ミラージュサイドの一幕
「……京香さん! 京香さん!」
慌てたような声で京香の名前を呼ぶ少女。
まん丸のボブカットで、前髪をぱっつんに切りそろえた勤勉そうな雰囲気。
雷の魔法少女――安曇瑠奈である。
「ん~……? どしたの、るなち?」
それとは対照的に、眠そうな甘い声。
派手な見た目に、明るい茶髪。
鏡の魔法少女であり、ミラージュの盟主――紅京香だ。
「魔王と樋本華蓮が……! アストラルホールに来ました!」
「……!」
京香の目が、僅かに見開いた。
「……あらら。思ったより全然早かったねえ。モストのやつ、しくったんじゃないの?」
まだ扱い慣れてないのに、と京香は不満を漏らした。
「ど、どうします? あのふたりを相手にするのは、我々では……」
明らかな狼狽の色を示す瑠奈。
そんな姿を見て、京香はにこりと笑った。
「大丈夫大丈夫。作戦に変更なし。予定どおり、るなちは炎の相手を頼んだよ」
「は、はい……でも、ほんとに京香さんは平気なんですか? 相手はあの、魔王なんですよ?」
今にも泣きそうな瑠奈の頭を手でポンポンしながら、京香は言った。
「だーいじょうぶだって。『2VS2』なら……絶対に勝てるから」
「……! は、はい! ありがとうございます!」
京香の言葉に心打たれたのか、瑠奈の顔は輝いた。
「それじゃ、早速みんなにも声をかけますね!」
そう言うと、瑠奈は勢いよく駆け出して行った。
そんな瑠奈の後ろ姿を見送るように、モストは突然姿を現した。
「全く……京香殿も意地が悪い。本当に、そう思っているのですか?」
「……モストぉ。人聞きが悪いなあ、嘘は言ってないよ?」
京香は不敵な笑みを浮かべて、言った。
「ウチの想定してる『2VS2』なら……だけどね」