モアサイドの一幕 ~ヴィラの思考~
(はぁ、はぁ……あれだけ離れて、気配も消していたのに……どういう感覚してるんですか、あの炎の魔法少女は……!)
息を切らしたヴィラは、その場にへたれこんだ。
(やはり、慣れないことはするものじゃありませんね……いつぶりでしょうか、水魔法を使ったのは。女神様がいなくなってしまう前に、魔力を返してもらったのは正解でした……)
大きく息を吐いて、ゆっくりと立ち上がる。
(しかし、咄嗟に逃げてしまいましたが……あの様子、自覚があるようにはとても……)
「何をやっているんだぽん、ヴィラ」
「っ!? ……あなたですか、モア。何ですか、突然?」
「何ですかとはご挨拶だなぽん。キミは城で夢魔法のことを調べるんじゃなかったぽん? それなのに、なんでここにいるんだぽん」
「……ちょっと、気になることがあっただけですよ」
「全く……何かわかったら連絡を、と言ったところだろうぽん?」
「…………」
「何か気付いたことがあるのなら……言ってほしいぽん。『女神様に辿り着く』。その目的は同じだろうぽん」
「…………」
しばらく沈黙を貫いていたヴィラであったが、ゆっくり口を開いた。
「……ふーっ。モア、あなたは……これを見てどう思います?」
「ん? これは……夢魔法についてまとめた記述ぽんか。……うん、見れば見るほど無茶苦茶だぽん。未来を予知する『予知夢』……他者の夢に入り込む『夢見』……もうひとりの自分を作り出す『夢遊病』……どれもふざけた魔法ばかり。だけど、一番はこれだろうぽん。現実に起きたことをなかったことにしてしまう、『夢オチ』。他に類を見ない、とんでもない魔法だぽん」
「……それで?」
「魔力の強い者がこの属性だとしたら、脅威だろうぽんね。紅京香のように、常識では考えられないようなこともできてしまう。とはいえ、夢魔法は戦闘向けの属性とは言えないし……正体を突き止めることさえできれば、平和的解決が望めるかもしれないぽん」
「……それだけ、ですか?」
「え?」
「これを見て、他に思うことはないのですか?」
「思うこと……?」
モアの反応を見たヴィラは、呆れたように大きなため息をついた。
「……はあ、もういいです。モアには期待できないでしょうから」
「んな……何か思い当たることがあるのならハッキリ言えぽん!」
「いえ……これは妄想の域を出ない話なのです。そんなことはあり得ないと……わたし自身、本心では否定しているのですから」
「……? 何をわけのわからないことを言っているんだぽん」
(……だからこそ、誰かの意見を聞いてみたかったのですが……わたしも焼きが回ったのでしょうか。しかし、やはりあの矛盾だけは……見逃すことができない事実……)
「……ひとつだけ。モア、あなたは最初に『闇の魔法少女』を見たとき……どう思いました?」
「最初に……麻子を? それは……あり得ないと思ったぽんが……これはきっと、魔王に対抗し得る力だと期待して……」
「そう、『あり得ない』。闇の魔法少女など……あり得ないのです」
「……? 何が言いたいんだぽん?」
「その常識だけは……信じなければいけなかったのかもしれません」




