表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~おわりの魔法少女編~
180/201

樋本華蓮は狼狽える

 モストの話を聞いてから、数日が経った。

 あれから、あてもなく外出する日が増えている。

 モアがいないか。未知の魔力を感じないか。魔法少女の気配を感じないか。

 そんな期待を込めて出歩いているのだが、今のところ成果は無い。

 それどころか、街に異変すら感じられない。

 確かに、悪夢の話はネットでも話題になっている。

 しかし、所詮は夢の話。

 現実じゃない。

 一部では、怪奇現象だの災害の前触れだの騒がれているが……次第に話題性は無くなっていった。

 夢の世界に、闇の魔王が紛れ込んでいる――モストはそう言っていたのに。

 もはや、ただの杞憂ではないだろうか。

 それならそれで、いいんだけど……

 そんなことを考えながら、わたしは電車を降りると、小走りで改札口へと向かった。


(やば、急がないと)


 今日は、麻子と約束をした金曜日。

 羽衣も一緒に、3人で遊びに行くことになっている日だ。

 集合は、午後1時。

 だから、午前中は大学で講義を受けて、そのまま集合場所に向かうつもりだったのだが……今日に限って講義が長引いて、到着が集合時間ギリギリになってしまった。

 この時間じゃ、当然ふたりとも既に待ち合わせ場所で待っているだろう。

 そう思っていたのだが……


(……あれ? ふたりとも、まだ来てない?)


 荒くなった息を整えながら時計を見ると、既に時刻は1時を過ぎている。

 しかし、集合場所にふたりの姿は見えなかった。


「はぁ、はぁ……ふたり揃って遅刻ってこと? 全く、時間にルーズなんだから……」


 これなら、もっとゆっくり歩いてこればよかった。

 なんだか損した気分。

 溜息をつきながら、隅に移動して壁にもたれかかる。

 平日の昼間だというのに、この人の多さ……

 みんな仕事に行かなくていいのだろうかと、余計なことを考えているときだった。


「……樋本さん?」

「ふぇあ!?」


 すぐ隣にいた人に突然声をかけられて、思わず飛び上がる。


「やっぱり樋本さんだ。わたし、羽衣だよ」

「え、あ、白雪さん……!? お、お久しぶりです……いたんですね」

「いたよ……気付かなかった?」


 日差しを避けるための帽子を深くかぶっていて、顔がほとんど見えなかったから気が付かなかった。

 薄手の白いロングワンピースの胸元で、カジュアルネックレスが揺れている。

 初めて会ったときは、パジャマ姿で髪型もひどいものだったが……なんというか、今は大人の女性って感じ。

 あまりのギャップに、元々緊張していたのに更に緊張してきた。


「す、すみません気付かなくて……」

「い、いいよ……あ、その、この前はイベント手伝ってくれて、ありがとね」

「あ、はい……白雪さんも、お疲れさまでした」

「……樋本さん……体調でも悪い?」

「え? いやそんなことは……どうしてです?」

「あ、いやその……前はもっと怖い印象だったから……」

「怖いって……あのときは舐められまいと思って……」

「え……?」

「いや、なんでもないです。そんなことないですって」

「そ、そうだよね。よかった」

「そうですよ」

「うん……」

「……はい」

「…………」

「…………」


 沈黙。

 お互いに目を合わせないようにしながら、ずっと横に並んで立っている。

 ……会話が……続かない。

 わたしも人と話すのは苦手だけど……この人も同じ。

 気が付けば、俯いたままじっと自分の足元を見つめていた。


(……麻子―! はやく来てー!)


 心の中で叫びながら、3分以上無言のまま立ち尽くす。

 そろそろ何か言わなくちゃと考えていると、スマホが震えた。


(! ま、麻子! 着いたのね!)


『ごめん、遅れる! ふたりで時間潰してて!』


(馬鹿麻子―!! 何やってんのよ!?)


 ふたりで時間潰せって、どうしろって言うのよ。

 この人とふたりきりになるの、初めてなんだけど!?

 その辺のこと、麻子はわかってないわけ!?

 スマホの画面を睨んだまま狼狽えていると、羽衣が先に口を開いた。


「ひ、樋本さん……そこのお店に入らない?」

「え、あ……店?」


 羽衣が指さした先には、小さなカフェがあった。


「もう、暑くて……限界」

「……暑い……ですか?」


 まだ、長袖で丁度いいぐらいなんだけど……

 この人が度を過ぎた暑がりであることは、どうやら変わっていないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ