謎の魔法少女①
「う~~……! また来ちゃったわね、こっちの世界に」
大きく背伸びをして、辺りを見渡す。
気持ちのいい空気と、穏やかな気候。
洋風な街並みに、不思議な種別の生き物。
相変わらず、ファンタジー感満載の世界だ。
RPGの世界に飛び込んできたような感覚である。
「久しぶりに来たけど……ここは変わっていないみたいで安心したわ」
魔王の件があるからもしやと思ったが、どうやら要らぬ心配だったようだ。
街並みは平和そのもの。
わたしたちを見て、襲ってくるような者もいない。
モアが言ってたように、一般的には魔王の脅威はなくなったと知られているのだろう。
……そういえば、モアは今どこにいるのだろう?
モストは、モアが芽衣を駆除すべき存在と判断したと言っていた。
その言葉を信じるなら、モアもミラージュ側ということになる。
しかし、今ではその言葉が真実かどうかも疑わしい。
肝心のモアが、いなくなってから一度もわたしたちの前に姿を見せていないのだ。
モアもここにいるとしたら、直接話して真意を確かめたいが……今は、華奏と麻子を探すのが優先である。
「そうですね……華蓮さんに燃やされかけたのを思い出します」
「どういう記憶よ!? むしろわたしのほうが……って、今はそんな昔話してる場合じゃないわ。どっちに行けばいいのかしら」
「うーん……せめて、麻子さんの魔力を感じ取れるといいのですが」
「こっちの世界のことはよく知らないもんね……とにかく、歩き回りながら魔力を感じる方角を探って……」
そう言いながら、歩く方向を変えたときだった。
「わ!」
全く意識していないところに軽い衝撃を受けて、思わず悲鳴が漏れる。
しかし、なんてことはない。
誰かにぶつかっただけだった。
これは、急に方向転換したわたしが悪い。
右斜め前に視線を落とすと、そこには小柄な人間が尻もちをついていた。
……いや、人間と言っていいのだろうか。
ここはアストラルホール。
わたしたちと同じような外見をしていても、同じ人間とは限らない。
おまけにフードを深くかぶっていて、顔は全く見えない。
だけど、この子……なんだか違和感が……
「いてて……」
「あっ……ご、ごめんね。大丈夫?」
お尻を擦っているその子を起き上がらせようと、手を伸ばしたときだった。
「いやいや、こちらこそすまんかった。汝こそ、怪我はないか?」
「……へ?」
見た目に反した口調に呆気にとられ、思わず返事に詰まる。
うぬ、って言ったこの子?
そんな呼ばれ方をされたのは初めてだ。
高くて可愛らしい声をしているのに、まるで仙人のような話し方である。
「……む? どうかしたか?」
「あ、いや……だ、大丈夫、です」
思わず丁寧語になってしまう。
「それならよかった……むむ?」
「え……なにか?」
「汝……この世界の者ではないな?」
「!」
びくっとする。
やっぱり、わたしたちは目をつけられていた?
モアが、アストラルホールの住民は人間世界のこともよくわかっていると言ってたけど……モストの例がある。
モストはわたしたちのことを完全に敵視している。
もしかしたら、この子もわたしたちの敵かもしれない。
「えっと、わたしたちは、その……」
正直に答えてよいものかわからずあたふたしていると、先にフードの子が口を開いた。
「最近は多いのう。この前も、大量の魔法少女がこちらに来たところじゃし……汝らも、同じなのじゃろう?」
「え!?」
魔法少女というワードに、思わず過剰に反応してしまう。
大量の魔法少女って……それはもう、ひとつしか考えられない。
「華蓮さん、それって……」
後ろで隠れるように様子を窺っていた芽衣も口を開く。
「ええ……そういうことみたいね。やっぱりここにあるんだわ。ミラージュの本拠地が」
ミラージュには、Bランクの魔法少女が三十人ほどいると言っていた。
その魔法少女がこちらの世界で集結しているとすれば、話は早い。
ミラージュを、まとめて潰すことができる。
「……なんじゃ? 汝らは、あやつらとは違うのか?」
「あ、いや違うと言うか……あなたは、一体……?」
「警戒することはないぞ。わしも汝らと同じ、魔法少女じゃからな」
「……!?」