褒めると何かあるのかと思っちゃうわよ」


 ふん、と息を吐く。


「それにしても……話にならないわね。この程度の相手しかいないのなら、わたしだけで十分なんだけど」


 二階へと続く階段を上りながら、独り言のように言う。


「あの、鏡のやつさえいなければ……」

「鏡のやつ……ミラージュのリーダーのことですよね?」

「そ。Aランクって言ってた」

「魔法を反射してしまうんでしたね。華蓮さんの炎でも跳ね返すって……そんなに魔力が強いんですか?」

「みたいね。わたしも全力で撃ったわけじゃないけど、簡単に反射して見せたし……少なくとも、わたしと同等の魔力を持ってるんじゃない」

「……わたしの風も跳ね返しますかね?」

「それは……どうかしら。芽衣の黒い風は、魔法を無効化しちゃうでしょ?」


 麻子と芽衣が操る闇は、魔法を無力化する。

 だったら、鏡の反射能力も無効化してしまいそうなものだが……どうなるかは、正直わからない。


「ま……どちらにせよ、下っ端はわたしに任せて。芽衣は……」


 もうすぐ二階に到達するというところで、くるりと後ろを振り向いたときだった。

 わたしは思わず、言葉に詰まった。


「華蓮さん? どうしたんですか?」

「……なに、これ?」


 わたしと芽衣の間で、キラキラしたものが見えた。

 何も無いのに、何かが反射して光っているような……

 これは……まさか。


「……芽衣!」


 叫びながら芽衣に向かって手を伸ばしたが、遅かった。

 目の前の空間が、歪む。


「なっ……」


 芽衣の姿が消える。

 それと同時に、目の前の空間に自分の姿が映り出された。


(鏡……!?)


 何が起きたのか理解する前に、わたしは何かに呑み込まれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鏡に飲み込まれるというのは確かに王道でしたね・・。全く考えてませんでしたが()。麻子もこんな感じで誘拐されたのでしょうか・・。ただチャットに居たのも含めると、何だかんだ満喫してたり?() …
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