謎の魔法少女②
「わしも汝らと同じ……魔法少女じゃからな」
「……!?」
ま、魔法少女……?
フードを被ったこの小さい子も、魔法少女だって?
ということは、この子はやっぱり人間?
アストラルホールの住民ではないのだろうか?
いや、でもそれにしては……
「ま……わしは汝らとは、一線を画しているとも言えるがな」
混乱しているわたしを余所に、その子は淡々と言った。
「わしには、魔力が無いからの」
「えっ」
さも当然のように言うものだから、うまく反応できなかった。
魔力が――無い?
魔力が無いのに魔法少女って、どういうこと?
突然現れた不可思議な魔法少女に、思考が追い付かない。
しかし疑問に思いながらも、わたしには思い当たることがあった。
『いえ、実際にはもうひとつ……Bランク未満とされたCランクの魔法少女がひとりだけいるのですが……まあ、それはいいです。魔力がほとんどない人なので、戦いに出ることもないでしょうから』
そうだ……思い出した。
瑠奈から、魔法少女のランクについて聞いたときだ。
Cランクの魔法少女が、ひとりだけいると言っていた……それが、この子?
というかこの子……何歳?
フードのせいで顔がわからないが、体つきを見ると小学校高学年ぐらい幼く見える。
しかし話し方は達者すぎるし、態度にはやけに貫禄がある。
自分よりも年長者に見えるくらいだ。
わたしの訝しげな視線を感じたのだろうか、魔法少女を名乗ったフードの少女は、さらにフードを深くかぶると言った。
「……なんじゃ? わしの顔になにか付いてるか?」
「いや、顔見えないけど……それより……あなたは、ミラージュの一員じゃないってことでいいんだよね?」
「……ミラージュ? なんじゃそれは?」
「……いや、なんでもない」
「あ、あの!」
芽衣が横から声をあげた。
「その、大量の魔法少女たちがどこに行ったのか……知りませんか?」
「あ、それ訊きたい」
こんなところでのんびりおしゃべりしている場合ではなかった。
わたしには、先にやるべきことがある。
「ん? ああ、知っておるよ」
「ほんとですか!?」
「うむ。あんな大勢で動いていれば、嫌でも目に付くというものじゃ」
フードの少女は、左を真っすぐ指さして言った。
「ここを南にまっすぐ行くと、巨大な洋館がある。白くて立派な洋館がな。あやつらはそこに集まっているようじゃの」
わたしと芽衣は、思わず顔を見合わせた。
まさか、こんな形で敵の足取りが掴めるとは。
こっちの世界ではしらみつぶしに探すことになると思っていたから、ついている。
「じゃ、華奏と麻子もその洋館に……!?」
「早く確かめに行きましょう!」
「む、なんじゃ。もう行くのか?」
「そうね、わたしたち行かないと……教えてくれてありがとう!」
「なあに、礼には及ばんよ」
フードの少女はひらひらと手を振ると、くるりと方向を変えた。
「それじゃあな。……幸運を、祈っとる」
そう言うと、フードの少女は街並みに消えて行った。
「……行っちゃった」
「……今の人は何者なんですかね?」
芽衣が首を傾げた。
「ミラージュの一員でもないのに……魔法少女がひとりこんなところにいるのは、何か理由があるんでしょうか? 怪しい……」
「さあ……でも、魔力が無いってのは本当だと思うよ。だって、あんなに近くにいたのに何も感じなかったもの」
「確かに……なんというか、魔法少女らしくなかったですよね? 本当に、魔法少女なんでしょうか?」
「どうだろ……でも、あの子は魔力というか……」
「……というか?」
「あ、いや……なんでもない」
あまりにおかしなことを言いそうになり、口をつぐんだ。
フードの少女からは、魔力を感じられなかった。
それは本当なのだが、正確じゃない。
わたしはあの子から、気配を全く感じられなかった。
最初に急にぶつかったのも、そのせいだ。
人があんなに近くにいるなんて、全く気が付かなかった。
あのフードの少女からは、本当に「何も」感じなかったのである。
存在そのものを、感じない。
まるで、「無」を体現したかのような。
そんな、不思議な雰囲気を纏っていた。
「……行こっか」
気にはなるが、今は敵意を感じない者を相手にしている暇はない。
わたしと芽衣は、南の方向に歩みを進めた。
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「なるほどあいつか……魔王の力をその身に宿したという、破天荒な魔法少女は。ふむ、確かにとんでもない魔力を秘めている」
風が吹き、フードが揺れた。
「この勝負……結果によっては世界が終わる。どうなるのか……楽しみじゃな」




