モアサイドの一幕
アストラルホール――女神城。
城主が空席となったこの城は、異様なまでに静かだった。
女神が失踪した直後こそ城は混沌としていたが、それ以上に女神が失踪したことによる喪失感が大きかった。
そんな静まり返った城に、モアはいた。
そして、モアの前にもうひとり……
「久しぶりぽんね……ヴィラ」
「……よくのうのうと顔を出せましたね? モア」
「会いたかったぽん。ヴィラなら、ひとりでも女神様を探し続けていただろうから」
「耳が悪いのですか? 自分の立場はわかっているでしょう。史上最悪の魔王、黒瀬麻子を手引きした裏切り者……にも関わらず、どの面下げて来たのかと聞いているのです」
「……キミからそう言われるのは仕方がない。でも、ぼくがキミと敵対したいわけではないということは、よくわかっているはずだぽん」
「黙りなさい! あなたが! あの炎の魔法少女を連れて来たから……!」
「だったら……あのふたりに復讐でもするぽんか?」
「……あのふたりにまともにぶつかって……勝てるわけないでしょう……」
「…………」
俯くヴィラに、モアもすぐには言葉が出なかった。
「だからこそ……わたしはずっと消えた女神様の手掛かりを探してきた……!」
「けれど、結局手掛かりは見つからなかった……そうだぽん?」
「……何か、言いたげですね」
「ぼくも同じ。全くと言っていいほど、女神様の情報は見つからなかった……つい、最近まではね」
「つい最近までは……あなたも、ですか」
「心当たり、あるんじゃなかいかぽん」
「……最近……一部の地域で、人間の見る『夢』が話題になっているようですね?」
「やっぱり。キミもぼくと、同じことを考えているぽん」
「女神様が取り込んでいる、『闇の魔王』の影響が『夢』に現れている……そう考えるのが自然でしょう」
「ぼくもそう思う。何がどうしてそうなったのかはわからないけど……だとしたら、一体『誰が』そうなのか。それが問題だぽん」
「それを調べるのがわたしたちの役目でしょう。必ずいるはずです……『夢属性』の魔法少女が」
「女神様が、夢属性も持っている……その可能性は無いぽんか?」
「あり得ない、とは言い切れませんが……だとしたら、女神様が今も姿を見せない説明がつきません」
「んん……最も不安定な属性であるが故、幻とも言われている魔法属性……見つけるのは難しそうぽんね」
「光属性や闇属性を見つけるより容易でしょう。夢属性の魔法少女は、過去にも存在していたのですから」
「そりゃそうぽんが……心当たりが全くないっていうのが問題なんだぽん」
「神官が把握している魔法少女に、『夢属性』の魔法少女はいなかった……そういうことですね?」
「ああ。無意識に己の魔力に目覚めているのか、それとも意図的に隠れているのか……」
「無意識という可能性は低いでしょう。もしそうだとしたら、無意識に発動した魔法に女神様が巻き込まれていることになる。そんな偶然がありますか?」
「確かに。でも、夢魔法はほんとにおかしな魔法なんだぽん。夢うつつとはよく言ったもの……定義できないその不安定な魔法は、現実味が無いことまで実現してしまう」
「……必ず見つけましょう。夢属性の魔法少女を」
「ぼくはまた人間界に戻って、魔力を感知できないか探ってみる。……ヴィラはどうする?」
「わたしは……夢属性について調べます。闇属性とは違って、過去にも例がありますから」
「そうぽんね。それじゃ……何かわかったら連絡頼むぽん」
「あなたもですよ、モア」
「わかってる。ヴィラ……早まるなよ」
「……さあ。それはどうでしょうかね」
(モア……あなたは気付いていますか? この話には、大きな矛盾が含まれている。でも……だとしたら、あのときどうして……)




