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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~おわりの魔法少女編~
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お揃いの記念グッズ

 麻子が控室を出て行ってから、三十分ほど経っただろうか。

 芽衣から到着したと連絡を受けたわたしは、会場の入り口に向かった。


「……あ! 華蓮さん!」


 可愛らしい水色のワンピースに身を包んだ芽衣が、駆け寄ってくる。

 ロングヘアの上方の髪を後ろで結んで、お嬢様のような髪型。

 こうして見ると、人形みたいで可愛いと言う麻子の気持ちもまあわかる。

 ついさっきまで、メイルとして王政を敷いていた子とは思えない。


「芽衣、ほんとに来たのね。さっきはお疲れ様」

「華蓮さんも、今日はありがとうございました。あ、でも……それ以上はこれですよ」


 そう言うと、芽衣は口元に人差し指を当てた。

 内緒のポーズ。

 身バレしないように、メイルのことをここで話さないようにということだろう。

 わたしは黙って頷いた。


「それより華蓮さん、倒れたって聞きましたけど。もう大丈夫なんですか?」

「うん、もう全然平気。芽衣はこれから会場見て回るの?」

「ですね。華蓮さんは?」

「わたしも華奏……妹に何か買ってあげたいのよね、白雪姫のグッズ」

「華奏に? え、わたしも何か買おうかな……」


 芽衣と華奏は、実は仲が良い。

 たまにふたりで電話しているのを見たことがある。


「芽衣、何かオススメある? 白雪姫のことは詳しいでしょ」

「そうですね……とりあえず、一緒に見て回ります?」

「そうね、そうしましょ」


 芽衣と一緒に、会場内を見て回る。

 少し、会場にいる人数も減ってきただろうか。

 まだまだ客は多いが、余裕をもって売り物を見て回れるぐらいにはなっていた。

 綺麗な白雪姫が表紙の本がたくさん並んでおり、何度も足を止めて見てしまう。

 中の人を知っている身からすると、少し可笑しい。


「……あ、これなんかどうです?」

「良さそうなのあった? どれどれ……」


 芽衣が指さした先を見て、思わず目を見開く。


「……あほか! ダメに決まってるでしょうが! なんでこれ勧めた!?」

「え、可愛くないですか?」


 芽衣が指さした先にある本。

 その表紙には、裸の白雪姫とメイルが抱き合っている絵が描かれていた。


「いや絵柄は可愛いけど! そういう問題じゃないでしょ! 芽衣だってこんなの貰ったら困るでしょ!?」

「はあ、そうですか……? まだノーマルでいいと思いますが」

「の、のーまる……?」


 のーまるって何?

 のーまるじゃないのがあるの?

 ……いやいやそうじゃなくて!

 普通にダメでしょこういうのは!


「と、とにかくこういうのはダメ。もっと普通の……そう、ストラップとかそういうの!」

「えー……? じゃ、向こうのグッズスペース見に行きます?」


 不満そうな顔で、芽衣がわたしの後ろを指さした。


「あ、あっちがそういうの売ってるところなのね。行こ行こ」


 半ば強引に、芽衣の服の袖を引っ張りながら売り場に向かう。

 ……よかった、こっちは健全そう。

 むしろ、何で芽衣のやつ平然とあんなの見ていられるのよ……


「アクリルスタンド……へー、こういうのがあるんだ。白雪姫だけで種類がこんなに……」

「ユキさんは人気もありますから」


 そう言いながら、自分が持つ籠に入れる芽衣。

 いや、自分が買うんかい。

 わたしは正直、そこまで欲しいとは思わない。

 確かに可愛いけれど……これを貰っても困る。

 懸命にグッズを漁っている芽衣の傍をそっと離れ、売り場を歩きながら華奏が喜びそうなものを探す。

 これだけ色々売ってるんだから、「これだ」っていうものがあるはず。

 飾るだけじゃなくて、何かこう、実用的なものが……


「……あ。これ……いいかも」


 しゃがみ込み、丸みを帯びた小さなケースを手に取る。

 白雪姫モデルの……ワイヤレスイヤホンだ。

 何ともお洒落な代物である。

 華奏は入院生活が長かったとき、気を紛らわすためによく音楽を聴いていた。

 それに、実家暮らしだから配信を見るのにも役に立つだろう。

 だが……


「うげ、高……」


 値段を見て顔をしかめる。

 ワイヤレスイヤホンなんて、高くて当たり前だ。

 イベントのお土産として、気軽に買ってプレゼントできる代物ではない。


「……さすがにこれはないか……」

「ふむ……良いですねこれ」

「わ! い、いつの間に……」


 気付かないうちに、すぐ横に芽衣がしゃがみこんでいた。


「まあ良いんだけど……さすがに高いわよ、これは」

「バイト代、使えばいいんじゃないですか?」

「バイト代って今日の? え? 今日のバイト代全部これに持っていかれるってこと? うそでしょ?」

「ちなみにわたしは買います」

「え、えぇ~……」


 躊躇いなく商品を手に取る芽衣を横目に、もう一度値段を確認する。

 ……これを買ったら余裕の赤字だ。

 わたしの初めてのバイト代が……


「てか、芽衣は買いすぎでしょ……あんた、そんなに白雪姫のこと好きなわけ?」

「そりゃまあ……ユキさんは憧れでもありますし」

「憧れ?」

「あの人は、オリプロが全く知られていないときから所属しているメンバーなんです。今じゃすっかり遠い存在になりましたが……配信を始めたのも、あの人がきっかけだったりしますし」

「へー……その相手が麻子の従姉なんて、とんだ偶然もあるものね」

「わたしもまさかと思いましたよ。おかげでこうやってコラボまでさせてもらえて……光栄なことです」


 ふーん……光栄、ね。

 芽衣がそこまで言うのは珍しい。

 白雪さん、初対面がなあ……

 あんな乱れたパジャマ姿だったからなあ……

 あ、でも……わたしが鏡魔法の気配に怯えていたとき、心配してくれたっけ。

 さっきの雑談でも、視聴者を甘やかしまくる癒し系お姉さんしてたし……

 華奏がハマるのも、無理ないか……


「……これなら華奏、喜ぶと思う?」

「間違いなく。保証しますよ」

「……ほんとに?」

「ほんとですって。あの子、華蓮さんの想像以上にユキさんにハマってるんですから」

「……仕方ないわね……買うわ、これ。華奏のため!」

「華蓮さんのも併せて、2個買わなきゃですね!」

「いやそれは無理」


 何でそうなる。2個も買えるか。

 確かにこのイヤホンは可愛いと思うし、白雪姫のファンじゃないわたしでも欲しいと思う。

 でもね、金銭的に厳しいのよ。

 一人暮らしを始めたばかりで、お金は入用だ。

 無駄遣いしないようにしないと……


「おーい! 華蓮! 芽衣ちゃん!」


 元気な声が聞こえ、顔を上げる。

 カジュアルなシャツとスキニーパンツに着替えた麻子が、こっちに向かって走ってきた。

 芽衣とは正反対のボーイッシュな恰好。

 てか麻子は本当に足長いわね……羨ましい。


「やっと終わったー! わたしもあがり!」

「朝からお疲れだったわね」

「いやほんと疲れたぁ……ま、楽しかったけどね。ふたりは良い買い物できた?」

「今、これを買うところですよ」

「え、なにこれ。羽衣姉……じゃない、白雪姫のイヤホン? 可愛いじゃん! わたしも買う!」

「……ん? え? 麻子も?」

「華蓮も買うんでしょ?」

「え、いや……わたしはその……」

「華蓮さんは華奏のお土産にするみたいですよ」

「おーいいじゃん。魔法少女みんなでお揃いってことね。羽衣姉に教えてあげよ」

「…………」

「? どしたの華蓮?」

「……なんでもないわよ」


 乾いた笑いと共に、わたしはふたつイヤホンを手に取った。

 ばいばい、わたしのバイト代……

 ま、まあ……こういうのは記念よね……

 明日から節約すればいい話。

 隣の部屋に麻子が住んでるんだし、最悪どうにでも……


「……えっ? あれ?」


 ……見間違い、だろうか。

 目を擦り、もう一度視線を凝らす。

 今、一瞬……

 麻子の肩が、透けて見えたような……


「……やっぱ、慣れないことして疲れてるのね……」


 大きな欠伸をすると、わたしは会計に向かう麻子と芽衣の背中を追いかけた。

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