黒瀬麻子は動きたくない
翌日。朝。
わたしは重たい身体をゆっくりと起こした。
どうも悪夢にうなされていたような気がする。
いきなり変な生き物が現れて、半ば強制的に魔法少女にされ、更には魔王討伐を命じられるという悪い夢……
「……イヤな夢だった」
「夢じゃないぽん」
「ぎゃあ!」
いきなり上から降ってくるな!
心臓に悪いでしょうが!
起きたばかりで働いていない頭に突然刺激を与えられて、そのままベッドに倒れこんでしまった。
「せっかく魔法少女になったのに……使命を忘れないで欲しいぽん」
モアがやれやれと首を振る。
ああ……あれはやっぱり夢じゃなかったんだ……
昨日のことを思い出して、頭が痛くなる。
「っっ……なんでこんな朝早くからわたしの部屋にいるの……」
「なんでって、昨日言ったぽん?」
「え?」
「だから、今日は芽衣に会いに行くんだぽん」
「えーっと……何の話?」
「もうひとりの魔法少女に会いに行くって! 昨日の話もう忘れたぽんか?」
「いや……わたし、いやって言ったけど」
「いいから行くって言ったぽん」
無慈悲……だからわたし、知らない人と会うのいやなんだけど。
高校時代のわたしならまだしも、半年以上引きこもっている人間にはハードルが高い。
芽衣とかいうもうひとりの魔法少女に会いに行く気には、全くならなかった。
「えっと……そもそも今日行かないといけないの? そんないきなり会いに行くって迷惑じゃない?」
「今日の午前中なら空いているって話なんだぽん。芽衣はキミと違って暇じゃないんだぽん。いつも忙しそうにしてるぽん」
「いやわたしも暇じゃないから」
受験生だって言っているでしょうが。
勉強する気はないが、受験生に向かって暇人扱いは失礼というものである。
「あ、それにほら。モア知ってる? 今日ってクリスマスなんだよ? そんな日の朝にお邪魔するって、非常識だと思わない?」
「クリスマス当日の朝にひとりで惰眠を貪っているのに何言ってるぽん」
「よしわかった……モア、やっぱりあんたはわたしの敵みたいだ」
モアをギロリと睨んで起き上がる。
今すぐあんたを倒してわたしは自由になる!
戦争だおらぁ!
「なんでそんなに怒るぽん。芽衣は仕事が忙しくてなかなか会えないんだぽん」
「し、仕事……?」
相手は社会人ってこと?
ということは、年上なの?
それは尚更会いたくない。緊張してしまう。
魔法少女っていうから、てっきり同年代か年下だと思っていたのに……
数秒沈黙したあと、わたしは乱れたシーツを整えてから言った。
「……ふー……わたしやっぱり家にいるね。ほら、外寒いし、勉強もしないといけないし」
ゆっくりと毛布を被り、ベッドに潜りなおす。
「よっしゃ行くぽん! もう約束はバッチリとりつけてあるぽん、これ以上待たせると芽衣に迷惑かけるぽん!」
「ええ……」
ベッドの上でモアが飛び回る。
やっぱりこいつ、強引だよ……