表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~おわりの魔法少女編~
197/201

夢物語

「思いどおりにはならないって……どういう意味よ?」


 ここまでの話を聞いて、わたしはちゃんと考えた。

 女神から、魔王をアストラルホールに解き放つ。

 その魔王を、わたしが倒す。

 そうすれば、願いを叶えられる。

 麻子を、生き返らせることができる。

 これからも、ずっとこのままでいられる……


(そう……よね。わたし、何か間違ってる?)


 いや、間違ってなんか……


「さては……テキトーなこと言って、わたしの邪魔をするつもりじゃないでしょうね?」

「阿呆。そうじゃない。これはの……夢魔法の欠陥みたいなものなんじゃ」

「夢魔法の……欠陥?」

「魔力で実態を保っている夢麻子……こやつを蘇らせることで、確かに黒瀬麻子は消滅を免れることができるじゃろう。じゃがな」


 女神は、落ち着いた口調で続けた。


「夢でみたことは、記憶に定着しないんじゃよ」

「……え?」

「あの闇女は、夢魔法が作り上げた虚像。それは、理解しておるな?」

「わ、わかってる……けど」


 虚像。

 その言い方に、ぎゅっと胸が締め付けられた気がした。

 まるで、わたしと麻子の経験が幻だったかのような……

 ……幻?


「あの闇女が経験したことはな……黒瀬麻子にとっての夢物語なのじゃよ」


 心臓の鼓動が、早くなるのを感じた。

 手が震えて、指先が冷たくなる。

 夢物語。

 ……わかってしまった。

 女神が言おうとしていることが。

 いや、でも……本当に?

 そんなことが、あっていいわけが……


「黒瀬麻子にとって、あの冬の交通事故以後の記憶は全て虚像がみた夢物語。つまり」


 やめて。

 その先を言わないで。

 その先を聞いたら、わたしの決意が揺らぐから――


「夢から覚めたとき……黒瀬麻子は、事故以降の記憶をすべて失うことになるんじゃ」

「……っ!!」


 思わず、夢麻子に視線を向ける。

 夢麻子は、目を伏せたままだった。


「……待ってよ。それっておかしいわよね?」


 自然と、まくし立てるように言葉が出てしまう。


「だって、今ここにいる麻子……夢麻子だって、わたしたちのことを観測してるじゃない? それなのに、記憶をすべて失うだなんて……そんなのおかしくない?」

「関係ないんじゃよ。『夢遊病』発動中に経験したことは、本人の記憶に残らない。それは、夢魔法の特性なんじゃ」

「おかしいでしょ! いくら夢で見たことは記憶に定着しないからって……そんなのおかしい! 夢の内容だって、覚えてることもある! 忘れずにすむことだって……!」


 女神は、静かに首を横に振った。

 夢麻子も、何も言わない。

 ふたりの態度を見たわたしは、何も言えなくなってしまった。


(夢魔法の……特性……?)


 夢で見たことは、記憶に残らない。

 夢で見たことは、所詮夢。

 わたしと麻子が経験したことは……それだけじゃない、芽衣や白雪さんとの出来事は……麻子にとって、全部夢で見たことに等しい。

 わたしにとっては現実(リアル)でも。

 麻子にとっては空想(フィクション)

 夢物語に過ぎない。

 わたしが麻子を生き返らせたところで、麻子の記憶にわたしはいない。

 それどころか、2年以上の記憶がすっぽり抜けた状態で、生き返ることになってしまう。

 そんなことになったら、麻子は……


「汝はそれでも、危険を冒してまで魔王と戦うと言うのか?」

「……ぇ……そ、それ、は」


 言葉に詰まる。

 このまま何もしなければ、麻子が消えちゃう。

 もう、タイムリミットは近いはずだ。

 夢魔法の魔力が尽きれば、全てが終わってしまうのだから。

 だから、選択肢なんてない……

 そうなんだけど、でも……

 わたしは……


「……っ!?」


 急に、目の前が歪んだ。

 足元がおぼつかない。

 ……やばい。

 なに、これ。

 急に、とんでもない眠気が襲ってきたみたいな……


「もう……時間みたいね」

「じ、時間……!?」

「目を覚まそうとしてるのよ。ここは夢の世界だから……目覚めたら、当然ここにはいられない」

「ま、待ちなさい……! まだ、話は……」

「ううん、もういいの」


 夢麻子に、ぎゅっと右手を握られた。

 夢の中なのに、握られた手は確かな温もりを感じる。


「華蓮、ありがとう。わたしのために、ここまでしてくれて」

「……麻子っ……あんた……変わらないわね……!」

 

 握られた手を、左手で握り返す。


「それで気を遣ってるつもり? わたしを無視して……ひとりで勝手に楽になろうとしてんじゃないわよ……!」


 睨んだつもりが、視界がぼやけて夢麻子の姿が見えない。

 ……だめだ。

 もう、意識が保たない。


「麻子!わたしはね……!!」


 ――――ばつん。

 そこで、わたしの意識は途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ