華蓮はデートの約束をする?
「なんか、この手の話久しぶりって感じね……」
そう言うと、麻子は眉を潜めながらコーヒーを口にした。
わたしは麻子と合流して、食事をしながらモストが来たことを話した。
どうやら、麻子のところにモストは来ていないらしい。
強力な地魔法だろうが無効化してしまう、麻子の闇魔法を警戒したのだろうか。
「でも、わたしもその夢属性の魔法少女っていうのに心当たりないけど。そんなのホントにいるの?」
「そうみたい……いや、相手が相手だけに、半信半疑ではあるんだけど……」
「ま、そうよね」
「それよか麻子……魔力が弱まってるっていうのは本当なの?」
「う」
麻子が視線を逸らす。
明らかに怪しい反応だ。
「どうなの。ごまかしは無しだからね」
「う、うーん……それは……」
腕組をしたまま、何やら答えにくそうに眼を閉じる麻子。
「弱まっている……って自覚はあんまり無いのよね。最近じゃ、魔法なんて全然使ってないし。でも……」
「……でも?」
「透けて見えたって話は、気のせいじゃない……かも」
「……え?」
「わたしもわからないんだけど……ふと気付いたら、自分の身体が透けて見えたときがあって……3、4回ぐらい……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……大丈夫じゃないでしょそれ。やばいんじゃないの?」
「……やばいのかな?」
「かな? じゃないわよ! 麻子、何したの? 悪いことしたなら、正直に言いなさいって!」
「いや何もしてないけど!? というか……そんな滅茶苦茶な魔法ある? 存在そのものを消滅させるなんて、いくらなんでも悪魔的すぎるでしょ」
「で、でも……」
「それにもし本当に夢魔法のせいだとしたら、ちょっと透けるぐらいの魔法をかける意味って何? 意味不明じゃない?」
「それは……そうだけど……」
確かに、麻子の言うことはもっともだ。
目的が全く見えてこない。
でも、そんなことはどうでもいい。
あのとき透けて見えたことが、幻覚じゃないとしたら。
麻子の身体に『何か』が起きていることは確かだ。
それも、きっと良くないことが……
「……こうなってくると、夢魔法のことをモアに聞きたいところだけど……あいつ、肝心なときにいないのよね。余計なときはいるのに」
「あ、そうか……モアなら何か知ってるかもしれないわね……」
モアの気配なら、近くにいれば感じ取ることができる。
存在するかどうかもわからない夢属性の魔法少女を闇雲に探すよりも、まずはモアを探してみるべきだろうか?
でも、モアともしばらく会っていない。
アストラルホールの嫌われ者となった今……モアと、もう一度会うことなんてできるのだろうか……
「……ところで華蓮。話は変わるけど、来週の金曜って暇?」
「来週? 特に何も……」
言いかけて、口をつぐむ。
「……まさか、また面倒なバイトさせようって言うんじゃないでしょうね」
「違うって。来週デートしようよ」
「…………」
「……何、その嫌そうな顔」
「デートって言葉が嫌。みんな、何で同姓でもふたりで出かけることを『デート』って言うわけ? おかしいと思わない?」
「思わないけど」
「……はーそうですか」
思わないですか。
全く、これだから陽キャの感性は……理解に苦しむ。
「デートしたいなら、彼氏でも作って行けば」
「違うって。華蓮と行きたいの」
「……もしかして、わたしに気遣ってる? それなら心配無用よ。もう、モストなんかにびびるほどじゃない」
「あ……そう? いや、でもそれだけじゃなくてさ。華蓮と一緒にやりたいことがあるのよ」
「やりたいこと……?」
「うん、ちょっと待ってよ……」
麻子がスマホを操作する。
……なんだろう、嫌な予感しかしない。
「……あった、これ!」
「どれよ」
「リアル脱出ゲーム! これ行こうよ」
そう言って麻子が差し出したスマホには、脱出ゲームの広告が表示されていた。
全く想像していなかった提案をされて、数秒固まる。
脱出ゲームって……なんだっけ。
聞いたことはある。
「……いやそれこそ謎なんだけど。なんでわたしと?」
「華蓮、こういうの得意そうだなと思って」
「得意そうって……わたし、1回もやったことないんだけど」
「わたしは何回かやったんだけどさ、なかなか難しくて。華蓮なら、こういう頭脳系ゲーム得意でしょ」
む。
そう言われると、悪い気はしない。
「……ま、まあ? わたしなら、その辺の一般人に後れを取ることはないでしょうけど」
「じゃ、決まりね! 羽衣姉も来ると思うから!」
「はいはい……って、え?」
「ん? なに?」
「いや、ちょっと待ちなさいよ。白雪さんも? 来るの?」
「そうだけど」
(……デートじゃないじゃん)
「? 何か言った?」
「……なんでもないわよ」
わたし、白雪さんとはほとんど会話したことないんだって……
どんな顔して会えばいいのよ……




